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159話 すれ違う想い

「ど、どうっすか」

 恐る恐るホムラくんが問い掛ける。

 兄様は少しの間ジッと観察すると、にべもなく言い放った。

「俺より体格が良いとは腹が立つ。目障りだ」

「酷いっ!!」

 ガーンとショックを受けるホムラくん。若干涙目だ。

 確かに酷い……。


「兄様、ホムラくんは体格の違いからずっと淋しい思いをしていて、人型になるのが念願だったそうなんです。もっと優しい言葉とかないですか……?」

「リリちゃん……!」

「悪いがリリ、筋肉達磨にくれてやる優しさなど無い」

「そ、そこまでゴツくないっすよ! リリちゃんは褒めてくれたもんね!」

「……なんだと?」

 うん、人型ホムラくんは決してゴリではない。女子が好きな適度さの範囲内。

 むしろ垂涎物である。


『――お前ギュオなのか……?』


 微妙な空気に包まれた中、急に戦闘をやめた兄様を咎めるでもなく、竜王様が近付いてきて驚愕した。

 結界の外なのに亜種じゃない竜王様の言葉が理解できるのは、貰ったピアスのおかげだろう。

 竜神様と竜神妃様に改めて感謝した。


『その姿、秘術を教えてもらったんだな』

「そうっす」

『だが俺の方が色男だぞ。残念だったな! ハッハッハ』

 言うと同時、姿形が変化していく竜王様。

 あっという間にホムラくんよりも更に逞しい、金髪の美丈夫になった。

 ……い、イケおじ!

 しかし魅惑の美貌より気になったのは、竜王様がちゃんと服を着ている点。

 普通、獣の状態から人型になると全裸のはず。ソラもレオンさんもそうだ。

 私的にはありがたいけど、どうなってるの……?


「なんでオヤジまで!?」

「人型になれば、より多くの女性が口説けるからな。若かりし頃、先代竜神に頼み倒して教わったのだ」

「オヤジ……」

 残念なイケおじだった。

 喋ると残念なのは遺伝なんだね、ホムラくん……。


「茶番に付き合っている暇はない。終わったのなら帰るぞ、リリ」

 人型竜王様を見ても変わらず一人しらっとしている兄様が、淡々と帰還準備に入ろうとする。

 静観していた竜たちの方が竜王様にギョッとしてるってどういう事。

「ちょ、ちょっと待ってください、兄様。あの、竜王様。変化と同時に服を着る仕組みはどうなっているんですか?」

「リリシアちゃん、オレの裸体に興味が……!?」

「激しく誤解された! いえ、着衣の秘訣を――」

「照れなくても大丈夫。俺はいつでも歓迎だ。優しくするぞ……?」

「はい?」

「黙れカス王」

「あっぢい!!」

 ゴウッと竜王様を問答無用で焼き払う兄様。慌てて氷魔法で鎮静化させた。


「兄様、いきなり何するんですか!?」

「生かしておくと害にしかならないだ」

「言い過ぎですよ……」

「いやその通りっす」

 ホムラくんまで。


「酷いな息子よ。まあいいか。リリシアちゃんはありがとう。何だっけ? 服の仕組みだっけ?」

 竜王様は気にしなさすぎだと思う。家のことといい。

「何の魔法なんですか? できたら教えて欲しいのですが」

「おう、いいぜ。これは武装転換っていう、人型化に付随する秘術の一つだ。いきなり全裸だと驚かせてしまうからな」

「! それって私にも使えますか?」

「残念だが無理だろう。秘術は全て古竜語。魔人に発音できるとは思えないが」

「う……」


 儀式で聞いた古竜語の詠唱は、言われた通り難解だった。

 言語チートを持つ私でも、意味を成さない音にしか聞こえなかった程には。

 ……努力で何とかできそうな次元じゃない。

 もし可能なら魔道具化して、ソラに付けてもらおうと思ったのに。


 ホムラくんに手伝ってもらう最終手段が頭にぼんやり浮かんだところで、竜王様が意外な案を口にした。

「必要なら竜神妃に頼んでアイテム化してもらえばいい。そのピアスみたいに」

「え」

「そういうの作るの得意だから、あの人」

 あっけらかんと付け足される。

 そんな気軽に言われても……。

 というか、ピアスに気付いたことに驚く。目聡すぎない……?


「リリ。これは目当ての物でなはいようだが、目的は果たせたのか?」

 竜王様の指摘を受け、兄様が私の耳にあるピアスに触れ訊いてきた。

「……すみません。せっかく連れて来てもらったのに、もうこの世にはないそうです」

「そうか。残念だったな」

 慰めるように、するりと移動した手で頬をくすぐられる。

 兄様を見ればさっきまでのポーカーフェイスはどこへやら。とても優しい眼差しを私に向けていた。

 蕩けるようにトロリと甘い金の瞳に、思わず絡め捕られてしまう。

「に、いさま……」

「おーい。俺らもいるんですけどー。イチャイチャしないでー」

「オヤジ!? 死にたいんすか!?」

 竜王様のツッコミで我に返る。ひ、人前で見つめ合ってしまった!


 ……でも、あの兄様は反則だよ。


「やはり殺しておくべきだったな」

 一転して殺意を漲らせる兄様に恥ずかしさも吹き飛んだ。

 ボーっとしてたら死人(竜王様)が出る!

 瞬間的に兄様を身動きできないようホールドした。

 あれ、なぜ魔法に関係ない物理に出た私。

 でもホムラくんが無言で首をブンブン縦に振るサインを私に送ってくるので、効果は多分あるのだろう。あると信じたい。


「おぉ怖っ。で、リリシアちゃん。どうする? なんなら俺から竜神妃に頼んどくが?」

「いえ、もし頼むとしたら、顔を見て直接自分の口で言わなければ駄目だと思うので。お気遣いありがとうございます、竜王様」

 人づてにお願いするのはよくない。

 必要なら自分でちゃんと言わなくちゃ。

「ん、分かった。リリシアちゃんは可愛い上に礼儀正しいな。そこの傲岸不遜な破壊神と本当に兄妹なのか?」

「血の絆で結ばれている仲だ。もういいか、リリ」

「は、はい」

 赤い糸みたいな言い方に聞こえるのは、私が意識し過ぎなのだろうか……。


「竜王様、ではまた」

「おう。いつでもおいで」

 こうしてまた一つ新たな情報を得て、竜の住処を後にお城へと戻った。


   ***


「――いつまでお前はその格好なのだ」

 庭に到着した途端、兄様が不機嫌にホムラくんを見遣る。


「まだ当分このままでいるっすけど……」

「その姿で見下ろされると不愉快だ。元に戻れ」

「に、兄様。その言い方はあんまりですよ」

 今日の兄様はいつもより意地悪だ。

 いつもは何だかんだ言って楽しそうな雰囲気があるのに、今はちょっと敵意すら感じる。

 声が刺々しい。


「…………オレ、ほんの少しくらいは驚いたりしてくれるかなって期待してたんすけど、間違ってたみたいっすね」

 俯き悲しそうに呟くホムラくん。

 あまりに普段と違う姿に、思わず駆け寄って手を取った。

 熱いぐらいに感じる体温の手は、少しだけ震えている。

「ホムラくん……」

「っ、兄さんのバカ!! もう知らないっす!」

 叫ぶなり私の手を振り解くようにして、ホムラくんは上空へと翔け出す。


 瞳の端に涙を浮かべて。

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