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148話 竜の住処

 数メートル先にはパールホワイトの超巨大な繭のような何か。

 その他は見渡す限り青い空しかない。雲すら遥か下にある。

 当然、地上の様子なんて遠過ぎて全く窺い知れない。


 ……た、高ッ!!

 ていうか、何あの繭!?


『懐かしいー!』

 ホムラくんが楽しそうに時々クルクル旋回しながら繭に沿って飛行する。

「兄様、まさかあの繭が……」

「竜神の結界だ。俺たちが使うものとは、少し異なる独自の魔法らしい」

「それで色とか違うんですか?」

「駄竜の言ったことが正しければな」

 なんだか本物の真珠みたいに光沢があり、とても綺麗だ。

 角度によって違う色が混じって見えるのも神秘的で、触れてはいけない気にすらなる。

 でもこんな広範囲を常時覆い続けるには、相当の魔力量が必要じゃないだろうか。

 さすがは竜神様ってところなのかな。


 なんて一人で考察していると、自由に飛び回り遠くにいるホムラくんに兄様が呼び掛けた。

「おい、駄竜!」

『何すかー?』

 ホムラくんはギュンッと猛スピードで飛んで来て、タクシーのように私たちの前で止まる。ふ、風圧が凄い。

「リリを頼む」

『了解っす!』

「? 兄様?」

「そろそろ結界の周りをうろついている俺たちに気付き、集団で襲ってくるはずだ。特に俺は招かれざる客でもある。リリを巻き添えにするわけにはいかない」

『前科があるから当然っすね』

 うん。そう言われたら何も言えないよ……。


「リリは駄竜に目的のところまで連れて行ってもらえ。住民である駄竜と一緒に居れば、攻撃されることはないだろう」

「別行動……ですか。兄様はうちへ帰るのですか?」

「いや。俺は奴らと遊んでいる」

 兄様の視線の先。

 繭の中から飛び出すように、数十匹の竜がこちらへ向かってきていた。

 その体躯は赤や青など様々な色。

 ホムラくんのように四枚翼の個体はいないものの、それぞれ一個体で国を滅ぼせそうな強力な魔力を感じる。


『おーおー。向こうも()る気満々だね。兄さんヤバいんじゃないっすか?』

「嬉しそうだな、駄竜。……帰ったら覚えておけ」

『だ、大事な任務を遂行します! さあリリちゃん、オレの背中に乗って!』

「っ、でも」

「リリ。俺は大丈夫だ。誓いを破ったりなどしない」

 兄様の部屋で交わした『無事に帰る』という誓い。

 信じてはいるけれど、心配するのはまた別問題だよ。

「せっかくここまで来たのだ。自分のすべきことを果たせ」

 するりと私の頬を撫で、真っ直ぐな瞳で見つめてくる兄様。

 これ以上何も言うなと訴えかけられているのが分かった。


「……はい。ホムラくん、お願い」

『任せてくださいっす!』

 ホムラくんのゴツゴツした背中に乗ると、兄様は真面目な表情で命令を下す。

「ギュオホムラス。命に代えてもリリを守れ」

『了解っす』

「駄目だよ!?」

「行け」

『リリちゃん、しっかり捕まっててね』

 私のツッコミを無視した兄様の合図で、ゴウッと弾丸のように一気に飛び出すホムラくん。

 あっという間に兄様が遠くなる。

 直後に立ち昇る爆炎の青いオーラ。こっちまで爆風が伝わってくる凄まじさだ。


『兄さんも戦える相手ができて楽しそうっすね……』

「なぜだろう、否定できない」

 複雑な心境のまま、竜の集団と交差するよりも早くホムラくんが繭の中に突っ込んだ。

 何か衝撃が来るかと構えるも、訪れたのは泡の中に突入するような不思議な感覚。

 痛みも何もない。

『リリちゃん。大丈夫だとは思うんすけど、異常はないっすか……?』

「うん。ホムラくんのお陰で全く問題なしだよ」

『よかったー。リリちゃんが苦しむのとか、絶対見たくないっすもん。兄さんならちょっとざまあって思えるけど』

