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魔王の娘ですがマイペースに暮らしてます  作者: キイチシハ
第三章 獣人の国とウェンサ帝国編
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128話 無償の愛

「……偉そうにするな、人間」

「私は新たな主人に忠告したまで。飼い犬ごときに文句を言われる筋合いはありませんが」

「なんだと……?」


 早速いがみ合うソラと青年執事。

 殴り合いにならないよう見守りつつ、空間魔法を発動させてみる。

 今度は難なく――とはいかなかったものの、ギリギリなんとか成功。手持ちの魔力回復薬を取り出すことに成功した。

 十数本飲み干し四割ほどまで回復させると、仮面エルフに頭を下げる。

「ありがとうございました。助かりました」

「礼には及ばないわ。貴方には効果が薄かったようだし」

「こ、これは今から魔法を使うので念の為と言いますか! えっと、それより約束通り治療しましょう!」

 そして一刻も早く帰還せねば!


「近い内にしてくれるなら、今日でなくとも構わないわ」

「え? いいんですか?」

「蘇生すら出来る貴方なら、話が嘘ではないと確信した。約束を破るタイプにも思えないし、一度ゆっくり休みなさい」

「そうですか……。病み上がりのような状態では失敗する心配もあるでしょうし、そうさせてもらいます」

 復元治癒も古代魔法とはいえ、蘇生とではレベルが違うので四割もあれば充分できる。でも、される本人にしてみれば気が気じゃないのだろう。

 確かに治療されるなら万全の時がいいに決まってる。


「……別にそんな心配はしていないけれど。あんな見事な魔法を見せられれば」

「? 何か言いました?」

 いつの間にかレオンさんとハンサーさんまで巻き込んでギャイギャイと騒ぎ始めたので、いまいち聞こえなかった。

「いいえ、何も」

 あれ? 気のせい?


「では明日以降に必ず伺いますね。このお城の修復もありますし」

「そこまでするつもりなの?」

「壊したのはキリノム……うちの国の者なので」

「私はまた間違った選択をしていたようね……。貴方のお陰で目が覚めたわ」

「はい? 何のことですか?」

「気にしないで。ただの独り言よ」

「はあ……」

 よく分からないけど、この人も雰囲気が柔らかくなったような気がする。

 仮面で表情が見えないものの、何となく。


「じゃあ今日はこれで帰ります。エミットくんによろしくお伝えください」

 気まずいかもしれないが、仮面エルフにはここに残ってもらうのだ。

 話すきっかけにでもして欲しい。

 仮面エルフと別れの挨拶を済ませ、四つ巴バトルをしている渦中に飛び込む。


「そこまでです! レオンさんとハンサーさんは送りますので、帰りましょう!」

「そんなヤツら放っておけばいい。リリはオレが抱えて帰るから魔法は使わなくていいよ。人間はどこへでも消えろ」

「躾のなっていない獣どもはよく吠えますね」

「リリシア。やはりこやつを傍に置くのは考え直した方がよいぞ」

『お前、変なヤツを口説き落としやがったな……。マジで心配だ』

 しきりに説得してくるレオンさんとハンサーさん。

 こっちが逆に説き伏せるには時間が掛かりそうだ。


「も、文句は後日聞きます! ってことで、動かないでくださいね!」

 両手を広げるようにして四人を抱き寄せまとめ、転移魔法を発動する。

 埒が明かないので強制送還だ。

 到着したのは私の部屋。

 もうこれ以上、時間を割けないのでウチにお泊り頂く!


「すみませんが今日はうちに泊まってください。部屋を用意してもらいますから」

 魔力探知でまだ起きている気配がするメルローに念話で客室の準備を頼み、キリノムくんの元へ行くべく残りの指示も口早に伝える。

「執事さんはこの部屋から決して出ないでください。じゃないと殺される可能性大です! ソラはフォローお願いね!」

 言い切ると同時に魔王執務室へと転移する。

 父様、母様、キリノムくんはそこにいる。


「ただいま戻りました! って、何して……るんですか……?」

 部屋に入るなり目にしたのは凄惨な光景。

 父様の闇魔法による楔で天井から逆さに吊り下げられ、母様に身体中を鞭で打たれているキリノムくんの姿だ。

 全身傷だらけで、床には血だまりができている。


「リリシア! 心配したぞ!!」

「リリ! 母様に顔をよく見せて!?」

「――来ないでください!!」

 感動の再会のように駆け寄ってくる父様と母様を思わず拒絶した。


「り、リリシア?」

「酷いです……。なんでキリノムくんにこんな事するんですか!」

「……一時的とはいえ、リリを死なせたでしょう。隠しても魔力探知で分かっているわよ。それにまた無茶をして倒れたと聞いたわ。何の為に同行させたと思っているの? 罰に値するには充分すぎると思うけれど」

 母様が涙の溜まった瞳を向け反論してくる。

 それだけ心配をさせたのだろう。でもそれは私の落ち度だ。

 キリノムくんは関係ない。


「…………心配を掛けてごめんなさい。ですがキリノムくんに責任はありません。私の勝手な行動です。むしろ助けてもらったのに」

 いつもいつも周りの人に責任が及んでいる。

 ……やっぱり一人で行くべきだった。


「お願いだから、私の為に動いてくれた人を処罰しないで……」

「!? な、泣くな、リリシア!」

「リリ……」

 本当に泣きたいのはキリノムくんだ。

 善意で同行してくれたのに、この仕打ちはあんまりだよ。

 頭では分かっていても勝手に涙が溢れ出して止まらない。


「……母様たちはリリのことがとても大事だから、つい冷静さを欠いてしまうの……。リリを泣かせたい訳じゃないわ」

 想いが強過ぎるが故の行動なのは、ちゃんと分かってる。ありがたいとも思う。

 だけどこれは限度を超え過ぎている。

 処罰を加えるような真似はやめて欲しい。

 そう伝えれば父様も母様も肩を落とした。


「もうせぬと誓おう。だからこれ以上、父様に悲しい顔を見せないでくれ」

「母様も約束するわ。キリノムも今すぐ治しましょう」

 逆さ吊りから解放され、復元治癒で完全に回復されるキリノムくん。

 抱き起せば鞭で打たれ塞がれていた目を開けた。


「……リリシア様。僕の為に泣いてくれて、ありがとうございます」

「! ううん……。ごめんね、あんな酷いことされて……」

「いいえ。こうして膝枕してもらえたので、役得です」

「そんなの全然釣り合ってないよ……」

「ふふっ。お釣りが多過ぎるくらいです」

 キリノムくんはふわりと微笑むと私の頬に手を添える。


「リリシア様の回復が思ったより早くて安心しました」

「仮面の人が魔力回復薬を調合してくれて……、自分が持ってたのも飲めたから」

「そうですか。僕の手持ちがなかったら危なかったんですよ……? 山ほど持って戻ろうとしたら、陛下に気付かれて拘束されるし。もう無茶はしないでください」

 目が覚めるのが早いと感じたのは、キリノムくんのお陰だったんだね。

 何から何まで助けられてしまった。


「…………ありがとう、キリノムくん」

「どういたしまして」

 自然と零れた涙をキリノムくんが指で掬ってくれると、ふわりと微笑みかけてくる。

 あまりに優しい顔をするものだから、私は余計に涙が止まらなくなった。

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