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ただの辺境の道具屋です

作者: 綾崎オトイ

設定ゆるゆる。

婚約破棄ざまぁ要素はあまりないです。

 王都から遠く離れた辺境の地。

 国の端、辺境の地の村であるここはそれなりに栄えている。王都みたいな華やかさはないけれど、それなりに人の賑わいもある場所。


 というのも、このあたりはかなり強い魔物なんかがいる地域で、強い冒険者が集まってくるから。彼らが立ち寄るこの村は村といえどもどちらかといえば街に近い感じ。

 村にあるには不自然なくらい立派なギルド支部だってあるし、宿泊施設や娯楽施設なんかもそろっている。

 その分村の周りは辺境というにふさわしい危険地帯で、魔物も多くてすぐ近くにかなり難易度の高いダンジョンと言われる地下空間も複数ある。村の外に広がるのはまともに人間が近づけないような魔の森だし。

 だからこの村に住んでる人達もそれなりの実力者が多い。全員そうってわけでもないけどね。


 あたしは極々普通の戦闘なんてからっきしの道具屋。

 一つ普通じゃないとすれば、この国の王太子様の元婚約者、ってことかしら。

 いや、ほんとに。冗談じゃなくて。

 訳ありなのよね、あたし。



 ***


「エリスの嬢ちゃん邪魔すんぞー」


 あたしの店のカウンターで頬杖をついて暇を持て余していれば、店の入口から見知った顔が入ってきた。


「あ、ガブリスさん。いらっしゃい」


 ガブリスさんは常連のお客さん。

 あたしがこの村で道具屋を始めてからまだ二年くらいなんだけど、この村の人たちは優しく受け入れてくれて、ガブリスさんみたいにかなりの頻度で顔を出してくれる常連さんまでできた。

 ガブリスさんは腕のいい冒険者らしい。あたしはよく知らないけど、ギルドでの実力を示すランクもかなり上だとか。

 顔の体は冒険者っていうか山賊みたい。この前は子供に泣かれてた。本人も外見のことは少しだけ気にしてるらしい。

 でも根はすごくいい人。女の一人暮らしは危ないぞってあたしのことも気にかけてくれるし、よくご飯も奢ってくれる。大衆酒場みたいな店をいっぱい教えてくれるの。店の外見はあれだけどご飯はすっごくおいしいお店。

 高級なお料理も確かに美味しいんだけど、やっぱり家庭的な美味しさにはそれを越す魅力があるっていうか、毎日食べても飽きない美味しさがあると思うのよね。


「今日は何が必要なの?」

「んー、ちと傷薬が切れちまってな。ついでに異常回復薬と火炎玉もくれ」

「はーい、かしこまりました!」


 ガブリスさんの傷薬は……っと。


 あたしはカウンターの中、背後にあった薬棚を見渡した。普通の傷薬でも何種類か調合を変えたものを置いてある。その人によって一番合うのも渡すことにしてるの。

 薬って体質に合う合わないが激しいしね。


 あと異常回復薬とー、火炎玉ね。

 火炎玉は取り扱い注意。あたしの魔力みたいなの篭ってるから、あたしの感情とかで異常反応しちゃうことあるんだよね。たまーに爆発させそうになるから慎重に。

 魔力阻害の効果のある箱に入れて持っていく。


「はい、お待たせしました。あとこれ、おまけ」


 代金を確認しながら、言われたもののほかに小さな袋に入った玉を渡す。

 中身はきれいな青色。小さな緑色の粒も混ざってるけど。


「ん? なんだこれ?」


 ガブリスさんはそれを手に取ってまじまじと見つめてる。

 ガブリスさんが持つと小包がさらに小さく見えるわ。ラッピングもちょっと可愛い感じにしちゃってるから違和感がすごい。


「んー……入浴剤、かな?」

「いや、なんで疑問形なんだよ」

「入浴剤みたいにしてるけど、疲労回復剤てきな効果があるから。もしよかったら使ってみて。効果は保証するから!」


 特別製の入浴剤。その辺の回復薬飲むよりよっぽど効果的だから、これ。

 冒険者が外で入浴できる機会は多くはないんだけど、魔術師とかいれば水出したりその辺の湖お湯にしたりできるしね。


 この入浴剤は少量でも効果抜群! しかも自然に害なし! 少し時間がたてば勝手に浄化されるすぐれもの!


