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144話 想いの差

 告げ終わるとそのまま耳や首筋にキスをされ、思わず変な声を上げてしまう。

「ふわっ!?」

 い、いい一体何が!?


「駄目か……?」

 私の反応に気を良くしたのか、兄様の甘い攻撃は止まらない。

 耳元で喋るのは反則です! って、甘えるみたいに頭をすり寄せないで!

 もうなにこのエロすぎる兄様……!!

 任務の気疲れと私への心的負担で、頭のネジがすっ飛んじゃったの!?

「に、兄様」

「何だ?」

「そういうのは恋人にしてください!」

「リリはなってくれないのか?」


 え。

 今、何て言いました?


「そんなに驚くことか? 昔から溺愛してきたつもりだが」

「……家族同士のスキンシップ、かと」

「まあ幼少期は確かにそうだな」

 ふむ、と頷くと兄様は少し複雑そうな顔をする。

「嫌悪するか?」

「いえ、それは全くないです。……ただ思考が追い付かなくて」

 今だって半分は、ちょっと過激な家族同士のスキンシップくらいにしか思っていないところがある。

 普段がすでにデロ甘だから、感覚が麻痺しているのかもしれない。


「嫌われていないならいい」

「?」

「俺たち魔人は寿命が長いからな。焦らせるつもりはない」

「ちょ、長期戦を覚悟だと言うのですか」

「リリはこういうのに不慣れだろうし、気長に待つつもりだ」

 確かに慣れてませんけども! そんな暇なかったので!


「あの、兄様。待つと言われましても、恋愛とかはまだ先のことだと思っているといいますか、実感が沸かないといいますか……」

「構わない。ただ頭の片隅には置いておいてくれ」

 私の頬をするりと撫で、色っぽく微笑む兄様。ずるいその顔……。

 これ以上、何も言えなくなる。

「……えっと、ともかく今日は部屋へ帰ります」

「そうか。残念だ」

 バクバクとうるさい心臓を抑え付け、ふわふわした足取りで部屋の扉までなんとか辿り着く。


「で、では兄様。おやすみなさい」

「おやすみ、リリ」

 部屋を出る直前、今度こそ確実に兄様が唇にキスをしようとしてきたけど、恥ずかしさに耐え切れず思いっ切りギュッと目を瞑れば、穏やかに笑われてしまった。


   ***


「リリ、お帰り」

 自室に戻るなり、ソラがいつものようにハグで出迎えてくれる。

 呆れた顔のナギサくんも後ろに続いていた。

 い、一緒に居たの? いつから?


「ただいま。ソラ、ナギサくん」

「なんか顔が赤いですね。魔族も風邪を引く……わけないですよね?」

「っ!? こ、これはその……」

「何かされたのか!?」

 ガバッと勢いよく私を引き剥がすと、ソラは酷く狼狽える。

 されたと言えばされたけど、告白されました! なんて言えるわけない。


「大丈夫。何でもないよ」

 一体、今日はどうなっているんだろう。

 リドくんも普段と様子が違ったし。

「ソラはそのままでいてね……」

「? うん?」

 最高に落ち着く癒しの存在でいてもらいたい。


「ナギサくん、買った荷物の片付けは終わった?」

「はい。与えて頂いた部屋が広すぎるので、収納場所には困りませんでした」

「量も少ないしね……」

 結局ナギサくんが悪魔商会で何を買ったのかは、チラッと見えた程度だと服ぐらいしかなく、それも全然多くない。

 だからすぐ終わったのだろう。

 私が兄様の部屋に呼ばれている間、ナギサくんには食事の他に自分の荷物整理をお願いしておいたのだ。

 部屋はソラの隣。

 ここから隣の隣の部屋になる。

 何部屋も余っているので、近い場所を使わせてもらうことにした。

 私は転移魔法ですぐ移動できるけど、移動手段が徒歩しかないナギサくんが行き来するのに遠いと大変だからね。


「じゃあもう部屋で休んで――って、その前にお風呂の使い方を伝えないとだっけ。エミットくんの所とそう変わらないとは思うけど」

「いえ、必要ありません。ほんの少し前にメイドが来て、この部屋の浴室の準備をするついでに教えられました」

「は!? だ、大丈夫だった?」

 アーニャさんが釘を刺してくれるとはいえ、感情はどうしようもない。

 さっそく何か応酬があったんじゃ……?


「徹頭徹尾心の底から小バカにした態度でしたが平気です」

「それ全く大丈夫じゃないやつ。ごめんね……!」

「別に貴方が謝る必要はないです」

「でも、」

「リリ。そいつばっか構ってないで、オレとも話して?」

「ぅわっ」

 急に背後から抱きしめる形でソラに引き寄せられ、全身を包まれる。

 び、ビックリした……。

 そんなあからさまに引き離さなくてもいいのに。


「人間は部屋に帰れ」

「は? 犬に指示をされる覚えはありませんが」

「邪魔」

 私の頭に顔を乗せ、ガルルルルと威嚇するソラ。

 そんな可愛い威嚇の仕方ある? ぜひ真正面から見たい。

「ソラ、邪険にしちゃダメだよ」

「嫌だ」

 即答……。ここもソラの部屋みたいなものだから、縄張りに人が増えてナーバスなのかな。

 でも徐々に慣れてもらえるようにしないと。


「ナギサくん。ソラ機嫌悪いみたいだし、今日は解散しようか」

「犬もですか?」

「ずっと犬呼び……。ソラとはもうちょっと話してみるよ」

「残念だったな」

 なぜか勝ち誇るソラに、ナギサくんの頬が一瞬ピクリと引き攣った気がした。

 もうこれ職場いじめの域だよね。早急に何とかしないとまずい。


「お、お疲れ様でした! ゆっくり休んでね」

「ではまた明日、伺います」

「うん。おやすみなさい」

 ナギサくんはソラを一瞥して部屋を出て行く。

 ぜひ湯船に浸かってリラックスして欲しい。





「ソラ。急に仲良くしてとは言わないけど、あまりケンカ腰にならないでくれないかな?」

 ソファーに場所を移し、隣に座るソラにお願いしてみる。

 しかし考える素振りもなく返事が返ってきた。

「無理だ。あいつから禍々しい敵意は感じなくなったけど、気に食わない気持ちは代わらない」

 おぅ……。最初の印象が最悪だったからかなぁ……。


「いつまであいつをここに置くんだ? もう監視する必要はないだろ?」

「ナギサくんが希望する限りずっとだよ」

「なんで? 気に入ったのか……?」

 悲しそうな顔と声で訴えかけてくるソラ。

 まるで自分が捨てられるみたいだ。


「気に入るとか以前に、そうするよう言ったのは私だから責任があるよ。でも心を入れ替えたナギサくんにキツい風当たりは酷だから、あまり改善できないようなら考え直すかもしれない……」

 ショック療法的に改心する材料の一つになるかもと考えていたけど、その必要はなくなっている。

 これでは普通に傷付くだけだ。

 ナギサくんが終身雇用を希望してくれたとはいえ、心の健康を損うなら何か手を打たなくちゃならない。


「だったら尚更あいつには優しくできない」

「ソラ……」

「オレのこと嫌なやつだと思うかもしれないけど、俺はリリを独り占めしたい」

 私の首筋に顔を埋めるようにして抱き締めてくるソラ。

 少し痛いくらいにぎゅうぅと力が込められていく。

 だけどすぐに突然ピタリと動かなくなった。


「……リリ。リリの兄貴の部屋で何してきた?」

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