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魔王の娘ですがマイペースに暮らしてます  作者: キイチシハ
第三章 獣人の国とウェンサ帝国編
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105話 入国審査

「キリノムくん城勤めの人たちの食事は!? 料理長でしょ!?」

「リリシア様との婚前旅行の前ではクソどうでもいいです」

「色々間違ってるよ!?」

 どうしてこうなった。


「はい、質問。なんでキリノムくんが抜擢されたんでしょうか……」

「使用人の中でも一、二を争う戦闘力を有する僕が適任ということで選ばれました。一番暇そうなユイルドのやつは、天狼狩りの時リリシア様に怪我を負わせましたから失格です」

「いや別に殴り込みに行くわけじゃないんだけど!」

 ただ行って帰って来るだけの弾丸旅行だよ。


「念には念をということですよ。リリシア様お一人で行って、帝国の雑魚どもに絡まれたら面倒でしょう?」

「雑魚とか戦闘力はともかく、それは確かに……」

 転がされることに定評がある私としては不安要素ではある。

「ということで、僕はリリシア様の従者という体でいきます。これだと手続きなどの雑務を僕がしても不自然ではないですから」

「……うぅ、お手数をお掛けします」

 ほらやっぱり人の手を借りる羽目になってしまった。早く自立をせねば……。


「それでキリノムくん執事の格好をしてるんだね」

 キリノムくんは今、いつものコックコートではなく、メルローと同じ漆黒の燕尾服を着ているのだ。

 登場した時からこの格好だったから、何故だと思っていたんだよ。まさかそんな裏設定がなされていたとは。

「似合いますか?」

「うん。仕えて欲しいお嬢様が殺到しそう」

 お世辞抜きでめちゃくちゃ似合う。逆に目を惹くんじゃないだろうか。


「僕がお仕えするのはリリシア様お一人ですよ」

 スッと片膝を着き、私の手を取り見上げてくるキリノムくん。

 背後にキラキラエフェクトが見えた気がした。

「の、ノリノリだね」

「はい。転職したいです。合法的に四六時中お傍にいられるので」

「真顔なのが怖い。時間が惜しいから行こうか!」


「ではリリシア様。これ以後、僕のことは呼び捨てにしてくださいね」

「え、ああ従者の設定だっけ。うん、分かった」

「生涯ですから」

 なにそれ聞いてない。




 そんなこんなでウェンサ帝国の国境付近の魔の森に到着。

 いざとなると初の国外に少し緊張する。

「リリシア様。そんなに真剣な顔をしていたら、旅行者に見えませんよ?」

「あ、そっか。ありがとう」


 用意してもらった入国申請書の理由欄には『旅行』と記してある。

 従者一人だけを連れた気ままな一人旅、という設定なのだ。

 マジ顔だと確かにまずい。

 よし、モフモフ天使なソラの姿でも考えよう。ありえないくらい緩むから。


「……ん。もう大丈夫。行こう、キリノムくん」

「はい。僕に任せてくれたらいいですからね」

 キリノムくんが先導するように私の前を歩く。

 草木を手刀で薙ぎ倒し、歩きやすいよう道を作ってくれる。過保護……。


 そう歩かない内に拓けた場所に出て、果てしなく横に長く続く絶壁が出迎えた。

 一部が太い鉄製の格子戸になっていて、内側に二人の衛兵が立っている。

 討伐や採取で出入りする為に造られた門だ。

 どこの国も魔の森に面している側はこんな感じになっている。


 門に近付けば森から現れた私とキリノムくんを、衛兵がギョッとした顔で見た。

 まあそうだろう。明らかに討伐・採取に不向きな軽装すぎる人間が出てきたら異常だよ。旅行者設定大丈夫か。

「何者だ!」

 案の定、不信感満載な感じで誰何される。

 するとキリノムくんが一歩前に出て、衛兵二人に言い放った。


「黙れ。人間風情が頭が高いぞ」

 キリノムくん!? 執事のはずでしょ!? そんなケンカ腰の執事いないよ!