 なかなかいいでしょ?

 開発したばっかりだからしばらくは常連さんにおすそわけ。評判がよかったら商品に加えようか考えようと思ってる。


「相変わらずすげぇもん作るな、嬢ちゃん。さすが魔女様だ」

「ちょっとその魔女ってやめてってばっ。あたしただの道具屋だからねっ!」

「ただの道具屋ならこんな効果すごくねぇからな?」


 がははっとガブリスさんが笑ったからあたしは膨れてみせる。

 いつの間にか魔女とか呼ばれ始めちゃってあたしは納得してないの。


「まあまあ、褒め言葉なんだからよ」


 拗ねたアピールをしていれば、空気をためて膨れてた頬に太い指をぶすっと刺して潰された。ちょっと地味に痛い。


「んじゃ、あんがとな。また来るわ」

「毎度あり~」


 手を振ってお見送りする。堅苦しくないのがこの村のいいところ。

 ガブリスさんが出て行った扉が閉まったのを確認して、うー、と伸びをする。ずっと店番だけしてると体固まっちゃう。



 ***


 あたしのお店は道具屋だけど、基本的にはなんでも揃ってる。

 武器だって売ってるし、冒険に使う道具も売ってるし、薬も揃えてある。なかなか効果があって評判いいのよ。その分魔女様とか呼び名つけられてるけど。

 その呼び方好きじゃないって言ってるのに全然聞いてくれないし。ま、聖女よりは魔女のがましかも。


 あたしが作れるものならなんでも置いてる。それがあたしの道具屋。のんびり気楽な辺境の村の道具屋。

 なかなかにこの生活は楽しくて気に入ってる。

 最近は口コミも広がってお客さんも増えてるし。


 最近よく来るのは勇者様。


 って言っても勇者様ってのは称号みたいなものらしい。

 ギルドのランクの最高よりさらに上って感じなんだって。

 だから世界に何人かいる。そんなに多くはないし凄く強いってことに変わりはないけど。


 そんなすごい勇者様の一人が二か月前あたりからあたしの店の常連様になった。

 もともとこの村を拠点にしてたみたいなんだけど、何年か帰ってきてなかったみたいで、あたしの店を知って気に入ってくれた。

 それからはたまに顔を出してくれるようになって、最近は毎日のように顔を出してくれる。

 勇者様のくせに回復薬とかの減りがすごい早いのよ。ほんとに強いのか心配になるくらい。あたしとしては売上貢献で嬉しいけど、大丈夫なのかしらね。


「エル」


 あ、来た。

 一昨日大量に買い込んでいったはずの勇者様、ハイドルークが店の扉を開けて顔をだした。

 整った容姿の美男子。顔はよくて実力があって、かなりモテるらしい。っていうのはお喋りな酒場のママが教えてくれたこと。

 気づけば愛称で呼び合うくらいには仲良くなった。

 毎日のように顔を合わせていたら当然か。


「いらっしゃい、ハイド」


「回復薬と傷薬と魔力回復薬がほしい」

「もうなくなったの?」


 一昨日あんなに買ったのに?

 どんだけ消費激しいのよ……。


「ちょっと魔の森深く潜ってきたからな」

「すぐ用意するから、ちょっと待ってて」


 カウンターの中には簡単な調合スペースを作ってある。

 ハイドはよく無茶な使い方するから、身体を壊さない程度に調合を少しだけ変えてある。もちろん効果は通常通りで。

 基本パーティ組まないスタイルらしい。回復薬がばがば使うのは本当はよくないから、それを聞いてからは調合を特別に変えてある。ちょっとめんどくさい調合だから普段はやらないけど。


