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魔王の娘ですがマイペースに暮らしてます  作者: キイチシハ
第三章 獣人の国とウェンサ帝国編
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121話 青年執事の命令

 漠然とした嫌な予感に晒されていると、魔力干渉で腰まで凍っている猫人が急にもがき出した。

 動かない足を無理に動かそうと何度も何度も力を込め、こっちに向かってこようとしている。

「……まさか」


 自分の代わりにエルフの里まで私を連れて行かせるつもり……?

 最後まで辿り着けなくても、里に近付けばきっとエルフが引き継ぐ。

 獣人は主人から離れた罰として首輪が制裁を下すはずで、苦しんでいるところなら容易に殺せる。

 推測が外れていてくれることを願うけど、多分これが一番妥当……。

 最悪のシナリオだ。


 第三者が首輪を壊した場合どうなるか分からない以上、不用意には壊せない。

 ――なら方法はこれしかない!

「兎人さん! 主人の変更をするにはどうしたらいいか見てませんか!?」

 私に挿げ替えれば命令を止められる。


 火魔法で足元を溶かしながら問い掛ければ、返ってきたのは動揺して要領の得ない言葉だけ。

「え、あ……」

 駄目だ、完全に混乱してる。

 どっちが敵でそうでないのか、整理できていない状態なのかもしれない。

 ……まずい、時間がない。

 推測通りならキリノムくんを見張っていた残りの九人が、私を捕らえる為にこっちに向かっているはず。


『首輪にキミの血を垂らして宣言すればいい! 自分が新たな主であると! そうすれば変わるはずだ!』


 突然聞き覚えのない青年の声がして、欲しかった答えをくれた。

 どの獣人か分からないけどありがたい!

 猫人の脚が凍ったままの今がチャンス。

 素早く背後に回ると同時に空間魔法で愛剣を取り出し、自分の指先を数センチ傷付ける。

 血が滲んできた手で猫人の首輪に触れ、言われた通りに宣言した。


「《私、リリシア・ロクサリアが新たな主人である!》」

 正式な言葉が分からないので咄嗟に出たセリフ。

 これでも通用するのかと不安が募る。

 けれど契約は成立したようで、首輪が禍々しく発光するとすぐに収束した。


『あれ、自由に動ける……し喋れる!』

 猫人がもがくのを止め、可愛らしい肉球の手を開いたり閉じたりする。

 ちゃんと自分の意志で動かせているようで、耳がぴこぴこと嬉しそうに動いた。

「よかった……」

 無事な様子に一安心する。

 成功したことにもだけど、契約を破棄しないまま上書きしてペナルティがあったらどうしようかと思ったのだ。

 見ている限り何も起きる様子がない。

 終わってから気付いたポンコツぶりをどうにかしたい。


「《我、リリシア・ロクサリアの名に於いて、隷属契約を解除する。隷属の首輪は塵へと還れ》」

 エミットくんのセリフをそのまま反芻する。

 これで猫人の首輪は壊れるはず。

 案の定、砂状にサラサラと溶け出すと跡形もなく消えていった。


『く、首輪が消えた!?』

「これで本当に自由だよ」

 最後に氷も解かして解放完了。

 ……今のと同じことを、あと九回しなくちゃいけないのか。

 血を出す為に傷付けた指先も完全に治ってしまった。自己治癒能力が高いので、少し切った程度は瞬時に治るのだ。

 毎回自分を切りつけるとか地味に痛い……。


 氷漬けの青年執事だけを残し、魔力干渉で凍った地下牢全体を火魔法で溶かす。

 よし、これでここを一旦離れられる。

『……あの、助けてくれてありみぎゃあああああ!』

 猫人が尻尾をユラユラさせながら話し掛けてきたかと思ったら、いきなり毛を逆立てて大絶叫した。

 まるで私の背後に何かよくないものを見たような反応だ。な、何……?

「うわあああああ!」

 気になりつられて見た私も大絶叫。

 二足歩行型の黒豹が全裸でそこに居たからだ。


「な、なん……!?」

 一応手で隠してくれているとはいえ、なんか際どかった!

 モフモフに覆われていても体型は人だからね!?

『すまない。喋るには人型に戻るしかなくて……』

 聞き覚えのあるその声にハッとなる。

 首輪の主人を上書きする方法を教えてくれた声と同じだったからだ。


「さ、さっきは助かりました」

 顔を見ずにお礼を言うのは失礼だけれど不可抗力。勘弁して……!

『お礼を言われる程じゃないよ。変更された仲間に聞いていただけだから』

「……あの、もしかして階段のところで骨折してた、黒豹さんですか?」

 空間魔法のストックに服になりそうなものはないか探しつつ訊いてみる。

 収納無限とはいえ、さすがに服は持ち歩いていない。

 何か! 何かないの!?


『そうだよ! あの時は本当にありがとう!』

「いえ、折ったのは私の仲間なので……。ごめんなさい」

『正当防衛だから仕方ないよ。それに殺さないよう手加減してくれていたから、あの程度で済んだんだと思う』

 骨が見えていたのをあの程度とは言わない。重傷です。

 しかしキリノムくんの意図は伝わっていたようで、負けを認める豹人に怒りの感情はない。

 兎人もそうだったけれど、いい人すぎない……?

 それとも強者には従う獣の本能がそうさせるのだろうか。

 って、言ってる場合じゃなかった!


 いいものが無かったので、仕方なく洗濯済みのタオルを数枚取り出す。稽古用にいつも持っているものだ。

「と、取り敢えずこれで隠してもらえますか?」

『えっ、あ、すまない……』

 直視しないよう後ろ手にタオルを差し出せば、受け取ってくれた気配がした。


「猫人さん、青年執事の言っていた緊急事態命令って、私をエルフの国まで連れて行くことですか?」

『わ、分かんない。そんなこと言われた覚えはないけど、貴方を捕まえなきゃ! って勝手に頭が命令してきてた』

「……そうですか」

 内容だけを覚えているよう命じていたのかもしれない。

 でも私を捕らえに来るのはこれで確定した。


「みなさんはここにいてください。私は残りの人たちを解放しに行きます」

『! なら僕も行こう!』

『わ、私も!』

 腰にタオルを巻き付けた豹人と猫人が加勢を申し出てくれる。

 でもその好意は受けられないよ。


「いえ、お気持ちだけ。傷付ける気はないですが、大人しく捕まる訳にはいかないので戦闘は避けられません。仲間同士で対峙することはないです」

 首輪の所為で話し合いが通じない状況である以上、どうしても荒事にならざるを得ない。

 力のある獣人同士がぶつかれば、血が流れるのは必須だろう。

 それに気付いたのか、へにょんと耳を垂れる豹人と猫人。

 二人だけでなくこの場にいる全員が気まずそうだ。


「結界を張っていくので安全です。ここから出られなくなりますが、少しだけ我慢してくださいね」

 一方的に言い残し、城の一階部分――地下牢への扉前に転移する。

 すぐさま結界を張り扉を封鎖した。

 だけど休むことは許されない。


 九人全ての獣人が、私の目の前に現れたのだ。

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