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09話 藪を突いたら悪魔が出た

 キリノムくんと手を繋ぎ、兄さまの部屋を目指し廊下を歩く。

 サンドイッチが入ったバスケットは当然のように持たれてしまった。

「父さまたちの給仕しなくて平気? 怒られない?」

「大丈夫ですよ。まだ少し早い時間ですから」


 この世界も一日の長さは二十四時間で同じだ。

 でも呼び方が少し違う。


 一刻、二刻と数え、十二で一区切り。

 元の世界で言う深夜一時から正午までを『光の刻限』、午後一時から深夜十二時までを『闇の刻限』として呼び分けている。

 例えば朝六時なら光の六刻。夕方の六時――十八時なら闇の六刻となる。

 分刻みはなく、ざっくりとした時間管理だ。

 ちなみに今は光の十一刻。午前十一時というところ。


「もし何か言われたら教えてね」

「ふふっ。分かりました」

「約束だよ?」

 私のせいで怒られるとか申し訳なさすぎる。こんなに至れり尽くせりなのに。


「何が約束なのだ」


 返事をもらう前に目的地の部屋の住人が廊下の曲がり角からいきなり現れ、ビクッとなった。

 あ、危な! 私がバスケットを持っていたら中身がぐしゃってなってたよ!


「別に何でもないです。兄さま」

 渡す前に詳細を打ち明けるわけにはいかないので濁しておく。

 途端に少しムッとした兄さまに、縦抱っこの体勢へともっていかれた。

「調理場で何をしていた」

「えっ。なぜそれを?」

「魔力探知でどこにいるかくらい分かる」

 G P S 要 ら ず。


 魔力探知とは、周囲の魔力を探り、どこにどんな魔力の持ち主がいるか索敵するスキルのことだ。決してストーキングに使うものではない。


「ディートハルト様、聞いたら驚きますよ……って、そんなに睨まないでください」

「キリノム。なぜ持ち場を離れている」

「私を兄さまのところへ送ってくれていたのです!」

 まだイライラが治まらないのか兄さまよ。

 会う人会う人ケンカ売りまくりじゃないか。

 カルシウムが摂れそうなものを挟めばよかったかもしれない。チーズとか。


「そうか。ご苦労、もう下がっていいぞ」

「はいはい、邪魔者は消えますよ。じゃあこれ持ってください」

「何だこのカゴは」

「リリシア様に聞いてください」

 勝手に話さず私に目配せするキリノムくん。ウチで働く人はみんなデキる。

 お世話する私がポンコツで申し訳ない。


「では僕はこれで」

「ありがとう、キリノムくん!」

「いえいえー」

 振り返り大きく手を振ってくれる姿はアイドルみたいに爽やかだ。推したい。

 今度何かお礼をしよう。


「リリ、これは?」

「兄さまの昼食です。私が作りました。と言いたいところですが、ほとんどキリノムくんが――って、兄さま?」

 目を見開いたまま固まっている。

 そんな顔しても彫像みたいに美しいとかズルいよ。

「結婚しようリリ」

「どうしてそうなった!?」


 補足すると魔族は兄妹婚が可能だ。遺伝子的にも問題ない。むしろ血が濃くなるからと推奨されていたりする。

 私的には「へぇ、そうなんだ」ぐらいの感じ。

 忌避感が沸かないのは、魔族の身体になったせいだろうか。


「手料理が好ポイントってことなら、相手はキリノムくんの方が正確ですよ? ほぼキリノムくんが作ったので」

 同性同士もアリだ。子どもだって作ろうと思えばできるらしい。すごい。

「気持ちの悪いことを言わないでくれ……」

「そ、そんなに嫌ですか」

 心底嫌だと言わんばかりの顔をする兄さま。

 美形同士で薄い本もはかどりそうな組み合わせなのに。


「あいつだけはない」

「なぜです?」

「リリは知らないのか? キリノムは笑顔で獲物を嬲り殺すようなやつだぞ」

「えっ」


 うっそだー! あんな天使がそんなわけない!

「もし嘘だと思うなら食材調達班に訊いてみればいい。どうやってあいつが獲物を狩るかよく知っている」

「ま、マジですか……」

「心配しなくてもリリに危害は加えさせない。まあ、そもそもキリノムは魔物しか殺さないがな」

「そうなのですか?」

「人型は削ぐ部分が少なくてつまらないそうだ」

 コメントに困る。


「に、兄さま! そんなことよりお昼にしましょう!」

 ここは日本人の必殺技『空気を読む』に『お茶を濁す』だ!

 キリノムくんは私には良い人! 以上この話題終わり!


「そうだな。せっかくリリが俺の為に作ってくれたのだ。天気も良いし外で食べるか」

「はい!」

 談笑しながら庭にあるオープンテラスへ向かう。


 私は何も聞かなかった。うん、きっとそう。


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