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169話 人物相関図が複雑すぎる

「……なんでエルフがここに」

 ミスティス先生を見るなり、眉間にシワを寄せるアイスくん。

 襲われ続けているからか、きっと印象が良くないのだろう。

 例え関係のないエルフだとしても。


 触れているアイスくんの体温も少しずつ下がり始めている。

 戦闘モードへと意識が傾き、魔力のオーラが滲み出ているからだ。

 このままだとマズい。


「アイスくん。ミスティス先生って言って、私に座学と魔法を教えてくれた家庭教師だよ。他のエルフは知らないけど、先生は優しくて素敵な人だから大丈夫」

「へぇ……」

 徐々に魔力のオーラはおさめてくれたものの、全く解ける様子のない警戒心。

 初対面じゃ、さすがに無理かな……。


「リリシアちゃんは大きくなっても変わらずね。先生、とっても嬉しいわ」

 慈愛と照れ臭さの入り混じった微笑みを浮かべるミスティス先生。

 そう言う先生こそ少しも変わらない。

 暖かくて綺麗で、春の陽射しのように穏やかな雰囲気のままだ。

 結局、未だにフローネさんのことは先生に話せていない。

 ナギサくんの身を守る術を優先していたこともあるけれど、この優しい笑顔を壊してしまいそうな気がして、怖いのだ。


 ……でも隠したままじゃいられないよね。近い内には伝えなきゃ。


「いいからリリを放せ」

 考え事をしている間に聞こえてくる、不機嫌MAXなソラの声。

 ソラはズンズン大股でやって来ると、噛み付かんばかりにアイスくんを睨み付け呻った。

 こっちはこっちで警戒モードだ。

「リリの服がボロボロなの、お前の所為か」

「は? そんなわけないじゃん」

「違うよ、ソラ! 全く関係ないから」

「……本当?」

 誓って、と即答すれば少しだけソラの雰囲気が和らぐ。

 とはいえ、アイスくんを睨み続けるのは変わらない。


「シアちゃん、この子なに?」

「あ、うん。小さい時からずっと一緒にいて、名前はソラ」

「獣人……にしては気配が妙だね」

「オレは天狼だ」

「天狼? キミも普通じゃないのかな。獣の部分が少な過ぎる」

「凄い、正解!」

 博識だなぁと尊敬の眼差しを送れば、ニコリと受け止めたアイスくん。しかし次の瞬間には冷ややかな笑みに変え、ソラに挨拶をした。

「どうも。ボクはアイシュクラス。そこにいるギュオホムラスの弟だよ。シアちゃんの従魔になったから、よろしく」

「! リリ、なんで!?」

「や、やむにやまれぬ事態がありまして……」

「ならオレもそうして。不公平だ」

「え、」

 なぜソラまで率先して縛られたがるの。甚だ疑問。


「早く」

 アイスくんの腕を押し退けるようにして催促してくるソラ。

 ち、ちょっと色々待って欲しい。

「やだ、貴方ギュオくんなの!? 本当に!?」

「近いっす!」

「人型になれる竜がいるとは聞いたことがあったけれど、まさかこの目で見られるなんて……!」

 一方、向こうでは夢見る乙女みたいな仕草でホムラくんに迫るミスティス先生と、たじたじになっているホムラくん。

 うん。なにこのカオス。


「……もういい。貴様らまとめて焼却してやる」


 ついに兄様の堪忍袋の緒が切れたのか、一瞬にして大火力の青い炎が辺り一帯を覆い尽くす。

 が、咄嗟に氷魔法で対抗し、ギリギリ相殺させることに成功した。

 防御が間に合わなかった先生たちは茫然と固まっている。

「リリ、邪魔をしないでくれ。今のでこいつら全員が役立たずだと証明された。処分する」

「兄様が強過ぎるのです!」

 いきなりメテオみたいな攻撃されたら不可避だよ!

