会議は荒れる
次の日、早速、作戦会議が開かれた。ウェルシー伯以下、皇帝の騎士バーン・カニング氏の一行、ピーター・ジョン・ポール・ゴールドマン氏を筆頭とする騎士団の重鎮等、総数は20名程度だ。面白そうだったので、わたしは漆黒のメイド服を着てプチドラを抱き、伯爵の許しを得て会議の末席に連なることにした。
最初に騎士団長ゴールドマン氏が現状説明をした。騎士団長はがっしりとした体格で、渋いオヤジといった雰囲気だ。早い話、誰が見ても明らかだが、ウェルシー伯領は危機にあるとのこと。この数ヶ月で領土の半分を失い、都のミーから1日行程のところで混沌の軍勢と対峙しているという。このたび傭兵を大量に雇い入れて兵力を増強したので、皇帝陛下から遣わされた皇帝の騎士御一行の助力も得て戦局を打開したいとの話であった。
カニング氏は立ち上がり、堂々と胸を張って弁じた。
「現状は分かりました。ウェルシー伯自ら出陣し、全軍を率いて敵に当たるべきです。我々が一番危険な任務を引き受けますから、すぐにでも出撃しましょう」
それを聞いた騎士団長は、強い調子で反論した。
「何を言われる。敵軍と我が軍の兵力は、ほぼ同数。正面から力任せに攻めるのは危険ですぞ。それに、殿が自ら戦場に赴くなど言語道断、万が一の場合にはどうされるおつもりか」
「いや、兵は迅速を尊ぶと言うように、敵を打ち破れるのは今です。この時を逃してはいけません。ウェルシー伯ご自身が出陣となれば兵の士気も違います。一気に敵軍を打ち破るチャンスです」
最初の握手はどこへやらという雰囲気だ。話が長くなりそうなので、わたしは途中で会議を抜けた。
わたしはプチドラを連れて適当に館を散策した。ご隠居様のお城も広かったが、この館はそれ以上に広い。館の周囲には濠が巡らされ、広々とした庭園の手入れも行き届いている。
「ねえ、プチドラ、あの会議で二人が言い合ってたけど、どう思う?」
「一般論としては、速攻が有効な場合はあるだろうね」
「そうよね。でも、そうだとしても、騎士団長は、立場上、なかなか同意できないでしょう。新参者に主導権を握られては騎士団の面目にかかわるから、意地でもカニングさんの言うことはきかないと思うわ」
イメージ的には、地方の出先機関に出向してきたキャリア官僚が、当地の実情も知らずにやる気満々という、甚だ迷惑な状況だ。気の毒なことに、ウェルシー伯は両者の板ばさみで、古くから仕えている騎士団の意向を無視できないし、皇帝直属のカニング氏に恥をかかせるわけにもいかない。
わたしたちは館内に戻った。丁度会議が終わったところなのか、会議場からぞろぞろと人が出てきた。カニング氏の一行と騎士団の重鎮たちは、会議場を出ると、それぞれがひとかたまりになって反対方向に歩き出した。ひょっとすると殴り合いくらいはあったかも。わたしが野次馬的な期待をもってドアを開け、会議場に入ると、
「何者か!」
いきなり、わたしに向かって、ウェルシー伯の神経質な怒鳴り声が投げつけられたのだった。