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魔王の娘ですがマイペースに暮らしてます  作者: キイチシハ
第三章 獣人の国とウェンサ帝国編
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118話 おこです

「無理だよ、エミットくん。獣人たちはキリノムくんが無力化した。動ける状態じゃない」

「ふっ……あはははは! 隷属の首輪を甘く見ないことです! どんな状態だろうと、生きている限り命令は遂行される。例え意識がなくてもね」

「なっ」

 主人の声は距離が離れていても首輪を介して届けられる。

 エミットくんの話が本当だとしたら、今頃獣人たちは首輪の効力で無理やり身体を動かされた危険な状態となっているはずだ。


「なんてことを……!」

「おいクソガキ。仮にここへ来れたとしても、戦力にはならないぞ」

「そうでしょうか。手負いの獣ほど性質が悪いものはないと思いますが。それに殺せなくても最悪、僕が逃げる時間稼ぎくらいにはなる」

「……何だと?」

「だってそうでしょう? リリシアさんはきっと、そんな状態で戦う獣人を助けようとする。当然キリノムさんも協力せざるを得ない。違いますか?」


 …………違わない。

 ズバリだよ。

 仮面エルフの指示通りに動くだけの傀儡じゃなかったんだね。

 まだ子どもなのに大した策士だ。


「――ならこっちも手段を選ばないよ」

 殺気を放つ私にビクッとなるエミットくん。でも遠慮はしない。

「な、何を……?」

「隷属の首輪ってさ、主人が死んだらどうなるのかな?」

「ひっ……!」

 溢れ出した魔力のオーラによる干渉で、エミットくんが足元から頭へ向かってパキパキと氷で床に縫いつけられていく。

 動けなくなったその首元に、もう片脚分残していた仮死毒針を取り出し近付けた。


「これには毒が塗ってある。仮死毒だけど人間は耐えられるかな?」

「た、ただの針でしょう! その手には乗りませんよ!」

「きみの先生も見たよ。ねぇ、先生?」

 拘束されすっかり大人しくなった仮面エルフに話を振れば、無言で返される。

 この場合は肯定を意味するものだ。

 賢いエミットくんなら分かるはず。

 その証拠にエミットくんの顔が増々青褪めていった。


「どうする? エミットくんが死ぬか獣人を解放するか、三つ数える内に選んでね」

 こうしている間にも獣人の身体に負担が掛かっている。

 だから猶予は与えない。

「三」

「……」

「二」

「……」

「無言の場合は……刺すよ?」

 耳元で囁けばボロボロと泣き出すエミットくん。

 キリノムくんまでなぜか感動巨編を観たように泣いているけど、一旦放置で。


「一」

「わ、分かった! 解放する!!」

「そう。じゃあお願い」

「っ……《我、エミット・ウェンサの名に於いて、全ての隷属契約を解除する! 隷属の首輪は塵へと還れ!》」

 エミットくんが叫んだ直後、獣人たちが移動を止めたのを魔力探知で確認する。

 今ので解除契約が履行されたのだろう。

 言葉で壊れるなんてさすがは魔道具だ。全く要らないけど。


「脅すような真似してごめんね」

 エミットくんの身体を覆う氷を溶かし解放すれば、子どもらしく泣きじゃくる。

 大号泣だ。

 ちょっとやりすぎたかな……。

 この針に付いている毒は魔族仕様に調合されているので、人間のエミットくんに刺すと間違いなく死ぬ。だから初めから刺すつもりはなかった。

 キツめのお灸を据えようとやっただけなんだけど、刺激が強過ぎたらしい。

 えぐえぐと大粒の涙が止まらない。


 思わず頭を撫でようとして、寸でのところで思い止まった。ここで同情すれば、きっと台無し。

 心を鬼にすることにした。

「……キリノムくん、一度撤収しよう」

 壊した建物はこちらが責任を持って修復するとして、先に獣人を治療して国まで送り届けたい。

 仮面エルフの仲間とやらも異常事態を察知したのか来る気配がないし、帝国軍の増援が到着するにしても遠征に行っているなら時間は掛かる。

 そのくらいの猶予はあるだろう。


「? キリノムくん?」

「無慈悲なリリシア様も素敵でした……。結婚してください」

「今それ!?」

「なぜ肝心な時はそういう反応なんですか!」

 そう言われても無意識なので。

「えっと、私は獣人たちを治療して送り届けるから、キリノムくんはエミットくんと仮面エルフを――。どうしよう」

 うちの城に連れ帰ったら殺される未来予想図しか描けない。

 捕らえた他国の人間の扱いって、どうすればいいんだろう……。


「面倒なので始末すればいいと思います」

「言うと思った! それだけはナシで。とりあえずはここで待機しててもらえる? 何か異変があったら念話で知らせて欲しいんだけど」

「殺さない自信がありません」

「自信持って! キリノムくんなら出来るよ! 信じてるから!」

「……うぅ、そこまで言われては仕方がありません。頑張ります」

 頑張らないとダメなんだ。


「じゃあ行ってくるけど、くれぐれも殺さないでね……」

「善処します。お気を付けて」


 なんとも心配なメンツを残し、廃墟となりつつある城の廊下を走った。

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