 ついでに私の魔力残量がいよいよヤバい。


「死んだかと思ったわ……。リリシアちゃん、ありがとう」

「なるほど、不要と見なされたら即処分なんだ。兄貴よく生きてたね」

「どういう意味っすか!」

「……またリリに守られた。もっと修行頑張らないと」

 とりあえずションボリしたソラの頭を撫でまくった。心が満タン。


「そうだ、強過ぎる兄様には不要かもしれませんが、渡したいものがあるんです」

「? 俺にか」

「はい。アイスくん、ちょっと下ろしてくれる?」

「アレ渡すの? 要らなくない?」

「御守りとして持っていて欲しくて。たった一人の兄妹だし……」

 任務に行ってしまえば顔も見えなくなる。それがいつも心配なのだ。

 だから渡せる内に渡しておきたい。

「……了解」

 兄妹というワードに納得したのか、放してくれたので兄様の元へ走って行く。

 近付いた途端に猫の子よろしく捕獲され、また同じ体勢に逆戻りした。

 もう何も言うまい。話が進まないよ。


「兄様、これ受け取ってください」

 空間魔法で白竜姫の泪を取り出し、兄様の首に掛ける。

 竜神妃様の細工技術は見事なもので、シンプルなのに気品溢れる仕上がりになっている。しかも男女どちらが付けてもおかしくない。

「リリ、これは?」

「探していた白竜姫の泪です。身に着けていれば結界のように、あらゆる攻撃から守ってくれます。あまりにも負荷が莫大な攻撃になると、耐え切れず砕けるらしいですが」

 竜神妃様からそのことだけは注意された。

 並み大抵の事では壊れないが油断は禁物、とも。


「り、リリシアちゃん!? どこでそんなもの手に入れて来たの!?」

「えーっと、」

 言ったらアイスくんが嫌がるかなと目線で確認すれば、案の定、首を横に振り拒否される。

 やはり中々に溝は深い。

「すみません、ミスティス先生。入手場所は言えません」

「……そう。残念だわ」

 何かを察したのか、先生はそれ以上追及したりはせず、眉尻を下げ微笑んだ。

 ごめんね、先生……。


「リリ。これはリリが持っていろ。気持ちだけで充分だ」

「いえ、まだありますし、一つは兄様の分だと決めていたのです。どうか持っていてください」

 譲らず見つめ合うこと数秒。

 折れない私の気持ちを受け止めた兄様は、ふっと表情を和らげた。

「分かった。大事にする。ありがとう、リリ」

 言い終わるや、人目もはばからず甘く口付けてくる兄様。

 ふわりと触れるくらいの優しいキスが、頬ではなく唇に落とされたのだ。

「っ!?」

「ああーー!! 兄さん! それはスキンシップの域を超えてるっすよ!?」

「そうだ、やりすぎだぞ! オレだって我慢してるのに!」

 ソラ!? 何を言い出すの!?


「黙れ。外野は指を咥えて見ていろ」

「はいはい。()り合うならシアちゃんはこっちにおいで。危ないから」

「お前が一番油断ならない。駄竜弟」

 伸ばされたアイスくんの手をバシッと叩き落とす兄様。

 両者の間に火花が散る。

「か、解散! 私は部屋で休みたいです!」

 これ以上ここにいたら戦争になる予感しかしないので、無理矢理ぶった切った。

 こう言えば優しいみんなは撤収するはず。本当に休みたいのもある。

 色々と限界です……!


「……あの、兄様?」

「仕方ないな」

 拒否されることもなく、やけに素直に解放してくれる。

 まさかこの後、抗争をおっ始めようとか思ってないよね……?

「リリ。俺が壊した部屋の修復は、先程念話でメルローに頼んである。もう直っているはずだ。ゆっくり休むといい」

 驚愕のお知らせに恥ずかしさもぶっ飛んだ。

 メルローに『不可能』の二文字はないのだろうか。


「シアちゃん。やっぱり邪魔にならないよう、ボクも兄貴たちと一緒にいるよ。その方が休めるでしょ?」

「う、うん。ありがとう」

 アイスくんもやたら聞き分けがいい。不安だ。

「アイが率先してオレといようとするなんて、どういう風の吹き回しっすか!?」

 ホムラくん戦慄してるし。


「ソラ、先生。訓練の邪魔してごめんなさい」

「いや。むしろこっからが本番」

「やめなさい! ソラちゃんじゃ、まだ無理! 死ぬわよ!?」

 瞳をギラギラさせているソラを羽交い絞めにする、ミスティス先生。

 嫌な予感が確信に変わった。どうしよう。

「大丈夫よ、リリシアちゃん。いざとなったら魔王を召喚するわ……」

 先生が若干げんなりしつつも提案してくれたので、それに甘えることにする。

 父様、もしもの時は頼みましたよ!

 執務室で忙殺されているだろう父様に念を送り、この場を後にする。


 自室に戻れば本当に寸分違わず元通りになっていた。凄すぎて目が冴えちゃうじゃん。

 ふかふかベッドに潜り込み夢心地になった頃、何かが激しく爆発する音がしたのは気のせいだと思いたい。

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