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魔王の娘ですがマイペースに暮らしてます  作者: キイチシハ
第三章 獣人の国とウェンサ帝国編
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135話 胸に秘めた想い

「構わぬな?」

 意外な答えが返ってきて頭が混乱してしまう。

 ナギサくんと話す? 一体、何を……?


「殺したりはしないわ」

 直ぐに返事を返さない私に、母様は「約束」と言って苦い顔で微笑む。

 本当にただ話をするだけなら、許可を貰う手前、無下に断ることもできない。

「……絶対ですよ」

 父様と母様はそれぞれ頷くと、ナギサくんに近付いた。

 対してナギサくんは尻餅をついた体制のまま、動けないでいる。

 あの強気なナギサくんが。

 母様は殺さないと約束してくれたけど、ナギサくんの状態を見る限り心配で堪らない。


「に、兄様。ちょっとだけ降ろし――」

「駄目だ」

 言い終わる前にバッサリと断られてしまう。

 再度お願いするより先に、父様たちの話が始まってしまった。

「おぬしに質問がある。嘘偽りなく答えよ」

 ナギサくんは一度ゴクリと唾を飲みこんだ後、返事の代わりに頷いた。


「おぬしはここにいたいと思っているのか?」

「……はい」

「理由は何だ? 間者としての行動ゆえか?」

 父様の質問に兄様の手がピクッと動く。

 また攻撃されやしないかと慌てて見れば、腐った生ゴミを見るような目でナギサくんを睥睨していた。

 印象が悪化してる……!


「…………違います。私は……リリシア様に命を助けてもらいました。敵だったにも関わらず。駒のように扱う奴はいても、自らの命を懸けてそこまでしてくれる人はいなかった。……だからその気持ちに報いたい。それだけです」

 喋るのもやっと、という感じで懸命に話すナギサくん。

 きっと父様と母様にプレッシャーを感じているに違いない。

 なにせ魔王夫妻。

 人間ならまず会うことのない存在なのだ。


「報いたい、ねぇ。では人間である貴方に何が出来るの?」

「それ、は……」

 ナギサくんはそこで言い淀む。

 種族による力量差はどうしようもない。母様の質問は意地悪だ。

 だけど助け船を出す前に、ナギサくんはヨロヨロと立ち上がる。

 まるで魔王と魔王妃に立ち向かうように。

「私にしかできないことを、模索します。一生を懸けて」

 二人の目を見て一歩も引かず、そうキッパリと宣言した。


 父様と母様はその強い言葉に同時に深い溜め息を吐く。

「……ならば短い人間の一生。好きにするがよい」

「ただし裏切ったらどうなるか、分かっているわね……?」

「! 勿論です。ありがとうございます」

 バッと勢い良く頭を下げるナギサくん。

 無事に円く収まったことに安堵したのも束の間。

 一人納得していない兄様が水を差すように異を唱えた。


「父上、母上。俺は反対です。第一、甘過ぎるのではありませんか?」

「ディー。若気の至りのツケなのだ。やむを得ん」

「しかし――」

「これ以上の議論は不要。お前も手を出すことはならぬぞ」

「!? 何故です!」

「せっかくリリが繋いだ命、摘んだら一生口を利いてもらえなくなるわよ?」

「っ……、」

 不満いっぱいに押し黙る兄様。

 今にも怒りを爆発させ、辺り一帯を燃え尽くしそうな危うさを帯びている。


「兄様、私からもお願いです」

 間近にある黄金色の瞳を見つめ訴えると、目が合った瞬間に少し揺れた。

 尚も逸らさないでいれば、兄様は長いまつげを伏せ静かに口を開いた。

「………………分かった。たかだか五十年程度だ。我慢しよう」

「本当ですか!?」

「ただし条件がある」

 逸らすことを許さない強い眼差しで、兄様が私を射抜いてくる。


「な、何ですか?」

「リリ。今後一切、余計なものを傍に置くな」

「……モフモフは対象外ですよね?」

「全て含めてだ」

「横暴! 横暴です兄様!」

 生きる楽しみを奪わないで欲しい!

「これ以上、不要物が増えて堪るか。それともリリは俺にだけ折れさせるのか?」

「うっ……」

 確かに兄様だけ我慢をさせるのは不公平だ。

 かと言って、夢のもふもふライフを「はい、分かりました」と諦めることはできない……!

 何か抜け道はないものか……。


 ……ん? 待って。要は城に連れて来なければいいんだよね?

 ならどこか別の場所にモフモフ王国を造ればよいのでは!?

 ありがたいことに転移魔法と言う名のどこ●もドアがある。移動手段には困らないし、時間も掛からない。

 これだ!

 よし、今後も兄様の気持ちが変わらなければそうしよう。

 でも出来れば自然に連れ込む!


「分かりました、兄様」

「……何か余計なことを考えていたな?」

「か、考えてませんよ?」

「まあいい。あまり縛り過ぎて家出をされたら困る」

 これバレてますね絶対。

 しかし触れれば藪蛇になりそうなので黙っておく!


「じゃ、じゃあナギサくんを正式採用ということでいいですか?」

「心の底から不本意だが、一応認めよう」

「やった! ありがとう兄様!」

 感激のあまり思いっ切り抱き着けば、耳元に甘い声で囁かれる。

「そこの屑が今後どうなろうと俺は助けないからな」

 イケボで酷いこと言わないで。


「――失礼します。ディートハルト様が戻っていると……何をしているのですか?」

 きっちりノックをして入って来るなり、胡乱気な顔をしたのはノイン参謀だ。

 私と兄様の状態を見ると更に秀麗な眉を寄せる。

 未だ抱っこ状態だからね。重くないの?

「見ての通りだ」

「いつまでもリリシア様を幼子扱いはやめたらどうです? というか、早く報告書を提出願えますか」

「幼子扱いなどではない。それに帰ったばかりなのだ。少し休ませろ」

 違ったの!? じゃあなぜ隙あらば抱っこするの……?


「本人に伝わっていないようですが。では二刻以内に提出を。……時にリリシア様」

「は、はい」

「そこにいる人間は何です? まさか、また拾ったとかいいませんよね?」

 ナギサくんをチラリと見遣るノイン参謀。

 気付かれない訳がなかった。

「…………そ、そのまさかです、よ?」

 ノイン参謀は肺の空気を全て出し切るような、とてつもなく深い溜め息を吐く。


「獣人の次は人間ですか。全く誰に似たのでしょうねぇ……?」

「わ、私ではないぞ!」

「うふふ。その辺にしておきなさいな、ノイン」

 黒い笑顔の母様に、ノイン参謀は「……御意に」と言って引き下がる。

 なんかもう母様が魔王でいいんじゃないんだろうか。


「えっと、では私とナギサくんはこの辺で。兄様は報告書を書いてくださいね」

「……分かった。では後でな」

 渋々降ろしてくれると頬にちゅっとキスされる。


 これが幼子扱いでないなら何なのか、疑問に思いながら部屋を出た。


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