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魔王の娘ですがマイペースに暮らしてます  作者: キイチシハ
第三章 獣人の国とウェンサ帝国編
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108話 獣人の国

 熊人にエスコートされ国の中へ足を踏み入れる。

 夢にまで見た楽園は、田舎の牧歌的な街並みだった。

 いやメルヘン劇場と言うべきか。

 見上げるような高い建物はなく、煙突が顔を出すレンガ造りの可愛らしい家が並び、舗装されていない砂利の道路、水車小屋もある。

 島を囲う物々しい柵が嘘のように、流れる時間がとても穏やかだ。


 そして何と言っても見渡す限りモフモフ!!

 二足歩行タイプから人に近いタイプまで、全てがモフモフ!! 獣人万歳!!


『リリシア殿? どうかされたか?』

「ここに永住したい……」

『いずれそうなるのでは?』

 本気で揺らぎそうだよ。


『おねえちゃん、誰?』

『耳も尻尾もないぞ』

『いい人~? わるい人~?』


 歩みが遅くなった私と熊人を、外で仲良く遊んでいたケモッ子たちが取り囲んだ。

 兎、狐、羊の歩くぬいぐるみにしか見えない愛らしい子どもたちが、キラキラとした瞳で見つめてくる。

「ちょ、ちょっとだけギュッとさせてくれませんか」

 一転、ケモッ子たちの顔がみるみる青褪めていく。あ、やばい。つい本音が……!


『危ない人だった!?』

『気を付けろ! 綺麗な女の人に見せかけた人攫いだ!』

『わるい人だ~!』

 パニックになり、グルグルと走り回るぬいぐるみたちをまとめて攫いたいと思う私は悪人です。間違いない。


『落ち着けお前たち。この人はレオン殿のお嫁さんだ』

「熊さん違います。子どもに嘘を教えちゃダメですよ!」

『変態のくせにマトモなこと言ってんじゃねーよ……』

 ケモッ子たちは熊人と豹人の言葉でまたパニックだ。可愛すぎる。


『お嫁さんなの? 変態さんなの?』

 おっかなびっくり訊いてきたのは子兎ちゃんだ。

 凄いなその二択。キュートな子に何て事を言わせたんだ私。

「どっちでもないよ。えーっと、レオンさんのお友達……かな?」

 屈んでケモッ子たちに視線を合わせて答えれば、おずおずと近付いて来る。

 正確には知り合い以上、友達未満だと思うけど、これがベストアンサーだろう。


『おねえさん魔人? 鬼人? 悪魔? 耳と尻尾がない人、初めて見た』

「私は魔人だよ。いいなぁ、そのふわふわした毛並み」

 思わずウットリしてしまえば一瞬ビクリとなり、ゆらゆらと尻尾が左右に揺れる子狐くん。

『そ、そんなに言うなら触っても――』

『ぼくの方がふわふわだよ~!』

 子狐くんが何か言っている途中で突進してきたのは子羊くんだ。ぎゅむっと抱きついてくれる。すごい! 羊毛!


「本当だ、ふわふわのもこもこだねぇ」

『でしょ~? あはは、くすぐった~い』

 二度とないチャンスとばかりに思う存分顔を埋めてモフる。幸せ……。

『私も混ぜてー!』

『ちょ、俺だけ仲間外れにするな!』

 子兎ちゃんと子狐くんまでぎゅうぎゅうと押し寄せ、三種のモフモフに埋もれた。天国はここにありけり。


『……おい、もういいだろ行くぞ』

 いきなり豹人が私の腕を掴み無理矢理立たせてきた。酷い!

「あともうちょっとだけお願いします!」

『ダメだ。王たちを待たせる気か』


「? 王様、ですか?」

『ケントが走って行っただろ。手紙の件で召集をかけてるはずだ』

「ケントさんって?」

『さっき門のとこにいた犬』

 ああ、柴犬さん。ただ走り去っただけじゃなかったのか……。


『王たちは専用の会議場に集まっているだろうから、そこで説明してもらいたいのであるが』

 そ、そんな偉い人の前で話すの?

 てっきり門番であるこの二人に話せばいいだけかと思ってたのに。

「そういうことなら分かりました。すぐ行きます」


『おねえちゃん、もう行っちゃうの?』

「うん。ハグしてくれてありがとう。みんなとっても良い子で楽しかった」

『ふん、当然だ』

『また会える~?』

「そうだねぇ。大人の人がいいよって言ったらまた来るね」

 下手な約束は出来ないので曖昧に誤魔化した。むしろ住みたいぐらいだけど。


『じゃあ楽しみに待ってる!』

『ま、またな』

『バイバ~イ!』

 ブンブンと手と尻尾を振ってくれるケモッ子たちと別れる。

 後ろ髪を引かれ過ぎてハゲそう。


『随分と好かれておられたな』

「可愛すぎました。……私としては、お二人とも仲良くしたいのですが」

『はァ!? お、おおオレにもだっ、抱きつけっていうのか!?』

「いえ、さすがに大人の人とはしませんよ?」

 動揺しきりな豹人は、私の答えにホッとしたようなそうじゃないような、複雑な顔になった。

 さっき門の所で「モフる」発言をしたから、疑われているのだろうか。


「ところで、お二人の名前を訊いても構いませんか?」

『これは失礼をした。某はベアグである』

『……ハンサーだ』

 意外とすんなり教えてもらえたことに嬉しくなる。

 思わずニヤけると、ハンサーさんに顔を背けられた。ヤバい顔してましたか。


「話は変わりますが、王様たちってそんなにすぐ集まってもらえるんですか?」

『非常時であるからな』

『レオンさんが情報を持ち帰るのを、ずっと待ってたんだ』

「なるほど。……あの、それなんですが、なぜレオンさんが一人で?」

 あまりに作戦が無茶すぎるから、気になっていたのだ。


『獅子人は我ら獣人の中でも戦闘力に優れていて、権利は平等と言えどリーダー的な存在なのだ。それ故、危機が迫った時に率先して行動することを求められる』

『単独で動けてこそ一人前、みたいなとこもあるんだよ』

 それで獅子人の中でも代表となる王家の人に白羽の矢が立ったと。


「だけどレオンさんは次男だと聞きました。普通だったら、お兄さんの役目じゃないんですか?」

『第一子は跡継ぎであるから、二子以降がいればそちらに任が下るのだ』

「……それって、失敗して死んでも構わないってことですよね」

 要は捨て駒じゃないか。

『オレらの世界はそうなってんだよ。種を絶やさないことが第一』

「…………もしかして、昔のことが原因……とかだったりしますか?」

『……そうであるな』


 やっぱり。

 虐げられていたという歴史が、この国の色んなところに影響を及ぼしている。

 座学で学んで知識として知ってはいたけれど、こうやって目の当たりしないと実感が湧かなかったな……。


『アンタが暗い顔すんなよ』

「すいません。そうですね部外者のくせに」

『べっ、別に責めたつもりはねぇし』

「? じゃあどういう――」

『うるせぇ! 着いたぞオラ! さっさと王たちに説明しろ!』

 やや乱暴に言い放ち、ズカズカと建物に入って行くハンサーさん。

 さっき見てきた民家よりも厳かな雰囲気がする、赤レンガの建物だ。

 お役所のような空気がある。


『気を悪くしないでやってくれ。不器用な奴なのだ』

 ベアグさんがぽむっと大きな手を私の頭に載せ、中に入って行く。

 心身ともに温かい励ましに私も気持ちを切り替え、ベアグさんの後に続いた。


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