「ああ、そうだエル」


 背後の棚からいくつか瓶を取り出したところでハイドルークが声をかけてきた。


「何?」

「これ、土産だ」


 どさどさとカウンターの上に何かが落ちてくる。


「こ、これ……っ!!」


 魔の森深くにしか生えない薬草と、ゴーレムの核、ドラゴン種の鱗、それから純度の高い鉱石まで。

 採取が難しい素材が大量に。

 ギルドでSランク依頼になるようなものばっかり。そう簡単に見られるものじゃない。


「エルにやる」

「いいの!?」


 売ったらかなりの額になる貴重な素材ばっかりなのに。


「俺の分もいくつか持ってるから気にしなくていい」

「ありがとう、ハイド! すぐ調合するから!!」


 上機嫌で調合を再開するあたしは自分でも単純だと思う。

 だけどあたし一人じゃ簡単には取りにいけないようなのばっかりなんだもん。買うにしても手を出せない値段になるし、舞い上がるのも仕方ないじゃない。


 ハイドの調合が終わる前にまた一人お客さんが入ってきた。

 目を向けると、近所に住んでいる酒場のママだった。年齢はよくわからないけど、みんなママって言うからあたしもママって呼んでる。グラマラスで色気のある女の人。

 ママもあたしの店の大切な常連様の一人。


「あら、ハイドも来てたのね。エリス、今日は化粧水あるかしら?」

「ありますよー」

「よかった。エリスの化粧水が一番いいのよ」


 あたしの気分だったりその日ある材料によってだったりするけど、この店には化粧品なんかも置いてあるから冒険者じゃない人もたくさん来てくれるんだよね。こっちもなかなか固定客がついててうれしい。

 一旦ハイドの調合を中止して、化粧水の入った瓶を取り出した。ついでにおまけの入浴剤もつけておく。


「はい。こっちはおまけの入浴剤」

「あら、ありがとう~。早速今日試してみるわ。あ、そういえば知ってるエリス?」

「何を?」

「ついに王子様と聖女様が結婚発表するらしいわよ~。盛大なお披露目式するらしくて王都はお祭り騒ぎですって」


 ……さすが、酒場のママは情報が早い。

 あたしもお客さんからいろんな話聞くけどこれはまだ聞いてなかった。


 にしても王子の結婚……ねぇ。

 この国に王子さまは一人だけ。つまりあたしの元婚約者様ってわけ。

 あたしはあんな男一瞬たりとも好きになったことはないし、婚約者になることを認めたこともなかったんだけどね。


「へ~、そうなんだ」

「聖女様は聖獣操るらしいし、見てみたいわよねぇ。あ、ありがとね。ハイドもまたいらっしゃいな」


 じゃあねぇ、と帰っていくママに手を振って、また調合している手元に視線を落とした。


 あたしはこの国の王子様の元婚約者だけど、元貴族ってわけじゃない。

 普通の庶民の街娘出身。

 王子に見初められたわけでもないあたしは昔から一人で薬を作って売ったりして生計を立ててた。気づいた時には親とかいなかったんだよね。覚えてることもない。周りもそういう子供が多い地域であんまり気にしてなかったけど。

 その中で大ヒットしたのが育毛剤。。髪の毛薄くなってきた人に効果的なあれね。みんなの永遠のお悩みのあれ。

 なかなかに噂が広まってたらしくて、実は薄毛に悩んでたらしい王様がお忍びで買いに来た。そこで目をつけられたってわけ。王様に。

 それで気づいたときには王子の婚約者。

 自分のハゲのためってあの親父腐ってるでしょ。


 無理矢理婚約者にされたうえにあのバカ王子、ほかの女連れてきて聖女だからとか言い出して。聖女と偽ってたあたしを追放するとかあのハゲまで便乗してきて、勝手に婚約破棄で辺境に追放。

