100話 驚かない人に出会ったことがない
「入ってもよいぞ」
部屋の外で着替え終わるまで待機していた私とソラに、金獅子青年は中から声を掛けてくる。
「なんだアイツ偉そうに。リリの部屋だぞ」
「まあまあ」
「……リリはああいうのが好みなのか?」
「モフモフは漏れなく大好きです」
「そうじゃなくて――」
「何をしておるのだ」
なかなか入って来ない私とソラを不審に思ったのか、金獅子青年がガチャッと扉を開けた。
「おぉ……! 似合いますね」
漆黒のシャツとズボン、軍服に似たデザインのダークグレーの上着が引き締まった体躯にフィットしていて格好良い。モノトーンだから金髪がよく映える。
尻尾もちゃんと出てユラユラ揺れているから、窮屈ではなさそうだ。
メルローありがとう! サイズがバッチリすぎて怖いくらいだよ!
本当、短時間でどうやって調達したの。
「そうか? なかなか上質な生地であるな。着心地が良い」
「気に入って貰えたならよかったです」
「何から何まですまぬ。礼を言う」
金獅子青年は私の左手を取ると、童話の中の王子様のように口付けを落とした。
すごい絵になる。なんだこの人。
「リリに何するんだ」
感心していたらソラが不機嫌MAXで私の手を強奪し、着ていた服の袖でゴシゴシと手の甲を拭ってくる。
「ソラ、そんな邪険にしなくても。女性全般にする挨拶みたいなもので深い意味はないと思うよ?」
獣人もそうなのかは分からないけど、一般的な慣習として。
「それでもダメだ」
「いや、誰にでもするわけではない。好意があると勘違いされると困るからな」
えっ。そんな気軽にしない感じなの?
「私が勘違いしたらどうするんですか……」
「してもよいぞ?」
フッと色っぽく笑う金獅子青年。
プレイボーイ! さすが肉食獣。嫌な感じに聞こえないのがまた凄い。
「リリ、コイツは危険だ。今すぐ魔の森に帰そう」
「私に恥をかかさない為の方便だよ。それより自己紹介もしてないし、一旦部屋に入ろう?」
図書館へはその後に行こうと思う。
喋れるようになった相手に挨拶もせず放置はよくないので、調べものは後回しにした。
「方便ではないが」
「……何だと?」
「そ、ソラ! いいから入ろう!」
今にも噛み付かんばかりのソラの背中を押し、半ば強引にソファーに座らせる。
金獅子青年も後に続いてくれ、向かいの席を勧めた。
……まだ睨み合うの。
私は間に入るようにして、ローテーブルにさっきメルローから預かっておいた紅茶入りのティーセット一式を空間魔法で取り出し、カップに注いで金獅子青年とソラの前に出した。
空間魔法で仕舞っておいたものは時間経過がないので、冷めることがなく便利だなとつくづく思う。
「あ。紅茶は飲めますか?」
「うむ、構わずともよい。が、少々熱そうだな……」
ね、猫舌……! やばいニヤけちゃ失礼だ。頑張れ私の表情筋!
「では少し冷まします」
氷魔法で少しだけカップを冷却する。うん、こんなものかな。
「森でも思ったが、そなたは随分と魔法が得意であるな。高度な転移魔法も自在に操るし」
「そうですね。魔人なので得意な方かと」
「魔人か。どうりで」
ふむ、と納得する金獅子青年。
獣人も魔族の内なので、おおよその特徴は知っているのだろう。
こっちが知っている獣人の情報と言えば、魔法があまり得意ではないということ。
獣の特徴を引き継いだ高い身体能力による、物理攻撃に特化した種族なのだということだ。
身に宿る魔力は主に身体強化と、人型から獣化する際に使われるとか。
だから魔の森でも魔法を使わず自分の足で逃げていたんだと思う。
「リリ。こっち」
給仕が終わったタイミングで、ソラがポンポンとソファーの横を叩き座れとアピールしてきた。
どのみちそこに座るつもりだったので素直に従うと、グイッと腰を引き寄せられる。途端に尻尾がご機嫌に揺れた。
金獅子青年が秀麗な眉を寄せ怪訝な顔をし始めたので、話を進めるべく私から自己紹介することにした。
「では改めまして。私はリリシアと言います」
そしてこれも伝えておくべきだろう。
転移魔法で一気に城の中に飛んだから、ここがどこだか分かっていないはず。
「魔王の娘です」
「なっ……魔王の娘だと!?」
ガタンッとテーブルを揺らし立ち上がる金獅子青年。
まあそうなりますよね……。
自分で言って中二病かとツッコみたくなる肩書きだよ。
気付けば100話に……!
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