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147話 竜の住処への道

「それで兄様、竜の住処って具体的にどこなんですか?」

 天空にある、という情報だけしかなく世界地図にも載っていない。

 和平協定にも加盟しておらず、中立と言うよりは独立という言葉が適切なのだ。


「ずっと上だ」

 私の問いに雲一つない青空を指差す兄様。

「あの、一応それは知っていますが」

「全速力で飛んでも、六分の一刻ほどは要する」

「えっ」

 ロケット並みのスピードで十分もかかる、って意味だ。

 ……この世界ってどれくらいで大気圏を突破するのだろうか?

 そもそも丸いの? 四角いの?

 宇宙飛行士も衛星もないから、全貌が分からない。


「兄様はそんな未知のところまで行って、ホムラくん家を破壊したのですか……」

「苛立つ気持ちに任せて飛行していたら、偶然行き着いたのだ」

 どんだけ!?

「飛行の途中でそこの駄竜が目に付いてな。ご大層な翼に余計腹が立って攻撃している内、加減を間違えて壊してしまったのだ」

『追いかけ回されて完全なるとばっちりっす……』

 本当だよ。擁護できないよ。


「兄様は反省してください。それで、転移魔法で行くんですか?」

「ああ。ただ奴らの住処は特殊な結界で覆われていて、その外までしか行けないがな」

「特殊な結界……?」

『竜神お手製のもので竜種以外はお断りなんすよ。竜種以外が竜神の許可なく入ろうとしたら弾かれるし、無理に突破しようと干渉すれば相当痛い目に遭うらしいっす。兄さんが実体験済み』

 ホムラくんが補足してくれる言葉には気になる点しかない。

 もうどこからツッコんだらいいの。


「……兄様はその結界をどうやって突破したのですか?」

「爆破して風穴を開けた」

 最強すぎる!

 兄様がいる限り父様の政権は安泰だ。これでまだ成長過程とか将来どうなるの。

「ん? じゃあ魔人の私が行っても入れませんよね? 許可もないですし。まさか私にも強行突破しろと……?」

『そこは裏の手を使うっす』

「裏の手?」

『竜種かどうかの判定は、体内にその因子があるかどうか。つまり体内に竜の体液を摂取すれば、何の問題も無く入れるんすよ』

 ふむふむ。体液?