 聖女が来てからハゲが治ったとか、騎士たちの傷が癒えたとか力が湧いたとか、ふざけんな。直前にあたしの薬飲んでたこと忘れてるとかどんだけ頭残念なのよ。

 もう二度と商品なんか売ってやるかばーか。ただで恵んでやってたのに恩を忘れてんじゃないわよ。

 まずあたし婚約者になるとか言った覚えないし、あんなバカ王子好きになったことなんてないし、なんであたしが勝手に惚れて捨てられたみたいになってんのよ。


「…………あ」


 やば。怒り込めすぎて爆薬になっちゃった。


「どうした?」

「あ、ううん、なんでもない」

「そうか」


 爆薬をそっと棚に置いて調合をやり直す。

 ハイドは興味深そうに店内の道具を見てるからまだ大丈夫。


「……よし、できた」

「毎回悪いな」


 丁度完成したところで顔をあげたら、ハイドがカウンター越しにのぞき込んできた。

 心なしかちょっと嬉しそうな顔をしてる気がする。


「なあ、エル」

「何?」

「一緒に王都に行かないか?」

「……は?」


 なに言ってんの、この男。


「あたしこの村出てく気ないんだけど」

「さっき聞いたろ? 王都でお祭り騒ぎだって。かなり盛大にやるらしいし、聖獣のショーなんてそう見れるもんじゃない。たまには俺と旅行もいいだろ?」


 ……聖獣のショー……ねぇ……。

 あんまり王都には戻りたくないのよね。


「俺となら危険な目には合わせないし、レア素材も取り放題だぞ?」

「いいわ」


 勇者ハイドルークの実力派保証されてるし、素材取り放題なら王都までの旅もいいかも。


「よし! 決まりだな」


 わしわしと髪をぐちゃぐちゃにされた。


「ちょっ……」

「明後日の朝迎えに来る」


 ……ま、たまにはいいかもね。こういうのも。

 ハイドが出ていく後姿を見ながらそんなことをちょっとだけ思った。



 ***


 王都に着くまでは思ってたより快適な旅だった。

 まあ、一回通った道ではあるはずなんだけど、あの時は馬車の中で身動きとれない状態だったし、かなり居心地悪かったのよね。


 ハイドはさすがは最強と言われる冒険者って感じで馬の扱いにも獣の扱いにも慣れてたし、戦闘も危うさは感じなかった。守られながら採取し放題でなかなか楽しかった。

 あたしの持ってきた道具も合わせれば野宿も困ることなかったし。


「ご機嫌だな」

「いい素材いっぱい手に入ったからね! ありがと、ハイド!!」


 これでしばらく素材集めとかいらないわっ。


「……ああ」


 微笑むハイドも目の保養になるし。

 イケメンなだけあるのよね。距離近くてたまにドキッとすることあったし。


「ちょうど式典に間に合うな。行くか、お姫様」


 王都についたのは昨日の夜。勇者様は太っ腹でかなりいい宿に泊まらせてくれた。あたしにドレスまで買ってくれた。

 遠慮はしたのよ? でもいつの間にか部屋に用意されてたらお礼言うくらいしかできないじゃない。

 動きやすくて派手すぎないあたし好みのドレスだったから、ドレスなんて久しぶりに着るけどこれなら転ぶこともなさそう。

 手を差し出しているハイドの服もいつもより上等なものになってて、騎士団の制服にも近いような恰好。あそこまでお堅くはないけど。


「なら、ハイドは王子様ね?」


 ハイドが王子様って、似合うけど似合わなくて、笑いながら手を取った。


 王城前の広場にはもう人がかなり集まってて、あたしたちは少し後ろのほうに位置を決めた。

 ここなら向こうからバレないだろうし、あたし的には嬉しい。

 て言ってもこっちからは結構よく見える。いい位置。


 楽団の音楽が鳴り響いて花火があがる。

 最初に登場したのは王様だった。

 あーあー、やっぱり頭薄くなってるじゃない。頑張って横の毛流して王冠で隠してるみたいだけど、隙間から見えてるわよ? ばればれ。


 ハゲ王が何か喋った後についに主役のご登場になった。

 拍手に迎えられて王子が聖女をエスコートしてくる。煌びやかな衣装に包まれた二人に歓声があがった。

 あたしも申し訳程度には拍手をしてあげた。

 まあ、お似合いなんじゃない? 頭の中お花畑王家ね。


「ハイド?」

「どうした?」

「何よ、この手」

「はぐれないようにな」


 王子と聖女が登場したあたりで、ハイドの腕が腰に回ってきた。

 まあ、確かに周りが前に押し寄せて転びそうにはなったけど。

 なんか、ハイドも妙に顔がにやけてない?



