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魔王の娘ですがマイペースに暮らしてます  作者: キイチシハ
第三章 獣人の国とウェンサ帝国編
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133話 それぞれの行く末

「本当にありがとう。私は貴方に酷いことをしたのに……」

 涙が止まり落ち着いたミスティス先生のお姉さんは、お礼と謝罪の言葉を改めて述べてくる。


「も、もういいですから! それよりお名前、教えてくれませんか?」

 話題を変える為に自己紹介を求めると、お姉さんは少し驚いた後、ミスティス先生に似た穏やかな笑い方で教えてくれた。

「私の名はフローネよ。好き呼んでくれて構わないわ」

 そう名乗り向けられた笑顔からは、憂いは感じられない。

 この人もナギサくん同様、きっともう大丈夫。

 古代魔法を習得しておいてよかったと心から思った。


「ではフローネさんと。あの、今後についてですが――」

「貴方の言う通りにするつもりよ。ここで薬師として働くわ」

 話し始めたばかりなのに、フローネさんは先にハッキリとした答えをくれる。

 迷いのない言い方からして、既に心に決めていたのだろう。

「提案した私が言うのもなんですが、いいんですか?」

 エルフの作戦上、帝国を利用していたことになるのだ。

 わだかまりは残るはず。

 今はお城の復興に注力しているけれど、それが終わり全ての事実が露呈すれば、帝国軍人たちからの風当たりもキツくなるに違いない。


「今朝エミットと話をして、帝国の為に尽力するなら不問にすると言って貰ったの。だから少しずつ罪を償って行くわ」

「エミットくんがそんなことを?」

「ええ。父上を陥れたのは共謀、自分も罪を償う身だからと」

 驚いた。あまり重い罰を下すようならどうやって宥めようかと思っていたのに。

 あの子も生まれ変わったのかな。


「何も訊かないの?」

「はい?」

「貴方を狙うようになった原因の出来事について。気にならないの?」

 ……今回の事件の根とも言える部分だよね。

 そんなの気になるに決まっている。

 でも聞くわけにはいかない。


「ミスティス先生をエルフの里から逃がす為……と言っていましたよね? ならその話は、先生の口から直接聞きます」

 母様たちですら教えてくれなかったことだ。

 ならきっと話して欲しくないと、ミスティス先生は思っている。

 本人以外から勝手には聞けないよ。


「そう……。なら私からは何も言わないでおくわ」

「えっと、そのこと以外で一つ気になることがあるんですが」

「? 何かしら?」

「作戦が失敗したと知られたら、フローネさんが口封じをされる可能性はないんですか?」

「無くはないわね。まだ利用価値があると判断されれば、生かされるでしょうけど」

 ないと判断された時はやっぱり……。

「安心して。もう貴方を陥れたりしないから」

「いえ。私のことより、フローネさんの身を守る措置を取らないと」

 ここに残るよう言ったのは私だ。責任がある。

 まず逃げ道の確保が優先事項かな。


「そのぐらいは自分で何とかするわ。もし殺された時は、それまでの命だったということ。一度死んだも同然だもの。覚悟は出来ているわ」

「そんな……! 転移魔法は使えない……ですよね?」

 私を捕らえた時に転移せず仲間を待っていたのは、多分そういうこと。

「ええ」

「ならここに転移魔法陣を作りましょう。うちの城と繋げば、緊急時に避難できます。フローネさん専用にすれば他の人は使えないので、安全です」

 母様が私の部屋と図書館を繋いでくれた、例のどこで●ドアだ。

 やり方を聞いて設置すればいい。


「あ、でも父様がいるから嫌……ですか?」

「……そうね。正直に言うと、近付くには抵抗があるわ」

 どんな理由があれ、傷を負わせた本人には会いたくなくて当然だ。

 そこまで気が回らなかった。

「ごめんなさい……。じゃあどこへ――」

「気持ちだけで充分よ。私だって成人した身。自分のことは自分で守るわ」

「でも、」

「助けられてばかりは心苦しいの」

 エルフとしてのプライド、というやつだろうか。


「…………そうですか。出過ぎたことを言いました」

「いいえ。私のような者を案じてくれて嬉しかったわ」

「――話は終わりましたか?」

 一区切りしたタイミングで、突然第三者の声がした。

 いつの間にか開けられたドアに凭れて佇んでいたナギサくんだ。


「な、ナギサくん!?」

「ゴーレムが消えました。帰りましょう」

 悪びれもせずズンズン部屋に入って来ると、私の手をやや乱暴に掴む。

「そ、そっか。って、この超絶美人エルフにコメントなし!?」

「はいはい、美人美人」

「冷たい! ナギサくんのクールボーイ!」

「何ですかそのダサすぎる表現」

 胡乱気な視線を寄越してくるナギサくん。でも手を放してはくれない。


「……名を貰ったの。よかったわね」

 コントのようなやり取りをぽかんと見ていたフローネさんが、真面目な顔になるとナギサくんに向かって呟くように語り掛ける。

 ナギサくんは一瞬だけ視線をフローネさんに向けると、同じ様なトーンで返した。

「あんたも治してもらえてよかったですね」

 二人はそれ以上言葉を交わさず、少しの沈黙が落ちる。

 今までの距離感がどうなっていたのかよく分からないけれど、今ので充分だったのかな。


「ナギサくん、エミットくんは?」

「引き続き現場の指揮を執っています」

「挨拶……できた?」

「ええまあ」

 何をどう言ったんだろう。

「気になりますか? 一身上の都合により退職させて頂きます、と言いました」

「心を読まれた!? っていうか、超事務的! そんなので納得したの!?」

「納得も何も、貴方が勝手に私を執事に任命した時点で分かっていることじゃないですか」

 そうだけどさ……。

 あれ? 私こそヘッドハンティングしたことを詫びるべきじゃない?


「さあ、帰りますよ。まだ大仕事が残っているでしょう」

「ん? 大仕事って?」

「魔王に私のことをどう説明するか考えたんですか? 惨たらしく殺されるのは御免ですよ」

 や ば い。

 何も考えてなかった。どうしよう。

「ふ、フローネさん、また明日来ます! お城の修復もまだ掛かりますし、エミットくんのお父さんの容体も気になるので」

「そう。彼のことは私が責任を持って看ているわ」

「お願いします。ではまた」

 ずっと手を掴んだままになっているナギサくんを連れ、転移した。


 魔王城を目指して。


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