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魔王の娘ですがマイペースに暮らしてます  作者: キイチシハ
第三章 獣人の国とウェンサ帝国編
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129話 新たな道

 カーテン越しに降り注ぐ穏やかな光の刺激で目を覚ます。

 泣きすぎたせいか目元がスッキリしないし、頭もぼんやりする。

 高い自己治癒能力で身体は万全なはずだから、きっと精神的なものだろう。


 昨日は転移魔法で自宅に戻ると言うキリノムくんを見送ってから、ベッドに倒れ込むようにして眠ってしまった。

 本当に嵐のような怒涛の一日だった。


 ……あれ? そういえば、部屋に残した四人はどうしたんだっけ?

 起き抜けの頭で思い出そうとしても、キリノムくんの件の衝撃が大きくて記憶が定まらない。

 それぞれ客室で寝てるよね……?

 妙に不安になり起き上がれば、ベッドの上が信じ難いことになっていた。

 右隣に天狼、枕元に金獅子、足元に豹が丸くなり眠っている。

 ベッド脇のスツールには、青年執事が座ったまま静かな寝息を立てているというおまけ付き。


「こ、これは一体……」

 いつもなら「もふもふパラダイス!」と悶え転げるところだが、あまりテンションが上がらない。

 昨日のショックが大きいのかな……。

 自分の甘さと不甲斐なさ。

 急に成長できるものじゃないのは分かっているけれど、一歩ずつでも改善して行かないといけない。もう誰にも迷惑を掛けたくない。

 そう思っている間にも無意識に手がソラを撫でてしまい、大きな体がピクリと反応を示した。


「――ガウ?」

「あ、起こしちゃってごめんね」

「ガウガウ」

 のそりと上体を起こしたソラがペロペロと顔を舐めてくる。

 目尻をしきりに拭うから、もしかして泣いたのがバレているのかもしれない。

「ソラ、くすぐったいよ」

 お返しに大好きなモフモフボディーを梳くように撫でる。

 温かくてふわふわな触り心地に、凹んだ心が凄く癒されていく。

「じゃない! なんで皆ここにいるの? メルローに客室の準備を頼んだはずだけど……」


 父様たちの元へ向かう前だったから、そこは間違いなく覚えている。

 メルローなら疑問はあっても詮索などせず、スマートに案内してくれるだろう。

 それがなぜこんなことに。

「お気に召さなかったのかな」

 そんなことを言うようには思えないけど。


「違いますよ。単に貴方の傍から離れようとしなかっただけです」

 疑問を解消してくれたのは、いつの間にか目を覚ましていた青年執事だった。


「! お、おはよう」

「おはようございます。何があったか知りませんが、男の前で無防備に眠るなど警戒心なさすぎですか。今後は控えてください」

「す、すみませんでした」

 目覚めて速攻ダメ出しされるとは……。

 まあ確かにその通りだけども。

 ダメさ加減を追加認識する私にソラがグイグイと頭を押し付けてくる。

 もっと構え、のサインだ。


「ソラ……!」

「ガウ!」

「「グルルルル……」」

 抗えるわけもなくモフっていれば、不機嫌に呻るライオンと豹の声。

 レオンさんとハンサーさんも起こしてしまったようだ。

「あの、うるさくしてごめんなさい」

 謝るそばからのしっと近付いて来る二頭。

 レオンさんはふさふさな鬣を頬に、ハンサーさんは高級コートのような毛並みの頭を腕にすり寄せてくる。

 も ふ テ ロ 勃 発。


「ガウ!?」

「「ゴロゴロ……」」

 固まる私に猫科二頭のモフモフアタックは止まらない。

 今日から死ぬ気で頑張れという前払いのご褒美ですか……!?

「いきなり天を仰いでないで、私の勤務内容を教えてくれませんか」

 意外な常識人と化した青年執事が、昇天しそうな心を現実へと引き戻した。

 うん、落ち着こう。


「なんか、すっかり人が変わったみたいだね……?」

「お陰様で。私なんかを助ける為にあんな無茶をする姿を見せられて、考えさせられました。……やり直したくなったのです」

 青年執事は静かな声で胸の内を語る。

 多分、この言葉は嘘じゃない。

 もし偽りなら何の警戒もせずに寝てしまった昨日の内に何かしていたはずだし、何より雰囲気が変わった。

 角が取れたというか何と言うか、言葉で説明するのは難しいけど。

 今度こそ大丈夫だと根拠もなく思えてしまう。


「……そうだ、名前。名前教えてくれる?」

 大事なことを聞き忘れていた。

 ずっと青年執事と呼んでいたけれど、これからはそうもいかない。


「七九三番です」

「え? ば、番号……?」

「はい。ウェンサ帝国に潜入する時はさすがに偽名を使いましたが、管理番号が本来の名です。エルフの里でもずっとそれで呼ばれていました」

 偽名より管理番号の方が馴染み深い、と青年執事は付け加える。

 間者に名は不要と、エルフたちは名付けてくれなかったそうだ。

 ……酷い。生きている人間にする仕打ちじゃないよ。

 けど困ったな。

 いくら馴染みがあるとはいえ、さすがに番号で呼びたくない。


「七九三番だったよね?」

「ええ」

「……じゃあ、今日から『ナギサくん』て呼んでもいい? 番号はどうしても抵抗があるから……。一応、読み方を変えてみただけなんだけど、駄目……かな?」

「主人は貴方です。お好きにどうぞ」

 返ってきたのはなんとも投げやりな回答。

 遠回しに拒絶されているのだろうか。


「嫌、だった?」

「嫌なら嫌だと言います。命令されるだけの生き方は、もうやめたので」

「え……」

「いけませんか?」

「ううん、それでいいよ!」

 模索した末に出した新しい生き方。それを聞いて嬉しくなる。

 否定なんかするわけない。


「ではそういうことで。よろしくお願いします」

 青年執事――改めナギサくんは片膝を着き、従者の礼をする。

 こちらこそよろしくねと言おうとしたら、もふもふトリオに邪魔をされた。


「話は終わったんだろ。リリから離れろ人間」

「リリシア。従者の分もわきまえぬそのような者を、本当に仕えさせる気か?」

『苦労すると思うぜ。考え直せよ』


 喋れるということは人型に変化したというわけで。

 つまりは三人とも全裸なわけで。

「うわああああ!?」

 大事なところはシーツが仕事をしてくれているから見えてはいない。

 見えてはいないのにこの破壊力……!

 目に毒だけど眼福という二律背反ですどうしよう。


「アンタたちこそ不敬ですよ。主に汚いものを見せないでください」

 ナギサくんが私の目を覆いながら吐き捨てる。

 ホッとしたような残念なような、複雑な乙女心だった。

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