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魔王の娘ですがマイペースに暮らしてます  作者: キイチシハ
第三章 獣人の国とウェンサ帝国編
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112話 募る不審

 一歩足を踏み入れた途端、ピリッと肌を刺すよな圧迫感が襲ってくる。

 この感じ――。

【リリシア様、この部屋なんですが】

 キリノムくんが念話で話し掛けてくる。

 私もエミットくんに悟られないよう、気を付けながら返事を返した。


【うん。魔力封じの結界が張られているみたいだね。生憎、私とキリノムくんを抑え込めるほどの威力はないみたいだけど】

 訓練課程で一度だけ体験したことがあった為、すぐに違和感の正体には気付けた。

 その時はこれの何十倍も威力が高くて、本当に魔法が使えなくなり困ったのだ。

 前世ではそれが普通だったのに、慣れって怖い。


【どういうつもりでしょうか。このクソガキ】

【……分からない。ちょっと様子をみようか。魔法が使えない(てい)で】

【分かりました。……あの、リリシア様】

【ん?】

【先程はすみませんでした。頭を下げさせるなど……】

【あー……。いいよ、気にしないで】

【城に帰ったら僕の首を同じ角度にへし折ってください】

【しないよ!?】

 あやうく声に出してツッコミそうになり、慌てて唇を引き締める。危ない……。


「リリシアさん。キリノムさんもどうぞ遠慮なさらずこちらへ」

 エミットくんが部屋の中央に置かれた、黒革の高級そうなソファーを勧めてくる。

 逆らわず座れば先程エミットくんの脇を固めていた執事っぽい青年が、すかさずお茶を出してくれた。

 キリノムくんは従者という設定なので、私の傍らに控えたままだ。


「ありがとうございます」

 青年執事にお礼を言うと、なぜか一瞬眉根を寄せ動揺する。

 ……なんだろう、今の反応。


「うちはあまり農業が得意ではないので、ツバク共和国からの輸入品なのですが、どうぞお召し上がりください」

「頂きます」

 出されたお茶に口を付けないのは無礼になるので、これも遠慮せず頂く。

 白磁のティーカップに注がれているのは紅茶だ。

 メルローのおかげで苦手なのが少し克服できたとはいえ、ちょっと構えてカップを傾け口に含む。


 …………!

 なるほど、さっきの青年の反応はこういうことか。


 笑顔を保ったまま紅茶を空間魔法へ流し込む。

 味の感想を述べねばならないので少しだけ口に入れ、浄化魔法をかけ飲み込んだ。

 美味しくないな……。


「とても香り高くて美味しいです」

「そうですか。気に入って頂けて嬉しいです」

 天使の笑顔を浮かべるエミットくん。

 ――とても客人に薬を盛った少年には見えないよ。


【キリノムくん。このお茶、神経毒と多分睡眠薬も入ってる】

【なっ……!?】

【しかもミスティス先生が調合した薬の味に似てる】

【あのカマ野郎。裏切りやがったのか!】

【それはないよ。先生が売っていた薬を手に入れたか、もしくはエルフと交易しているか。どっちかじゃないかな】


 薬は煎じた種族により特徴が出る。

 人間はとにかく味重視。効能が多少落ちようと、味覚を優先する。

 対して薬の調合が得意なエルフは効能重視。味は二の次だ。

 精神操作系だけは効果に影響が出るらしく味を調えるけど、それ以外はエグみのある味がする。

 天狼狩りの一件で教訓を得て、ミスティス先生の薬で薬物耐性を上げる訓練もしたから間違いない。


【どうしますか? 僕としては拷問か殺すの二択です】

【早すぎる結論! エミットくんは魔法を封じていると思ってるだろうから、薬が効いたフリして出方を――】

「リリシアさん。差し支えなければ、どちらにご旅行へ行かれるのか訊いてもいいですか?」

 念話の途中でエミットくんが話を振ってくる。ち、ちょっと頭が混乱しそうだ。


「はい、獣人の国へ」

 あ。やばい、つい正直に言ってしまった……!

「獣人の……? それはまた変わったところへ行かれるのですね」

 対してエミットくんは全然動揺していない。

 後ろ暗い事情があるはずだろうに、さすが皇帝を名乗っているだけはあるというところだろうか。

 だったら少し揺さぶりをかけてみるのもいいかもしれない。


「エミットくんは興味ないですか? 海を挟んだお向かいさんでしょう?」

「うーん。僕はちょっと苦手意識があります。人間の僕たちでは敵いませんから」

 どの口が言っているの。

「そうですか。残念です。私は彼らと仲良くしたいと思っているので」

「へえ……?」

 一瞬だけエミットくんの瞳が鋭さを見せる。

 でもすぐに無害な少年へと戻り、ニコリと笑った。……なかなか食えないな。


 こんな子どもが皇帝をやっている理由も気になるけれど、そろそろ時間だろうか。

 あまり効果が表れないと怪しまれるかもしれない。

「すみません、少し疲れが出てしまったようです。この辺りでお暇しても構いませんか?」

「それはいけない! ぜひ城で休んでいってください」

 でしょうね。まあそう来ますよね。

 私を留めてどうする気なのか、知らないままでは帰れない。


【キリノムくん。一旦断るフリしてエミットくんの言う通りにしてくれる?】

【……分かりました】

「構うな。従者である僕が責任を持ってお連れする」

 指示通りキリノムくんが私を支えるようにしながら制すると、エミットくんは首を傾げてきゅるんとお願いしてきた。


「体調の悪いお客様をそのまま帰しては皇帝の名折れ。どうか僕を立てると思って遠慮しないでください」

「しつこいぞクソガキ」

「はー……。まったく強情だなー、キリノムさんは。さっさとリリシアさんを渡してくれればいいのに」

 引き下がらないキリノムくんに、トーンの下がった声でエミットくんが吐き捨てる。


「魔法さえ使われなければ、僕らでも対抗できる。おい、《この男を縛り上げろ》」

 エミットくんの合図と同時。

 部屋に入って来る二人の人物。

 どちらもシェパードみたいな顔をした、二足歩行型の獣人だ。

 その首には真っ赤な禍々しい装飾品。


 隷属の首輪が嵌められていた。

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