15話 非合法なプレゼントは困る
もう軽くパニックだ。
寝起きで思考が追い付かない。
しかし目は丸くなってクークー眠る天狼の子ども……長いから子天狼でいいか、に釘付けである。
ぴるぴると動く小さな耳、呼吸の度にふわふわと上下する柔らかそうな身体、大きくなるのを予感させる太い脚先の裏にある肉球はピンクでぷにっとしている。
も、萌え死ぬ……ッ! 心臓発作で死ぬ!!
子天狼を起こさないようベッドをゴロゴロと転がる。
完全に挙動不審だがそれぐらいしないと衝動が治まらない! やばい!!
「御目覚めでございますか。リリシア様」
「@:*☆&!?」
いきなり現れた執事のメルローに悲鳴を上げそうになった。
「お、おはよう。メルロー」
「おはようございます。今日は朝から御元気でございますね」
そんな微笑ましいものを見るような目で見ないで恥ずかしい……。
「扉を何度かノックしたのですが、物音がするのに御返事がないようでしたので、失礼ながら入らせて頂きました」
「そうだったんだ。ごめんね。気付かなくて」
「いいえ。随分と楽しそうにしておいででしたね」
「お、お行儀悪くしてごめんなさい」
「ふふ。旦那様には内緒にしておきましょう」
「メルロー……!」
「今度一緒にやろうなどと本気で仰るでしょうから」
父さま可愛すぎか。
いや今はそんなこと言ってる場合じゃなかった。
「メルロー。この子って」
「はい。旦那様が今朝早く御出掛けになり、連れ帰って来られました」
なんてこった。やっぱりか。
「……そ、それはつまり誘拐的なやつだよね?」
「いいえ。群れを探し出し『一匹寄越せ』と一言仰っただけのようです」
アウト―ッ!! もうそれ人身御供!!
魔王に言われて逆らえるわけないじゃん! 強制力、二百パーセントだよ!
「それにしてもなんで天狼を……」
魔物の種類は別段少なくないはずだ。ぶ厚い図鑑が何冊もできるくらい。
私だって昨日始めて天狼の存在を知ったくらいだ。
…………ん? 昨日?
ちょっと待って。嫌な予感しかしない。
冷や汗ダラダラな私にデキる執事はにこやかに答えをくれる。
「リド君とセリさんから、リリシア様が天狼を大層お気に召されていたとご報告を受けていらっしゃいましたので、連れて来られたのでしょう」
私 の せ い か。
「……父さまは今どこ?」
「執務室にいらっしゃいます」
「えっ。今何時?」
「光の十刻にございます」
よりによって寝坊してる。
「よく眠っていらっしゃったようですので、自然に目が覚めるまで起こすなと旦那様と奥様が」
「そっか……。シーツとか替えなきゃいけないのに申し訳ない」
「滅相もございません。リリシア様ぐらいの御年は眠るのがお仕事でございます」
それ赤ちゃん! もうちょっとデカいよ!
「着替えたら父さまに会いに行きたいんだけど、ダメ?」
「畏まりました。連絡を通しておきましょう」
「ありがとう。それとこの天狼の子、触っても平気かな……?」
「戒めの首輪を着けております。危害を加えようとしたら雷魔法が発動しますので、大丈夫でしょう」
全く大丈夫くない。アカンやつや!
無理矢理連れて来られてそんな可哀想な仕打ちある……?
「では、わたくしは旦那様に取り次いで参ります。リリシア様はお着替えください」
「……はい」
メルローは後ろに控えていたメイドさんたちと選手交代。
私は手早く身支度を整えた。