『ってことでリリちゃん。オレと熱いキッスを!』

 ザクッ。

 野菜を切るような小気味よい音と共に、ホムラくんの長い首の一部が焼き切れた。

 兄様の仕業だ。

『いったあああああーーーー!!』

「か、【完全治癒!】」

 慌てて回復をかければ兄様が優しい顔で諭してくる。

「リリ。血液は体液の一種だ。気持ちが悪いのは分かるが、飲まないと痛い思いをするのだぞ」

「一滴たりとも出てませんでしたよね!? 焼き切っちゃうから!」

 肉はエグいぐらいに見えていたというのに……。


『ひ、酷い兄さん! ちょっとした冗談なのに!』

「次はないぞ」

『冗談で殺されたら堪んないっす。リリちゃん、治してくれてありがとう……』

「ううん……。兄様! ホムラくんを無闇に傷付ちゃダメですよ!」

「必要な行為だ」

『いやいや、限度! オレ選ぶ主人を完全に間違えた。リリちゃんに鞍替えしたい』

 半ば真面目なトーンで呟くホムラくん。

 従魔の契約も、隷属の首輪と同じように上書きすることが出来る。

 但し新たに従えようとする側が、その魔物より弱いと殺されるというリスクさえ乗り越えられればの話。

 ホムラくんの場合、私に攻撃することはないだろうから、すんなり可能ではある。条件的には。

 でも私にその気はないよ……。


「おい駄竜、無駄話はそれぐらいにしろ」

『本気の願望だけど確かに日が暮れるっすね。リリちゃん、ちょっとだけこっちに来てくれる?』

「? うん」

 言われた通り近付けば、何をするのかと問う前にホムラくんが自分の右前足にガブッと噛み付いた。

「ちょっ」

『マズいかもしんないけど我慢してね』

 申し訳なさそうにそう言うと、傷付いて赤い雫が流れるその足を私の眼前にゆっくりと持ってくる。

 飲め、という事らしい。

 私が安全に入れるよう、竜の因子を与える為にしてくれたのだ。


「……ごめんね、ホムラくん」

 血を飲む行為に抵抗はあるけれど、早くしないとホムラくんに痛い思いをさせたままだという考えが勝り口付ける。

 覚悟して口に含めば、思ったよりもサラリとしていてワインのような味がした。

 ごくりと嚥下すれば身体の中がカッと熱くなる。

 増々ワインのようだと感じる一方でホムラくんを治さなきゃと考えた途端、身体から魔力が溢れるように治癒魔法が勝手に発動した。


「! なんで――」

「リリ。竜の血液は魔力回復薬になると、ミスティスに習っただろう?」

「確か薄めればそうなるって聞きましたが……」

「原液のまま飲めば一時的に魔力増強薬になるのだ。但し摂りすぎれば、身体が耐え切れず死ぬ。加えて魔力のコントロールに長けた魔人以外は、ほぼ無理だと言っていい。だからあまり知られていないがな」

 兄様が私の唇を指で拭ってくれながら説明してくれる。

 なんというハイリスクハイリターン……。

 リターンしかないミラクルボディに心の底から感謝した。

「ちなみに亜種なら通常種の倍の効果だ」

「ええ!?」

 驚愕の瞳でホムラくんを見上げれば、褒めて褒めてと言わんばかりにキラキラした瞳で見つめ返してくる。


「す、凄いねホムラくん」

『でしょ!? オレだってやればできる子なんす!』

 やっぱり特別仕様なホムラくんは、同じく超人仕様な兄様とお似合いだよ……。

 このままベストコンビでいて欲しい。

「あれ? でも血を飲めばいいなら、魔力回復薬を飲んだ人はみんな行けることになりますよね? 薄くてもちゃんと成分は入ってる」

 ルンルンなホムラくんをよそに疑問を口にしてみるけれど、兄様は良い返事をしなかった。

「まあ理論上はそうだが、竜の住処まで辿り着けるかどうかだな。人間にはまず不可能、魔族でも竜種に取り囲まれて勝てる者でなければ無理だぞ。近付く不審者には手荒い歓迎が待っているからな」

 うん。よほどのバトルマニアでない限り、行こうとも思わないね。


「駄竜の血がリリの身体に馴染み切る前に行くぞ」

「は、はい」

『了解っすー』

「リリ、おいで」

 兄様に手招きされ従えば、またもや抱っこ態勢へ。

「あの、兄様。転移する為とはいえ、ここまで密着する必要が……?」

「俺がしたいからだ」

 返ってきたのはあまりにも明確過ぎる答え。

 そのままふわりと微笑まれ、直視できなくなった私は兄様の肩に顔を埋めた。

 き、昨日のせいで妙に意識しちゃう……!


『兄さん。オレがいるのをお忘れなく!』

「ああ、そういえばいたな」

『こんな巨体が目に付かないはずないでしょ!?』

「壁くらいの認識だった」

『酷い!』

 私の後ろ頭を撫でながら、ホムラくんとコントみたいな会話をする兄様。

 私みたいに動揺する気配は一切ない。

 なんだか慣れているみたいで、複雑な気分になった。……ん? 複雑?


「いいから行くぞ。駄竜、貴様も特別に転移で連れて行ってやる。来い」

『ほ、本当っすかーー!? てっきりまた置いてけぼりかと思ったのに!』

「待つのも面倒だ」

『そっすか』

 しょぼんとしたホムラくんの身体に兄様が触れ、遥か上空を目指し転移魔法を発動させた。

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