 思っちゃうんだ……。兄様に聞かれなくてよかった。切実に。


「ねぇ、ホムラくん。竜の因子が無いと具体的にどうなるの?」

『結界に触れてるとこから全身捻じ切られるみたいな感じになるって、兄さんが言ってたっす』

「怖っ! めちゃくちゃ痛そう! もしかして因子が身体に馴染み切ったら、そうなる……?」

『中に入っちゃえば大丈夫っすよ。入国審査みたいなもんなんで、突破した後は問題ないっす』

 よかった! そんな拷問、絶対嫌だ。

『だから安心してね』

「ありがとう、ホムラくん」

 感謝の気持ちを込めてホムラくんの首後ろを撫でる。

 おお、背中の鱗と違って若干柔らかいし熱い。普段だと触れないから堪能しちゃう!


『もうこのままリリちゃんとここに残ろうかな……』

「ん? 何?」

『何も! それよりオレの故郷はどうっすか?』

 言われて目線を下に向ける。

 眼下に広がるのは、とても天空にあるとは思えない自然豊かな大地だった。

 岩肌の間を急降下で流れる滝、程良く密集した木々、草原や小川もある。

 何より竜たちが伸び伸び暮らしている光景が目を惹く。

「……すごいね。なんか楽園みたい」

 たくさんの果物が木になっていたり、作物が育っていたりと食生活も豊かそう。

 でも自生にしては整えられ過ぎているような……?

 あと水源がどうなってるのか摩訶不思議。


『でしょー? あ、もうすぐ居住区っす』

 居住区と聞いて巣穴のある岸壁を思い浮かべていれば、その想像は見事に裏切られた。

「ろ、ログハウス調!?」

 家と家との間隔や大きさこそ人間のそれとは桁違いだけれど、外観は高級リゾート地にでもありそうな、丸太を巧みに組み合わせたもの。

 屋根の一部が吹き抜けになっていて、そこが玄関の代わりっぽくなっている。

 なにこの文化的な生活。

『オレん家はもっと向こうっす』

「いやホムラくん。その大きな前足と鉤爪でどうやってこんな家建てるの!?」

 ……って、あれ?

 段々と近付くにつれ、二本足で歩いている()()が見えてくる――。


『あー、家は主に竜人が作るんすよ』

「り、竜人? じゃあ、下を歩いている人たちは竜人ってこと?」

『そうっす。さすがにこの手足じゃ無理だし』

 確かに竜人なら、二足歩行型でも竜そのものよりは圧倒的に身体が人間に近い。

 細かい作業も出来るだろうけど……。

「なんで竜人が?」

「役割分担っすね。ここに住んでるんで」

「えっ」

 竜の住処に竜人も住んでる?

「竜人って括りとしては竜種じゃなく、獣人だよね?」

 そう口にした時、獣人の国の会議場で王様が一人足りなかったことを思い出す。

 あの時は考える余裕がなくて深く気にしていなかったけれど、いなかったのは竜人の王様だった――?


『そうっす。でも竜人は自分たちのことをあくまで竜の派生形……人が根本じゃないと思ってるらしいんすよ。だからじゃないっすかね』

 獣人の国ではなくここで竜種と共に住んでいるのも、その思想ゆえなのだとホムラくんが教えてくれる。

 だから竜人の王は存在せず、竜種と同じく竜王を頂点としているのだとも。

 頑ななまでに竜であろうとするその姿勢には、人に対する絶対的嫌悪を感じる。

 ……これも過去に魔族から受けた迫害が関係あるのだろうか。

 幼い頃に母様から教えてもらった「竜人は他種族を見下している」という理由も、なんとなく繋がっている気がした。


『おっ。リリちゃん、着いたっす』

 ホムラくんの声に我に返れば、目に映ったのは先程のログハウスとはまた違う趣の建物。

 石造りを基本とした複雑な建築様式は、まさに海外で見たことのあるようなものに近かった。

「パルテ●ン神殿!?」

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