101話 真相
「そんな顔するなら帰れ」
驚きの表情で見つめてくる金獅子青年に、ソラが苛立ちを含んだ声を出す。
尻尾もバシバシと強めにソファーを叩いていて、不機嫌さを物語っていた。
「……すまぬ。失礼であったな。先程『王』や『参謀』と言っていたから身分が高いのだろうとは思っていたが、そういうことであったか」
「いえ、普通の反応だと思います。それと隣のモフモフ美青年はソラ。天狼です」
「そやつが天狼……!?」
更に驚く金獅子青年をよそに、ソラは私に擦り寄ってくる。
あれ? 機嫌治ったのかな。
「獣人にしては見たことのない毛色だと思ったが、どうなっているのだ……」
「あー……、ちょっと色々ありまして。でも間違いないです」
「俄かには信じ難いが、そなたが言うなら本当なのであろう」
「ジロジロ見るな」
「見たくて見たわけではない」
……猛獣同士だから仲良くできないのだろうか。
「あの、よければ名前を教えてもらえませんか?」
睨み合いを阻止すべく尋ねれば、金獅子青年はソファーに座り直し目線を合わせると答えてくれた。
「我はレオンだ。獅子人の王が第二子である。レオンと呼んでくれ」
ふむふむ。獅子の獣人の王様の二番目の子どもってことだよね。
……つまり第二王子!?
「お、王子様でしたか」
話し方が王族っぽいなとは思ったけど、本当にそうだったとは……。
「うむ。家格は悪くないであろう?」
「それが何だ。俺だって王の子だぞ」
「なに……?」
ムッとして張り合うソラが可愛すぎると萌えてる場合じゃなかった。
「ま、まあ家柄は一旦置いておいて。レオンさんはその、なぜ魔の森でウェンサ帝国の軍人に追われるようなことになったのか、訊いても……?」
「なんだこいつ犯罪者か」
「貴様は黙っていろ。リリシア殿、紫髪が申していたことを覚えているか」
「あ、呼び捨てでいいですよ。えーっと、ウェンサ帝国が兵士にする為に獣人を陰で強制連行してるってやつですよね」
紫髪というのはヴァンさんのことだろう。
「ではリリシアと。我等の国ではここ最近、行方不明者が増えておるのだ。我等の国は基本的に住民の紹介がなくば立ち入れぬ。それなのに誰も仲介した覚えがない帝国の人間を見たという、目撃証言があるのだ。それで真相を探ろうと、我が代表して潜入を試みたのだが……」
私がモフモフ好きなのに獣人の国へ行ったことがない理由はこれなのだ。
入国するには獣人の紹介状が必須という、厳しい条件がある。
その昔、人間や一部の魔族から虐げられていたという暗い歴史があり、こうなったとされている。
他種族と積極的に関わりを持とうとしないのも、その所為らしい。
「皇帝が住む城の地下にそれらしき軍事施設がある、という情報を掴んだものの、さすがに城の警備は強固でな。近付いただけであのザマだ」
「一人で無茶しすぎですよ!」
「だが確証を得たかったのだ」
「というか、よくそんな情報を得られましたね……」
「耳と尻尾さえ隠せば人に見えるからな。女性は噂好きで助かる」
まさかの色仕掛け!
逆ハニートラップを仕掛けられるとは、さすがの皇帝も思うまい……。
「故に一度国にこの情報を持ち帰り、編成を組んで再度挑むつもりだ」
「そういうことでしたか」
それはきっと胸中穏やかでないはず。私だってその話が事実なら、はらわた煮えくり返る。
でもこれは二国間の問題。
送り届ける以上のことをすれば、介入し過ぎになってしまう。
「ではなるべく早く安全に帰れる方法を探しましょう」
「リリシア……」
「なんで無関係なリリが協力しなくちゃならないんだ。一人で帰れ」
ずっと黙って話を聞いていたソラが、ぎゅっと私を抱き寄せレオンさんを睨んだ。
「帝国には自分の足で行ったんだろ? なら帰りも自分の足で帰れ」
「……それは正論であるな。転移魔法を見て、つい甘えが出てしまったようだ」
そうなる気持ちは分かる。反則級に便利だし。
地道に帰っていたら何日掛かるか分からない。
それに問題がもう一つある。
「レオンさん今、身分証を持ってないですよね? アイテムボックスとかで持ってたりします?」
「いや、正規の手順で帝国へ行った訳ではないからな。帰りもそのつもりであったし……」
やっぱり。
獣人の国とウェンサ帝国は海を挟んだ向かい側。
距離もそう離れておらず、獣人の身体能力があれば密入国しようと思えば出来たはずだ。
でもうちの国から密航で帰るとしたら、あまりに遠すぎて自殺行為。
となると正式な航路船に乗るか、陸路でいくつか国を越える必要がある。
どちらにしても国境を超えるには入国審査があり、身分証は必須。
持っているなら言ってくれるはずだから、無いと思ったのだ。
つまり、レオンさんは単身正規ルートで帰ることが出来ない。
だから私に協力を仰いだのだろう。
「身分証を偽造すれば話は早いのですが、こちらにも事情があって出来ないので、やはり他の案を探るしかないですね」
「……すまぬ」
「いいえ。ここにはポンコツな私と違って優秀な人材しかいません。知恵を借りれば良案が見つかると思います」
「そなたも立派な淑女ではないか! 何を言う!」
「リリは卑下しすぎ」
ううん、事実だよ。
「結局助けてもらう羽目になるので、そんなことはありません!」
自信を持って言える! ダメじゃん。




