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158話 代わりに得たもの

 結局、よく知らない竜人の血を耐えかねてすぐ吐き出してしまったイノリちゃんは、後日改めて儀式をすることになった。

 今度は約束通り私の血で挑戦するのだそう。

 一度で諦めない辺り、確かにアイスくんが言うように意外と負けず嫌いなのかもしれない。


「では今日は帰ります」

「ごめんなさいね。イノリのわがままに付き合わせて」

 人型の竜神妃様が申し訳なさそうに眉尻を下げる。

 後ろでは大きなままの体躯をしょんぼりさせている、イノリちゃん。

 落ち込んでも見送りに来てくれるなんてやはり天使である。

「いいえ。私が言い出したことですから」

「本当に良い子ですわね……。お礼には到底なりませんけれど、リリシアさんにはこちらを」

 竜神妃様が差し出してきた手のひら。

 ダイヤのように輝く一対の小さなピアスが乗せられている。


「? えっと?」

「わたくしと旦那様の鱗を加工してみましたの。これを付けていればうちの結界内へ自由に入れるよう、術式を加えてありますわ。旦那様から話を聞いて、結界の外にいても竜種全般と言葉が通じるようにも。受け取ってくださるかしら」

 フリーパス&自動翻訳機!?

 聞けばホムラくんたちが成功したのを見届けた後、竜神様と二人で作ったという。

 部屋を修復するのを後回しにして作ってくれた……ってことだよね。

 こんな短時間で作れるなんて驚きだが、申し訳なさが先に立ってしまう。

「頂いていいんですか……?」

「イノリのお友達ですもの。好きな時にいらして欲しいのですわ」

 優しく微笑む竜神妃様。

 イノリちゃんも控え目ながら頷いてくれる。


「……ありがとうございます。大事にします」

 受け取った私の手の上でキラリと光るピアス。

 どんなに高価な宝石よりも価値があるものに思えた。


「さっそく付けてみてもいいですか?」

「もちろんですわ!」

 竜神妃様が喜んでくれたので、嵌めていたピアスを外し空間魔法で仕舞う。

 私がいつも付けているものは家族からの贈り物だ。

 ごめん父様たち。後で穴増やして付けるから!

「シアちゃん、貸して? 付けてあげる」

 いざ付けようとしたら、人型アイスくんがちょうだいと手を向けてくる。

「じゃ、じゃあオレも!」

 同じく人型ホムラくんまでなぜか張り合い出し、一瞬目を合わせた二人はズンズン近寄って来てあっという間に両脇を固めた。

 ……何この状況。


「あの、自分で出来るよ?」

「まあまあ。鏡ないから任せてよ」

 爽やかな笑顔で却下してくるアイスくん。

 竜神妃様に目で助けを求めたら、ビックリ顔の後うふふと微笑ましげだ。

 救援は望めそうにない。

「じゃあお願い……します」

「リリちゃん、動かないでね」

 ちょっと緊張した面持ちのホムラくんに一瞬ほわんとしかけ、想像以上に迫るダブル美青年に慄く。近い近い!

「んっ」

 考えるな無心になれと思ったものの、触れられるとビクッとなってしまった。

 く、くすぐったい。私、耳弱いのかな。


「あー……。これは駄目だ」

「確かに今のはダメっす……」

「え、何が?」

 訊いても二人は「何でもない」とはぐらかす。

 こんな時だけ仲良く意気投合しないで欲しい。気になる!

「もういいよ、シアちゃん。すごく似合ってる」

「リリちゃんは何でも似合うっすね」

「あ、ありがとう」

 ピアスだけが浮きまくって変、という意味の『ダメ』ではなかったらしい。

 けど人型の二人にベタ褒めされると複雑な気分だ。

 キラキラオーラ発しまくりの人に言われても、ね……。


「……二人とも竜の姿に戻らないの?」

「まだ暫くこれでいたいっす。念願だったんすから」

「ボクも人の感覚をもっと楽しみたい」

「そっか。もういつでも変化できるんだっけ?」

 儀式が必要なのは最初だけで、次からはソラや獣人と同じように自分の意志で姿を変えられるようになったと聞いている。

 毎回血が必要とかだったらどうしようと思ったものの、さすがは秘術。

 要らぬ心配だった。


「そうっす! 兄さん、何て言うかなー?」

 早く兄様にも見せたいのか、ソワソワするホムラくん。

 なんだかんだ上手くやっている兄様との間に従魔の契約だけじゃない絆――友情のようなものを感じるのは、ホムラくんの様子を見る限り私の勘違いじゃないだろう。

「ふふっ。さすがに兄様も驚くと思うよ」

「よし! じゃあ、帰ろっか」

 二カッと白い歯を見せ、ホムラくんが笑う。

 人型になれたことが嬉しくて堪らない、と滲み出るような笑顔だ。

 ……本当によかったね。


「あ。ホムラくん家にもお詫びの品を用意してたのに、渡しそびれちゃってる……。ホムラくん、挨拶がてら寄っていい?」

「そんなの用意してたの!? いらないっすよ!?」

「そうだよ。気にしないで」

「でも、」

「リリシアさん。先程たくさん頂いたお土産の中から、わたくしが渡しておきますわ。食べきれないほどありますもの。充分すぎるほどですわよ」

 竜神妃様までもが必要ないと言ってくる。

 ここであまり引き下がるのも失礼になるかな。

「すみません。ではお願いします」

「承知しましたわ」

 頭を下げれば竜神妃様が笑顔で承諾してくれる。

 じゃあ今度こそ帰ろう。


「また後日伺います。竜神様と、竜王妃様にもよろしくお伝えください」

「ええ」

「イノリちゃん、アイスくん。またね」

「うん。なるべく早く来てよ」

『待って、る』

 歓迎してくれる二人の言葉に嬉しくなり、友達っていいなとつくづく思う。

 白竜姫の泪は手に入らなかったけれど、代わりにかけがえのないものを得られた。

 おかげで気力はまだまだある。頑張らなきゃ。


「また来るっすー」

 ホムラくんもブンブンと手を振り、一緒にこの場を後に――。

「あれ!? この姿だとオレ飛べない!?」

 できなかった。

「ホムラくん。今、翼ないの忘れてる……? 風魔法で飛べない?」

「あ、そっか! つい、いつもの感覚だったっす……」

「兄貴……」

 超絶美形になろうが残念なホムラくんは健在で、ちょっとホッとしてしまった。






 人型のホムラくんと一緒に、竜王様とガチバトルをしているはずの兄様の元へ行くと、魔界対戦みたいになっていた。


 天を割るように激しく轟く雷撃を纏い、弾丸の如く急襲する竜王様。

 対して空気さえも焼き尽くす爆炎を辺り一帯に迸らせる兄様。

 かと思えばロボットアニメの戦闘シーンのように、互いの魔法が光の軌跡を描くように高速で移動する。

 他の竜たちは手を出せないのか、少し離れたところで静観している状態だった。


「何この頂上決戦みたいな図」

「……ケガ一つしてない兄さんが怖い」

 本当だよ。どうなってるの。

「ちょっと近付くのは難しいかな……」

「リリ。終わったのか」

「うわあ!?」

 と思ったら転移でいきなり目の前に現れる兄様。し、心臓に悪いです!


「誰だそいつ」

 兄様は驚き固まる私をグイッと引き寄せ、人型ホムラくんに向かって睨み付ける。

「ホムラくんです」

「は?」

「秘術で人型になったホムラくんです」

 説明しても兄様は驚くどころか、眉間のシワを深くした。

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