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162話 不穏分子

「ちょっ、落ち着いてください!」

 咄嗟に身体の周りに結界を張り攻撃を防ぐも、息つく間もなく鋭い鉤爪や魔法の乱舞が繰り出される。

『チッ! 結界とは厄介な!』

『全然、攻撃が通らねぇぞ!』

『怯むな! その内に綻びる!』

『『『おう!!』』』

 完全に私を敵認定した竜たちは、こちらの話などまるで聞かず止まる気配がない。

 そればかりか何の対策もせず上空でむやみやたらに魔法を使うので、地上に流れ弾が当たり始めた。

 距離があるため威力は多少落ちるものの、それでも負傷者を出すには充分すぎるほど。


「下! 下を見てください!」

 眼下には悲鳴を上げて避難する住人の姿。

 しかも純粋な竜種より防御力が劣る、竜人の女性や子どもが逃げ遅れている。

『同朋ならこの程度で死にはしねぇ!』

「そういう問題じゃないですって!」

『アンタを今ここで殺す方が、後々被害が少なくて済む!』

「だから誤解だって言ってるじゃないですか!」

『うるさい黙れ! 甘言にはウンザリなんだ!!』

 緑竜が最後に叫ぶと、口から凄まじい勢いの竜巻が吹き荒れた。

 私に直撃するも結界を破壊されるには至らず、やや軌道を変えて地上へと向かって行く。


 その先にいるのは小さな子ども。

 親とはぐれたのか不安そうにキョロキョロと何かを探し求めている、竜人の男の子だ。

 上空から迫る脅威には全く気付いていない。


「まずい……っ!」

 全速力で急降下し、その子を腕の中に囲い込む。

 直後に轟音と共に吹き飛ばされる辺り一帯。バキバキと音を立ててログハウスが見る影もなく破壊された。

 もし直撃していたなら、子どもでは即死ものの攻撃だっただろう。

「……間に合った」

 腕の中には変わらず伝わってくる鼓動と体温。血の匂いもしない。

 よかっ――ん? あれ? 結界をこの子に張った方が早くて確実だったのでは?

 必死過ぎて何も考えてなかった。やっちゃったよ、これ。


「えっと、大丈夫……かな?」

 知らない人にいきなり抱きつかれた恐怖もプラスしてしまった男の子に尋ねれば、宝石みたいな黄緑の瞳が揺れた。

 瞬き後には縦長の瞳孔が涙の膜で潤っていく。

「ふえぇぇ……」

「ご、ごめんね! 怖かったね!」

 より怖がらせてどうするんだ私!

 オロオロしていると首元にぎゅっと回される両手。

 縋るようにして必死に抱きつかれ、男の子はすんすんと鼻を鳴らす。

 ……ハグされたって事は、救出方法はセーフ? だったらしい。一安心……。


 いや、ちょっと待って息が。

 人型に近いタイプでも、さすがは竜人と言うべきか。子どもとは思えない力強さで首が締まっていく。

 あと両側頭部から生えている鹿みたいな角が顔に刺さりそうで危険。


「ミラク!」

 彫像のごとく動けないでいると、悲痛な女性の叫び声がした。

 お、お母さんですか!? ヘルプお願いします!


「ママ!」

「ごめんね、ミラク! ママが手を離したばっかりに!」

 男の子――ミラクくんは私を解放するや否や、駆け寄ってきたグラマラスな女性にひしっと抱きついた。

 うんうん、感動の再会だ。

「ありがとうございます! どなたか存じませんが、息子の命の恩人です!」

「とんでもない。巻き込んでしまって申し訳ないぐらいで……」

 もっと上手くやれない自分が不甲斐ない。

「ママ、このおねえちゃんすごいんだ。まほうがきかないの」

 まだ若干涙目のミラクくんが、私を励ますようなタイミングで褒めてくれる。

 ……なんて良い子なんだろう。おかげで元気百倍出そう。


「とてもお強い方なのですね。そうだわ、何かお礼を――」

「いえ、どうかお構いなく。この子のケアをしてあげてください」

「ぼくはげんきだよ?」

 不思議そうに首を傾げるミラクくん。健気可愛くて尊いが致死量……ッ!

