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168話 契約は慎重にしないと思わぬ事態を招く

「あの、従魔にまでしなくてもよくないですか?」

「転移魔法が使えない以上、いざという時に役に立たないだろう。今この場に居ない駄竜のように」

 そう言われると困る。

 確かに契約を結べば、いつでも喚び寄せられるんだけど。


「ねえ、兄貴はどこにいるの?」

「国の最東端からこちらへ向かっているはずだ。俺に同行して視察中だったからな」

「なぜいつも置いてくるのですか……」

「一刻も早くリリに会いたかったのだ。駄竜に構っている時間はない」

「ぁう、」

 甘い微笑みと殺し文句に居た堪れなくなり、兄様の肩に顔を埋めた。

 良い匂いが強くなって落ち着くどころじゃなかった。兄様の完璧イケメン!


「うわぁ。魔人の兄さんがめちゃくちゃ勝ち誇った顔してくる。でもいいよ。これからはボクがその役目になるから。従魔になるんだし」

「……分を弁えないと殺すぞ」

「はいはい」

「真面目に聞いているのか貴様……?」

 なんか本人を差し置いて従魔になる話がまとまってる!


「兄様、私はアイスくんを従える気はありません。とても強いので頼ることはあるかもしれませんが、命令ではなく友人としてありたいのです」

「では追い出すしかないな。戦力外は不要だ」

「酷い!」

「シアちゃん。そんなに難しく考えないで、形式だけのものと思えばいいよ。そうしたらボクはここにいられる。ね? お願い」

 そんな捨てられそうな子犬みたいな目で訴えないで欲しい。目と胸が潰れる。

「うぅ、どうしたらいいの」

「もしかして、シアちゃんはボクを追い出したい……?」

「まさか!」

「だったら決まりだね」

「……ハイ」

 毎回こんな感じのやり取りで丸め込まれる私。駆け引き向いてなさ過ぎか。


「本当に形だけだからね? 命令もしないし、変わらずにいてくれる?」

「うん。変わらず傍にいることを誓うよ」

 なんだかプロポーズみたいな返事に聞こえるのは、ここ最近みんなから受ける甘々攻撃のせいなのだろうか。

「早速やるぞ。リリ、やり方は知っているか?」

「一応。本で読みました」

「そうか。ならば話は早い。【痛覚麻痺】」

 兄様は私を腕から降ろすと、麻酔と同じ効果がある精神干渉の魔法を掛けてくる。

 従魔の契約には血が必要で、これから私が肌を傷付けると分かっているからだろう。

 イノリちゃんに渡してちょうどストックも切れているから、非常にありがたい。

「ありがとうございます。兄様」

「こればかりは代わってやれないからな」

 優しく頬を撫でてくる兄様にお礼を言い、アイスくんに向き直る。


「じゃあするけど、契約の証が身体に残るよ……?」

「気にしないで」

「……分かった」

 爽やかな笑顔に押し負け、空間魔法で愛剣を取り出し自分の指先を切った。

 剣を再び空間に納め、アイスくんの手を取る。

 滲んでいた血がアイスくんの手の甲に垂れたタイミングで、詠唱を開始した。


「……【この血に於いて我に従う事を命ず。以後この命がある限り、縛ることを許すものと心得よ】」

 言い終えると同時。

 私とアイスくん、それぞれの足元に赤い魔法陣が現れる。

 その二つが融合して一つになると、甲に落ちた私の血がアイスくんの体内へ染み込み、細かな鎖の紋様となって手首を一周した。


 まるで血の手錠みたいに。


 枷を連想させる紋様が肌に馴染み色が少し落ち着けば、魔法陣は一際大きく発光し霧散する。

 これで契約は無事終了。

 タトゥーのように残った従魔の証は、私が死ぬか解除しない限り、一生消えることはない。

 ホムラくんの前足にも、兄様が付けた同じものがある。


「これでボクはシアちゃんのものだね」

「形だけだよ?」

「そんなわけないじゃん。ボクは最初から所有される気満々だよ。既成事実を作っちゃえばこっちのもの」

「騙された!?」

 アイスくんの策士ぶりと私の単純さが酷い。


「せいぜい所有物らしく、リリの為に身を粉にして働け」

「任せて。おはようからおやすみまで、シアちゃんに尽くすよ」

「過度に接触する必要はない。人型でいる必要も。さっさと戻れ」

「嫌だよ。それじゃお城の中に入れないし」

「入らなくていい。城の警備は万全だ」

 バチバチと火花を散らす両者。っていうか。

「ナギサくん――執事もいるし、サポート云々とかじゃなく、自由に過ごして欲しいんだけど……」

 そもそもアイスくんは、イノリちゃんラブじゃなかったのだろうか。

 私の勘違いだったの?


「じゃあ自由にシアちゃんのお世話をするってことで。さ、部屋に帰ろうか。疲れたでしょ」

「うわぁっ」

 首を傾げ唸る私を軽々と抱き上げるアイスくん。

 兄様と同じく腕に乗せる形で、至近距離から微笑んでくる。

「部屋まで送っていくよ。ボクを治す為に、魔力をかなり消費させちゃったみたいだし」

「……バレてたんだ」

「まあね。そうでなくても、移動方法はこれでいいかなって思ってる」

 よくない! 過保護レベルが天元突破してる!

「おい、貴様……」

「またね魔人の兄さん。今後とも兄貴をよろしく」

 不穏な空気を纏う兄様を無視し、言い逃げの様にアイスくんはスタスタ歩いて行く。

 また抗争勃発かと思ったら、ホムラくんが両者の間にズダンッと飛来した。


『兄さん酷い! なんで毎回置いてくんすか!?』

「……黙れ、駄竜。お前に構っている暇はない」

『え、機嫌悪っ。何があった――あれ? アイ? なんでここに?』

「やあ兄貴。ボクもここに住まわせてもらうことになったから。シアちゃんの従魔として」

『はあ!? なにそれズルい!』

 プンプン怒って地団駄を踏むホムラくん。可愛いのだが地面が割れちゃう……。


「じゃあ、そういうことで」

「ちょ、話は終わってないっすよ!」

 人型になったホムラくんがアイスくんの肩を掴んで引き止めると、兄様がいきなり魔力を爆発させた。

「ぅあっぢい!! 兄さん、何すん――」

 ちょうど盾になった格好のホムラくんが涙目で兄様に抗議しようとして、みるみる顔が青ざめていく。

 地獄の大王のようにお怒りの兄様がいたからだ。

「に、兄様?」

「……貴様ら兄弟そこへ並べ。やはり目障りだ。跡形もなく消してやる」

 どんだけ人型のホムラくん、あとアイスまで嫌いなの!?

 しかし事態はさらにややこしくなる。


「――リリ。そいつ誰?」

「あら、美形」

 騒ぎに様子を見に来ただろう、訓練中のソラとミスティス先生が加わったのだ。

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