「こちらは我らが魔王様の御息女、リリシア様である。旅行の為この国を経由したいと申しておられるのだ。さっさと通せ」

 紋所でも取り出しそうなセリフと共に、入国申請書を衛兵の足元に投げ捨てる。

 ちょっとー!? 自ら火種を撒きすぎだよ! 穏便に!


「なっ、魔王の娘だと!?」

「ま、まさかな。大体、平民ではあるまいに事前通告もなしに何を言う!」

 もっともだよ。一応、王族になるからね私……。

「急な話ですみません。審査をお願いしたいのですが」

 無理を承知でキリノムくんの背から顔を出し頼むと、衛兵二人は真っ青な顔から一転、みるみる赤くなっていく。すごい信号機ばりによく変わる。


「すっ、すすすぐに上の者に確認して参ります!」

「しょ、少々お待ちください!」

 書類を拾い、すぐ側にある詰め所らしき建物に爆走して行く衛兵の二人。

 ここに一人残るべきじゃないんだろうか。警備ザルすぎない……?


「さすがです、リリシア様」

「え、何が?」

「美意識の欠片もない虫けらをも魅了するその美しさ! まさに天上の美!」

「キリノムくんテンション高いね……」

 人間にはない髪と瞳の配色にちょっと興奮しただけだと思うよ。

 銀髪も金の瞳も、魔族にしか現れないと言われているのだ。


 実に楽しそうなキリノムくんは置いといて、周囲に意識を巡らせる。

 衛兵詰め所の向こうには、森に面した外壁と同じ様に見上げる程高い鉄製の柵。

 上部には有刺鉄線がこれでもかと張り巡らされている。

 厳重すぎる二重構造は、まさに侵入防止・中からの逃走防止といった感じだ。

 レオンさんは獣人の高い身体能力があったからこそ、逃げられたんだと思う。


 さらに柵の先には等間隔でそびえ立つレンガの塔がある。

 恐らくあれがウェンサ帝国の魔の森監視塔。

 備え付けられた砲台が無数にこちらを向いていて、魔物が侵攻してきたらそれで迎撃するつもりなのだろう。

 ヴァンさんがいる監視塔を見慣れているせいか、妙に物々しく感じる。

 あそこは砲台とか何もない、ただのオシャレな建物だからね……。

 ま、まあそれよりウェンサ帝国皇帝が住んでいるというお城は、確かここからそう遠くないとレオンさんから聞いた。

 ……気になる。


「随分と待たせてくれますね。呼び鈴代わりに塔を潰していきますか?」

「はい!?」

「そうすれば走って来るかと」

「宣戦布告も甚だしいのでぜひともやめてください。というかキリノムくん、さっきの衛兵に対する態度もマズいよ……」

「? これぐらい普通ですよ?」

 そんなバカな。


「魔族が人間に対する態度って、皆そんな感じなの?」

「まあそうですね。基本、見下しているので。困った時だけ都合良く泣きついて来る寄生虫のような存在……いや汚物。というのが共通認識です」

 どんだけ! マリアナ海溝より深い差別意識じゃん……。


「お待たせ致しました!」


 衝撃の事実が発覚したところで、ぜーぜー言いながら衛兵の一人が戻って来た。

 息を整え敬礼すると、審査結果を声高に教えてくれる。

「ロクサリア王国の王家申請書類で間違いなし、と鑑定結果が出ました!」

 お忘れかもしれないけど、ロクサリアはうちの国名だよ。


「あの、身分証の提示は」

「ひっ、必要ありません! 先程の書りゅいを持つことは、王家の方以外には不可能にゃので!」

 めっちゃ噛んでる! 余程恥ずかしかったのか、顔が真っ赤だ。

「では通るぞ」

「そ、それは少々お待ちを!」

「はァ? これ以上時間を奪うとは死にたいのか?」

「ひっ……! わ、我々の手に余る事案だった為、早馬で皇帝陛下にお知らせしたところ、お城にお連れするようにと!」


 …………はい?

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