プロローグ・ぼくは死にません(死にます)
『あぶない!クルマは急には止まれない!』
――その瞬間ぼくの脳裏に過ったのは、小さな頃に習った当たり前の事実だった。
スポットライトにしては明るすぎるヘッドライトの明かり。耳をつんざくほどのクラクションの音とブレーキ音。
「あ」
だめだこれ。と口にする前にぼくの身体は宙に浮く。胸から腰にかけてが痛い。痛いと言うか、熱い。なんか色々やばい。四肢があちこち好きな方向へ行こうとしている。やばい。やばいけど今のぼくにはどうにもできない。地面が近づく。着地。痛い。
「おい、大丈夫か!」
トラックの運転手が出てきてぼくに駆け寄ってくる。全然大丈夫じゃない。
死ぬ。
間違いなくぼくは死んでいっている。
『――ってなワケで君は死んでしまったのじゃ』
瀕死のぼくの目の前に突如現れた神を自称する人物はそう言った。
『なにか言うことはないか?』
「……オーマイゴッド!」
なんつって。
…………無反応!ちょっと恥ずかしくなってきた。
『面白いのう、君は』
「だいぶ間があった気がするのですが」
『ほほほほほ』
笑って誤魔化された。
「ところでカミサマは何故ぼくの元に?」
『おおっと、忘れるところじゃった。キミにこれを渡しにきたのじゃよ』
カミサマは懐から小冊子を取り出した。ぼくはそれを「きっと生温かくなっているんだろうなあ」などと思いながら眺めていた。
『おめでとう!キミは異世界転生英雄養成学校の入学が認められた!』
いせかいてんせいえいゆうようせいがっこう?
「なんですそれ」
『学校』
「それは何となく言葉の響き的に理解できました。その前をもっと詳しく聞きたいのですが」
『英雄を養成する学校じゃよ。キミはこの度その入学試験に合格した』
「えっ、ええ〜?」
英雄?養成?学校?何でもいいけどぼく瀕死の重体でもうすぐ死ぬんですが!?
『まあ、フツーに天国でぬくぬく暮らしたいならそれでもいいんじゃが……、せっかくの機会だ。入学してみんか?』
カミサマは『ん?ん?』とぼくに答えを促す。正直血液が抜けて頭が重い。何も考えられない。
「いいっすよ……」
『よしきたー!ではキミの拇印をもらうぞい』
カミサマは力の抜けたぼくの手を取って、どこからか取り出した書類に押し付けた。
『よし。ようこそ!異世界転生英雄養成学校へ!』