「そっか。じゃあ、今度はお母さんとはぐれないようにできる?」

「まかせて!」

「うん。お願いね」

 元気に返事をくれたミラクくんと、何度も頭を下げてくれるお母さんと別れ上空へ戻る。

 そこに待ち受けていたのは気まずい顔をした十数匹の竜たちだ。


「何か弁解はありますか?」

『『『…………』』』

「ないですね。ちょっと並んでいただけますか」

 お願いすれば、一瞬ビクッとなった竜たちは従ってくれた。

「人の話は聞いてください! 小さな子どもが死ぬところでしたよ!」

『『『…………』』』

「ここで私を殺した方が被害が少ない、でしたっけ。ゼロを目指しましょうよ!? 最初から犠牲ありきは愚策ですよ! 巻き沿いを出した私も大概ですけど!」


『いいや、リリシアちゃんは悪くねぇよ』

 突然、擁護する言葉と共に現れる一匹の大きな竜。

 他を圧倒するような雰囲気を纏った、竜王様だ。


「り、竜王様」

『よう。よく来たな』

 竜王様は軽く挨拶してくれると、私を背に庇うように前へ出た。

『なんか騒がしいから様子を見に来たら、集団で客人を襲った挙げ句に子どもを助けられている。街はぶっ壊れてるし、どういう了見だこれは』

『っ、それは……』

『しかも竜神公認で来た客人だぞ。反逆と捉えていいのか?』

 昨日とは打って変わり、威圧的とも取れる態度で竜たちと話す竜王様。

 まるで別人みたいだ。


「あの、竜王様。皆さんは私が客だと知らなかっただけでは……」

『いや。リリシアちゃんは鱗のピアス、今日も付けてるだろう? そこから竜神と竜神妃の魔力を感じるはずだ。分からない程こいつらはボンクラじゃねぇよ』

 な、なるほど。

 竜王様がこの間、目聡く気付いたのもそういう理由か……。盲点。

『オレたちは竜神様と竜王の為を想って――!』

『ならもう少し考えて行動しろ。犠牲の上に成り立つ善意なんざ迷惑だ』

『『『…………』』』

 バッサリと切り捨てる竜王様に、口を噤むしかない竜たち。

 多分、竜王様は敢えて厳しい言い方をしているんだと思うけれど、これは効く。


『……まあ気持ちはありがたく受け取っておく。二度とするなよ』

『『『竜王……!』』』

 反省させるためか、たっぷり間を置いてフォローした竜王様。

 その言葉に下げていた顔を勢い良く上げた竜たちは、一様に羨望の眼差しで竜王様を見つめた。

 どうやら上手くまとまったらしい。


『リリシアちゃん、すまん。同朋が許されないことをした』

「いえ、私は別に。それよりエルフが善人ぶって近付く……とか聞いたんですが、何かあったんですか?」

『ああ。流行り病に苦しむ人間を助ける為の薬を開発したいから協力してくれ、つって持ち掛けてきたことがあんだよ。結局は自分らが素材として欲しいだけの、嘘だったんだが』

「なっ、」

『善意を盾にするなんて卑怯だよなぁ。そん時は軽く争って前の住処はパア。んで、奴らも気軽に来れない上空になったってわけ』

「エルフたちはどうしてそこまで……」

『知的好奇心が過ぎるんだよ。持て余すほど寿命が長いのも悪ぃのかもなぁ』

 とんだサイコ野郎じゃん。あんな綺麗な見た目しといて。


「それで私もそういう輩だと疑われたわけですね」

『……すまなかった』

 竜巻を起こした緑竜まで神妙な顔で謝ってくる。

 残りの竜たちも同様に頭を下げた。

「私のことはいいです。でも下で被害に遭った方たちには、ぜひ謝罪を」

 竜たちは互いに顔を見合わせると、次々に地上へと降りていく。

 私も破壊された建物の再建を手伝わせてもらおう。


「竜王様、諌めてくれてありがとうござました。後で竜神様たちのところへ伺わせてもらいます」

『お、おい。どこ行くんだ?』

「え? 下で作業を手伝おうかと。無関係ではないですし」

『駄目だ。オレの側室にそこまでしてもらうわけにはいかん!』

「いつそんな話に!?」

 すっかり残念な竜に戻ってしまった竜王に追い掛けられながら、私も地上へと降りた。

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