「本日は私たちのために集まってくれてありがとう。私たちはこうして民に祝われて非常に幸せだ。今、私の隣にいる時期王妃となるアミアは聖女だ! 正真正銘の聖女が私の妻となってくれる! 本日は皆に聖女と聖獣の奇跡を見せたい!!」


 王子の言葉に民衆が湧いた。

 まあ、聖獣はすごい貴重だからね。聖獣がいる国は周りから攻められることもない。繁栄が約束される。そう言われてるくらい大切な存在。

 でも聖獣を見ることができる人は限られてる。ほとんど伝説の存在みたいなもの。

 そんな聖獣と心を通わせて扱うことができるっていうのが聖女の証って言われてる。


「楽しみだな」

「ハイドも初めて見るの?」

「聖獣なんてそう見れるもんじゃないからな。古代龍なんかは見たことあるが」

「そっちのがすごくない?」


 古代龍なんてほんとにいたんだ。ただの伝承かと思ってた。さすが最強の勇者様。

 ていうか、あの次の婚約者アミアっていうんだね。初めて知った。たぶんあたしが話聞いてなかっただけだけど。


 その聖女様が空を見上げて手を伸ばした。

 太陽を遮るように三つの影が降りてくる。


「みんなも私たちのことを祝いにきてくれたのね! ありがとう! ね、私を乗せて飛んで見せて」


 お願い、と聖女が聖獣に手を伸ばした。見た感じは可愛い。

 聖女の前にいる聖獣は三匹。

 三匹とも黄金色に輝いていて神秘的な姿。美しいとしか言いようのない容姿で毛並みはここから見てもわかるくらいに綺麗。

 強いて例えるならそれぞれ鳥と獅子と狼に似ている。


 三匹の聖獣は聖女が近づいた瞬間にまた空に舞い上がった。

 聖女から離れるようにこっちに向かってくるのが見える。


 ……うわー、嫌な予感。


「エル、下がれ」


 ハイドがあたしをかばうように前に出てくれた。手は腰の剣に触れている。いつでも剣を抜きそうな雰囲気に、あたしはそれを止めた。


「ハイド、大丈夫」


 ぶつかりそうな勢いで飛んできた三匹は、あたしの前の空中で急停止した。急停止すぎて、突風がぶわりと吹き付ける。


「エリス!! 酷いではないか!!」

「そうよ! どうしてあたしがあんな心の濁った小娘の世話をしなきゃいけないのよ!!」

「グルルルル。エル、撫でろ」


 あららー。

 あらしを囲む三匹から一斉に責め立てられる。

 大迫力の音量に耳がきーんとした。


「えー、自称聖女様、駄目?」

「駄目に決まっておる!! あの小娘我らをペットか何かだと勘違いしおって!!」


 獅子の姿をした聖獣に吠えられる。


「……エル? どういうことだ?」


 横を見上げればいまだに剣に手をかけた状態のハイドと目が合った。


「あー……と、うーん、なんていうか、ね?」


 すごい説明しづらいなー。

 なんていえばいいかなぁ……。


「ちょ、ちょっと! みんないきなりどうしたの?」


 いつの間にか人がはけてできていた道から、王子様と聖女様と王様が近づいてきた。

 聖女様は困惑の声であたしたちを見たけど、あたしを見る目は確実に鋭い。

 あら怖い。


「グルルルルルゥ。近づくな、女」


「なっ、これは……どういうことだ……」

 走って崩れた髪形を気にしながら王様が恐る恐る声を出した。


「聖獣様?」

 王子も聖獣三匹に目を向けながら戸惑いを浮かべている。


「まさか、エルは聖女だったのか?」


 ハイドの言葉にはとりあえず笑ってごまかしておく。

 だって、ねえ? 聖女とかめんどくさいし?

 ていうか聖女じゃないし?

