とうとう悪運尽きて
伯爵殺害事件の捜査が始まると、カニング氏が真っ先に疑われた。外様だし、これまでの行状から見れば、当然といえば当然だろう。カニング氏は、ゴールドマン騎士団長やポット大臣など、文武の重臣からことごとく恨みを買うばかりで、味方は一人もいない。わたしも外様だけれど、わたしが伯爵とともに帝都まで赴くと思い込んでいたのは伯爵だけだし、ゴールドマン騎士団長やポット大臣も巻き込んだアリバイ工作もあり、疑いがかかることはなかった。
誰もが「カニング氏が犯人に違いない」、あるいは「カニング氏が犯人でなければ困る」と考えていたが、捜査はなかなか思うように進まなかった。
「くそっ! あいつが犯人に決まってるんだ。証拠だ、証拠さえあれば……」
この日も、騎士団長は悔しそうに館の壁を叩いていた。そんなに証拠がほしければ、くれてやろう。証拠はわたしが持っている。
「カニングさんたちの部屋を強制捜索してはいかがでしょうか。何か証拠の品が出てくるかもしれませんよ」
「そうしたいのはやまやまだが、何も出てこなければまずいことになるぞ。『やつらが潔白だ』というお墨付きを与えかねない」
「騎士団長、ちょいと、お耳を拝借……」
わたしは騎士団長の耳元でささやいた。カニング氏とエルフ女が「伯爵が皇帝陛下に宛てた手紙を首尾よく奪うことができた」と話していたことを。これはもちろんウソ、でっち上げだ。
「なっ、なんと、やつら、そんなことを…… しかし、そういうことなら、やつらを伯爵殺しの容疑で逮捕できるし有罪にもできる」
「ええ。今晩あたり、夜討をかける要領で、眠っているカニングさんたちを捕縛し、部屋中を捜索されてはいかがでしょうか。わたしも手伝いますから」
騎士団長は「おお」と、喜びの声を上げた。
その夜、
「プチドラ、そろそろ騎士団長との約束の時間よ。行きましょう」
「了解、マスター」
今は、草木も眠る丑三つ時、夜討にはピッタリだ。わたしとプチドラは部屋を出た。段取りとしては、騎士団の精鋭がカニング氏たちの部屋に踏み込み、まず、有無を言わせずカニング氏たちをがんじがらめに縛り上げ、次に、部屋の中を徹底的に捜索することになっていた。カニング氏の仲間に魔法使いがいるが、わたしにはプチドラがいる。万が一、抵抗されても、なんとかなるだろう。
証拠となる伯爵の手紙は、わたしの懐の中だ。わたしも捜索に加わり、あたかもカニング氏の部屋で発見したように見せかければ、カニング氏の悪運もこれまでだろう。
カニング氏たちの部屋の前では、筋骨隆々とした男たちが物音一つ立てずに勢ぞろいしていた。「かかれ」という騎士団長の合図で、男たちは一斉に部屋に踏み込んだ。カニング氏たちは、完全に不意を討たれ、抵抗するいとまもなく、縄でグルグル巻きにされてしまった。
捜索が始まると、わたしは適当な頃合を見計らって、伯爵の手紙を発見した(ように見せかけた)。これにより、カニング氏の容疑が裏付けられたのだった。




