気泡ガラスは海でできている
オセアニアはるか沖の海溝
背筋が寒くなるほどに澄んだ水は
視界の限度をさらに超えて青く昏い
魚はおろか海草も見えない岩の間
滑り込ませた自らの体で陽光に蓋をする
一面の
一面の暗やみ
荒い岩肌が肩をこする
小刻みにしなやかに波を作る足首
光はない
音はない
圧がこの身に感じられるだけ
引き返しも浮かび上がりももうできない
ひたすらな深みにまねかれるまま
気付かないうちに頭下の眺めは
黒から
藍へ
岩囲いは口を開いて
無辺の中に投げ出される
道標は藍からターコイズ
辺りは重く
四肢から毛髪の先に至るまで
この体を水に嵌める
鱗粉のようなきらめきが
降り肌を刺し足下へ過ぎる
ダイヤモンドよりも硬く
押し凝められた空気の粒
海もまた海自身の重みを受けて
組成をガラスに変容する
ひそやかに
そしてなえやかに
悠久のなかに景は移る
この身は沈む
泡は降る
海溝の下
深海よりもなお深く
なにもだれも気付かぬうちに
海はガラスでできている