 ちょっと聖獣三匹とお友達なだけよ。


「そうよ! エリスこそあたしたちの聖女なんだから!」

「エリスがいうからそこの小娘の相手をしてやったというのにエリスをバカにしおって」

「限界だ。エルと行く」

「というか、誰だその男は」

「エリスの新しい男? あたしたちに挨拶もないなんて駄目男ねっ。やめときなさいっ」

「グルルルルル。エルは渡さない」


 聖獣三匹が騒ぎ出して煩いから一旦落ち着いてもらうことにした。


「ウリ。アクル。ラト。ちょっと黙って」


 とりあえず頭を撫でて落ち着かせる。

 ぐるぐると喉を鳴らしながらすり寄ってきてちょっと可愛い。

 あ、今の名前は三匹の名前ね。あたしが勝手につけたわけじゃないわよ? 三匹から聞いた名前。


「ま、待って?みんな騙されてるんだよっ。だって私はちゃんと奇跡起こせてたでしょ? その人は偽物なんだよ?」


 聖女様が何か言い出した。

 言いながらあたしのことを睨んでくる。


「黙れ小娘」

「そうよ! あたしたちは聖獣よ? 心が濁った女がなに言ってるのよ!」

「グルルル」


 ……まあ、聖獣のこと敬ってる人間が自称聖女名乗ったりするわけないわよね。

 三匹から名前も教えてもらってないみたいだし。


「はあっ!? 魔物のくせになに言って……っ、あ…………」


 あーあ、ついに本性登場ってやる?

 慌てて手で口を塞いでるけど意味ないよね、あれ。


「アミア?」

「ちっ、違うのよ! 今のは……」


 必死に王子に弁解する聖女様の前に王様が頭を押さえながら出てきた。


「エリス、やはりお前が王妃に相応しいと思っていたのだ。アミア! 聖女と偽るなど、愚かな真似を! 聖獣様、大変失礼な態度をとったようで申し訳ございません」


 ハゲが頭を下げてきてまぶしい。光が反射してるってもう完全にアウトだよね。

 あたしがいなくなる前より悪化してない?せっかくあたしの薬でまともになってたのに。


「いや、王妃になんてなりたくなかったし」


 何言ってんのこの人。

 今更取り繕うとか馬鹿なの? 本当にどうしようもないハゲ。


「アミアは聖女じゃなかったのか……。俺のことも騙してたのか……?」

「ちっ、違うのっ。これは……」


 後ろでは痴話喧嘩が始まっちゃってるし。好きでその女選んだんでしょ? どうしようもないわね、この国。


「た、頼む! 今までのことは謝る! なんなら私の愛妾にしてやってもいい!

 」


 ハゲがあたしに向かって手を伸ばしてきたから思わず後ろに後ずさる。

 近づいてこないでほしい。


「触るな」


 ヒュッと風邪を切る音がして、ハイドがハゲに剣を突き付けた。

 いつの間にかあたしとハゲの間に立って壁になってくれてる。

 早すぎて全然見えなかった。いつ剣抜いてたの?

 あたしの後ろからは三匹が威嚇してる。

 これは相当怖いんじゃない? 同情はしてあげないけど。


「……帰ろう、ハイド。やっぱりあたしはあの村のほうがいい」


 王都なんて都会はもうごめんだわ。

 のんびり道具屋してたい。


 ハイドの服の裾をひきながら言えば、鋭い空気が和らいで、あたしの腰に手を回してきた。

 またこれ?

 そのままグイと引き寄せられる。


「悪いが、こいつはもう俺のだ。お前みたいなのに渡すか」

「今度こそ我らも連れてってもらうぞ、エリス」

「着いてく」

「仕方がないからそっちの男も一緒に乗せてあげるわ!」


 呆然とする人波の中、アクルの背中に乗って空に舞い上がる。

 アクルは獅子の姿に似た聖獣。

 ほかの二匹は後で乗せてくれるって。今は両側を飛んでる。

 あたしの後ろにはあたしを抱え込むようにして乗っているハイド。


「あたし、あんたのものになってないんだけど」

「これからなるんだ。別にいいだろ」


 後頭部にキスを落とされる。


「勝手なこと言わないで!!」



 最強な勇者様と三匹の聖獣に囲まれてるけど、あたしはただの辺境の村の道具屋です。




こんな王家だと確実に国が崩壊しますが、思い付き小説なのでお許しください。

これを元に設定少しずつ変えて長編でも書いてみたいな~と思っております。盛り込みたい設定はあるからストーリー練っていきたい。

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