町の光景
会議はなかなか終わりそうにないので、わたしはプチドラを抱いて館を出た。あとで結論だけ聞けばいい。
「ねえ、プチドラ、あの会議で結論はまとまるかしら?」
「どうだろう。無理っぽいね。無理でもまとめなきゃならないなら、折衷説かな。結果的には最悪の選択になりかねないけど」
わたしたちは舘の周囲をぶらぶらと散策した。館の周囲には、貴族や騎士の屋敷、官吏の家などが建っている。つまり、閑静な高級住宅地兼官庁街だ。その区画を離れると、自由民の住宅地や商業地域などがあり、人通りも多くなっていく。
ただ、街中を行きかう人々の顔色はさえない。この町から1日行程のところで混沌の勢力とにらみ合っているのだから、人々の不安も当然だろう。
大通りの両側にはテントが張られていた。それも一つではなく、道の両側に多数並んでいる。テントは商業地区の中心部に近づくにつれて増え、中心部ではひしめき合うように無秩序に乱立していた。
「ところで、この辺りのテントは何なの?」
「多分、避難民の仮住まいだよ。住んでた土地を混沌の軍勢に占領された人たちが逃げてきたんだ」
「かなりの数の避難民がいるのね」
道の両側のテントのおかげで、真ん中にようやく馬車が1台通れる程度の隙間しかない。人の通行量もそれなりにあるものだから、通行人は団子状態で、なかなか前に進まない。それに、はっきり言って、汚いし、ゴミ捨て場の臭いもする。
「仕方ないわ。こうなったら……」
わたしはテントとテントの間を抜け、細い路地に入った。そして、その路地を走りぬけ、裏通りに出た。しかし、その裏通りもやはりテント通りとなっていた。そこで、もう一度、路地に入り、裏通りのさらに裏の通りに抜けたが、そこもテント通りだった。で、もう一度、更にもう一度と…… 結局、裏の裏の裏の裏の裏通りくらいまできて、ようやくテントのない通りに出たのだった。
「ここは閑散としてるのね」
さっきまで人でごった返していた大通りとは打って変わって、この通りに人気はなかった。道の幅は狭く日当たりも悪いが、それにしてもこの静けさは……
「戻ったほうがよくない?」
プチドラが耳元でささやいた。危険な香りがプンプンする。犯罪危険地帯っぽい雰囲気だ。わたしたちがもと来た道を戻ろうとすると
「そこの娘、ちょっと待つんだ」
悪い予感はよく当たるもので、革の鎧を着た肩幅の広い男が短剣を構え、行く手を遮った。さらに数人の男が物陰から現れ、わたしたちを完全に取り囲んだ。