12話 二人の司書
「こんにちは。リドくん、セリちゃん」
目の前には瓜二つな男女。
二人とも色素の薄い茶色の髪とエメラルド色の瞳をした、大学生くらいに見える双子だ。
ツーブロックな髪型のリドくんは、白シャツに黒のネクタイとズボン。
ストレートロングなセリちゃんは、白シャツに薄ピンクのリボンとフリルスカート。
どっちもスタイル抜群でモデルみたいに麗しい。種族は悪魔で成人済みである。
「……今日は何読む?」
「魔物図鑑が読みたいです」
「……前の続き~?」
「うん」
「……取ってくる」
「ありがとう!」
リドくんが目的の本へと迷わず向かって行く。
膨大すぎる蔵書も全て頭の中に入っているらしい。中身込みで。
いつも読みたい本を取って来てくれるのが申し訳ないのだが、一度高い所の本を取ろうとして梯子から落ちそうになって以来、こうしてくれるようになったのだ。
棚の上まで安全に届く長梯子を申請したら悲しい顔をされた。
どうせ落ちるだろうってことですか。
鈍くさいからではなくドレスのせいってことにしてください。
「……リリシア様、ちょっとお疲れ~?」
セリちゃんが屈んで優しく頭を撫でてくれる。
なんだかお姉ちゃんぽくて、セリちゃんといると安心するんだよね。のんびりした口調も好きだ。
「大丈夫。元気だよ?」
「……そう~?」
お昼ご飯で家族と揉めて疲れました、なんて言えるわけない。父さまたちの威厳が木端微塵だよ。そんなことでクーデターが起きるとか嫌だよ。
「……お待たせ」
そんなちょっとした会話の間にリドくんが戻って来た。早い。
「ありがとう」
リドくんから魔物図鑑を受け取る。
ぶ厚いから一度じゃ読み切れないんだよね。一応貸し出しも出来るけど、部屋に帰ってもどうせ一人なのでここで読むことが多いのだ。
程良く陽が射すソファーでのんびり読むのがお気に入り。
「じゃあ、あっちで読んでるね」
近くにあったソファーを指差すと、リドくんとセリちゃんが顔を見合わす。
ん? あそこダメなの?
「……どっちが受付に戻る?」
「……リド~」
「……たまには譲れ」
「……やだ~。リリシア様、今日なんかお疲れだもん~。傍にいる~」
「……だから尚更。俺の方が体格的に有利だ」
「……むう~」
なんだ。なんの話だ。
「何の話してるの?」
「……リリシア様と一緒にいるのはどっちかって相談~」
「ええ!? 一人で平気だよ?」
「……今日は駄目。部外者の利用が多いから」
部外者と言っても厳しい入城審査を通っている人たちだ。
だから身分がちゃんと保障されている人しかここにはいないはず。
「大丈夫だよ。それにこんな白昼堂々、凶行に出る人なんていないよ」
「……直接危害を加えなくても、近付きたい奴は沢山いる」
「……魔王様の一人娘だからね~」
あー……まあ色々使えそうだよね。生まれたばっかで最弱だし、何よりアホだし。
「やっぱり借りて帰ろうかな……」
のほほんと本読んでる場合じゃない気がしてきた。
兄さま、将軍、キリノムくんと転がされ続けている私は絶対心理戦に弱い。
「……リリシア様はここで読みたかったんでしょ?」
「うん。ここの雰囲気好きだからね」
「……なら我慢することないよ~」
二人は互いに顔を見合わせるとコクリと頷き合う。
「……じゃあ分身体を受付に置くか」
「……そうしよ~。話し合いじゃ決まらないもん~」
「「……【複製】」」
セリちゃんとリドくんが手を取り、ごく短い詠唱で魔法を発動させる。
その直後、足元に魔法陣が展開し青白く発光すると二人を包んだ。
思わず目を瞑るぐらい眩しい。
けどそれも数秒で治まり、元の落ち着いた雰囲気の図書館へと戻る。
変わったのは目の前のセリちゃんとリドくんが二人ずつになったこと。
これが二人の得意な魔法。対象をそっくりそのままコピーする複製魔法だ。
この魔法を活かしてここまで蔵書を増やしたらしい。
仕組みは簡単。
複製したい本を手に取る。魔法を発動させる。以上!
嘘みたいだけど本当です……。
複製したものは破壊されない限り失われず、一度複製したものは何度でもコピー可能だそう。
だけどさすがに無機物以外は自分たちしか無理らしい。
それでも充分すごい能力だと思う。
じゃあ魔物図鑑も複製してもらえばいいじゃないかって?
断られたんだよ! ここに来る頻度が下がるからって! もう何も言えないよ!
「……そっちの俺とセリはカウンターで受付業務に戻れ」
『……嫌だ。お前が行け』
『……いや~』
なんか余計こじれてますけど!?
人格もそのまますぎて言う事を聞く感じじゃない。分身した意味は一体……。
「……リリシア様が命令して~。そしたら聞くから~」
「え、そうなの?」
「……セリとリドが言っても立場が同等だからね~」
なるほど。なるほど? ま、まあ本人が言うなら。
「すみませんが二人は受付をお願いします」
すぐに分身体の二人の手を取りお願いする。場所を動かれる前に言わないと、どっちが本物か分からなくなるのだ。
いかにもパチもんみたいなちゃちなクオリティじゃないんだよ。
『……リリシア様が言うなら』
『……仕方ないね~』
コクリと頷き受付へと向かう分身体の二人。
ありがとう。お仕事頑張ってください。
「……じゃあ行こ~」
セリちゃんが私の手を取り歩き出す。
かと思えば反対側から魔物図鑑をリドくんにヒョイッと取られ、代わりに手を握られた。
連れ去られる宇宙人はこんな図だったなと、またアホなことを考えた。




