フィギュア大戦
フィギュア大戦が、激化したのは2030年を過ぎた頃からだった。
日本とC国、その二国は他国の追従を許さなかった。
当初は日本が一歩も二歩もリードしていた。
それは、日本政府が国策として進めていたからだ。
先見の明を持っていた総理のO氏の功績と言ってよかった。
Oは早い時分から、日本の自動車産業の衰退を予感していた。
電気自動車では日本の産業を支えられないからだ。
精密部品いや部品点数自体が少ないため、
下請け会社を養えず、
車体の組み立ても、現地組み立ての方かコスト安だった。
自動運転は導入されたが、開発のメインはソフトウェアで、
一部企業を潤すだけだった。
そこで、Oは宣言した。
「これからは、フィギュアだ」
フィギュアとは、あのフィギュアだ。
キャラクターなどの人形の。
でも、ただのフィギュアではない。
ただ?いや、それどころか、超高額なのだ。
1体80万円を超えた。
発売当初は、200万円を超えていた。
そこには日本の英知が結集されていた。
精密で、丁寧で、リアル。
超微細部品が数千点使われ、
人手による職人的な加工が施されている。
また駆動系の開発にも重点が置かれた。
その最たるものはバッテリーだった。
超小型で発熱もなく、一度の充電で約一週間動作した。
そして、AI、人工知能だ。
この人工知能にはいろいろなバージョンがあった。
話し相手になる事はもちろん、
犬やネコの世話、水やエサやり、
掃除。
このフィギュアが掃除するのが、かわいいという評判だ。
ホウキと塵取りを巧みに使う。
それに拭き掃除も。
あんなゴキブリみたいに地を這いつくばるヤツとは大違いだ。
他にも、警備や宅配便の受け取り。
人認証ができるため、不審者を警備会社のデータベースと照合し、彼らを確保できるのだ。
確保の仕様は明らかにされていないが、電撃を加えるらしい。
いろいろなプログラムの開発により、
ソフトウェア業界は人手の確保に頭を悩ますことになった。
しかし、日本の一人勝ちにはならなかった。
当然だ。
儲かる分野は常に狙われている。
いち早くC国が参入した。
5年で、日本に追いつく。
日本製品の半額にしたからだった。
日本は価格を落とさず、新機能を付加した。
その中で世界を驚かせたモノがある。
どういう仕組か分からないが、
4体が合体して、大きなフィギュアになるのだ。
この機能で日本はC国を圧倒した。
しかし、C国はAIを含め、
丸ごとコピーし、その機能を実現した。
そのコピー品事件は二国間の外交問題にまで発展した。
しかし、両国とも最大の貿易国となっており、
良好な関係を維持していた。
しかし、2055年を過ぎたころから、陰りを落とし始めた。
失業問題だった。
AIは人に取って代わった。
それは、日本よりC国の方が顕著だった。
C国民は富裕層と政府に不満を向けた。
C国政府はその不満のはけ口を日本に換えた。
行き詰ったC国は日本との戦争を決意した。
尖閣諸島に上陸し、戦端を開く。
そして、すかさず、核兵器を使う
核兵器の使用は、国際法上、違法ではない。
「核兵器を使用しなければ、もっと多くの人が死んでいた」
とアメリカが今でも主張し、罪に問われていない。
北朝鮮の核兵器問題など、アメリカが罪を認め、
日本にいくらかの賠償金を払ってしまえば済む話なのに。
日本政府は、そうアメリカ政府から通告があった。
アメリカは核兵器を使用するC国と事を構える気はなかった。
日本政府は手詰まりだった。
C国の思惑に乗り、戦端を開くわけにはいかない。
だが、日本国内では、
「C国との戦争も辞さない」
という世論が形成つつあった。
C国は東シナ海に艦隊を集合させつつある。
次の目標は沖縄だった。
沖縄の米国軍は日本本土に撤退した。
日本が事を構える様子を見せなかった。
先陣を切るつもりは毛頭ない。
C国と米国の戦争に日本が加わるという思惑を描いた日本政府の意図を
アメリカ政府は正確に見抜いていた。
日本政府は官邸に大臣、政務官、事務次官を集結し、
戦端を開く決意を固めた。
核兵器を使用されることを覚悟して。
出席者みな顔面蒼白だった。
なかには涙を流している者もいた。
「一矢報いてやろう」
と防衛大臣が言った。
すでに濃縮プルトニウムは生成されていた。
日本には核兵器はないが、
原発用のプルトニウムはあった。
それを超音速無人戦闘機F88に搭載し、
C国に報復するのだ。
その時だった。
元総理のOが現れた。
Oは突然、宣言した。
「コマンドZを発令する」と。
各員、ぼう然とOを見つめた。
その日の内にC国軍事施設、政府施設は壊滅した。
Oの恐るべき策略だった。
コマンドZとは、日露戦争時、ロシア艦隊に圧勝した連合艦隊旗艦・戦艦三笠に揚がったZ旗に由来する。
「皇国の荒廃、この一戦にあり、各員一層奮励努力せよ」
軍事施設を破壊したのは、巨大ロボットだった。
数百万体の大小さまざまなフィギュアを引き連れて。
輸出された日本製だけでなかった。
中にはC国製フィギュアの姿もあった。
日本製AIをそのままコピーしたため、コマンドZが有効だった。
日本政府はC国の核放棄を条件に講和した。
軍事、政府施設は壊滅したが、民間人への被害はほとんどなかった。
高度な人認識機能のたまものだった。
その後、C国内は暴動と内乱の風が吹き荒れた。
その中で一つの勢力が台頭した。
ネオ・レッド。
また、資本家狩りを始めた。
日本はと言うと、その事実を隠した。
そんなことがばれたら、もう輸出できなくなる。
だが輸入禁止の素振りを見せた国があった。
でも、すぐに撤回した。
「輸入禁止したら、勝手に人形が躍り出すかもしれないなあ」
と日本政府が脅したという。