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魔王の娘ですがマイペースに暮らしてます  作者: キイチシハ
第三章 獣人の国とウェンサ帝国編
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116話 仮面エルフの独白

 突然の奇行に慌てて駆け寄れば床に崩れ落ちる魔王の娘。

 力なく投げ出された四肢、瞳は閉じられたままで、横たわった状態からピクリとも動かない。

 まるで呼吸をしている気配が感じられない。


「……死ん、でいる……!?」

 直後にカシャンと音を立て床に落ちる、隷属の首輪。

 これが外れたということは、死を意味する。

 主人が許す以外は絶命した時にしか外れないという、狂気の品なのだ。


「先生!!」

「うるさい! 黙りなさい!!」

 外にいるガキが相変わらず喚くけれど、どうでもいい!

 なんてことをしてくれたの……!


 私の使命はこの娘を生きた状態で連れ帰ること。

 殺すことではない。

 自分たちの手で報復する前に死なれては溜飲が下がらないと憤る、里の者たちの総意があるからだ。

 それがこの有り様……。

 せっかく手に入れたと思ったのに、自殺するなど誰が想像できるというの!


 里に古代魔法【蘇生】を使える者などいない。

 だから亡骸を持ち帰ったところで、どうすることもできない。

 けれど魔王妃ならば蘇生できると聞いたことがある。

 娘は恐らくそれに賭けたのだ。

 悪魔が自分を魔王城へ持ち帰ると信じて――。


 …………やられた。

 里の者たちに何と説明すればいい。

 上手くいけば我が一族の汚名もそそがれたでしょうに、これでは恥の上塗り。

 私はまた、屈辱の日々を過ごさなくてはならないの?

 いえ、魔王に知られれば何もかも終わりね……。

 娘を人質として使えない以上、黙ってはいない。

 今度こそ里の全てを破壊し尽くし、エルフの民は殲滅される。

 きっと楽には殺さない。最も残酷な方法を選ぶはず。


 弟同様、里を破滅に追いやるきっかけを作ってしまうとは、なんて皮肉な運命なの……。

 私は一体、どこで間違えた?

 あの時、弟の――ミスティスの言うことに耳を貸さなかったからか。

 明るく聡明な弟を妬み、わが身大事さに保身に走ったからか。

 今さら後悔したところで意味はないのに、平和だった昔の光景が次から次へと流れ出す。


 ああ、そうだわ。

 扉の外にいる悪魔に殺されるのを、本能が悟ったせいね……。

 いよいよすぐそこまで近付いている気配がする。

 『私はここで殺される』

 生き延びる策を考える隙間もなく、その結論だけが頭を占める。

 それほどの力量差。


 隷属の首輪という御する方法を失った今、あの悪魔に勝てるほど私は戦闘に特化していない。

 娘の逃亡防止の為に張っていたこの部屋の結界も壊されるでしょう。

 例え逃げたところですぐに捕まるのは明白。

 それが分からないほど愚かではないつもりだ。

 ならば不様な姿は晒さない。それがエルフとしての矜持。


 けれど本心では、…………もっと生きたいと強く思ってしまう。

 死にたくない、と冷静ではない本能の私が頭で叫ぶ。

 こんな時ばかりは転移魔法を自在に操れるという魔族が、羨ましい。

 闇属性と相性の悪いエルフで使える者はごく僅か。

 私はその僅かに含まれない。

 努力ではどうにもならなかった。魔法における相性とはそれ程重要なもの。


 だから里からの迎えを待っていた。

 本来ならば私が娘を拘束し、迎えの者の転移魔法で里に帰る算段だった。

 娘がこの国に来た時点で里に合図を送り、エミットを使って城に留めさせ、薬を盛り隷属の首輪を嵌めることにも成功した。

 全てが順調だった。

 それがとうしてこんなことに……。

 娘は目の前で死に、私を殺し得る悪魔がすぐ外で暴れ回っている。


 ――終わりだ。

 迎えの者も遅すぎる。

 恐らく異変に気付き、私を切り捨て里へと引き返したのでしょう。

 転移魔法が使えると言っても、せいぜい一日一度が限度。

 自身に危険が及んだ時にしか使わない、それが暗黙の了解となっている。

 だから助けは来ない。

 躊躇いなくそうできるよう、私をこの任に選んだのだから。

「この娘の言う通り、因果応報ね……」


「――なに勝手に諦めモードになってるんですか。死なせませんよ」


「!?」

 そんなバカな……!

 一体、なぜ動けるの。

「確かに死んだはず――」


 人形のように倒れていた魔王の娘はフラリと立ち上がり、強い眼差しで私を射抜いた。

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