しんでもらいます
わたしは一瞬、わけが分からず、「はあ?」と、呆けたように伯爵を見上げた。伯爵は話を続け、
「つまり、これは二人だけの秘密にしてもらいたいのだが、このたび帝国の都に私自らが赴くことになったので、君にも一緒に来てもらいたいと思って……」
伯爵によれば、先刻の会議は、結局、帝国政府の救援を仰ぐことで決着したという。最後にはポット大臣も泣きながら結論を受け入れたらしい。伯爵自らが使者として帝国の都に赴き、帝国宰相に直訴することになったとのことだ。
「この国も、場合によっては、お終いかもしれない。だから君にも、安全のため、私とともに都に来てほしいのだ」
なんだか要領を得ない話だ。伯爵は「あくまでも帝国宰相に直訴して救援を乞うのが目的だ」と言うが、わたしには「家臣は残って戦うが自分は先に逃げるので、ついてきてほしい」と言っているようにしか聞こえない。
「少し考えさせてください。あまり時間はかかりませんから」
その場では、とりあえず回答を保留することにした。
わたしはプチドラを抱いて部屋に戻った。この国を自分のものにするためには、伯爵と一緒に脱出するわけにいかない。それに、帝国に介入されては面倒なことになる。わたしは部屋の中や外、廊下を、もう一度、厳重にチェックし、誰もいないことを確認すると、プチドラを正面に見つめ、
「プチドラ、この際だから、伯爵を殺してしまいましょう」
「えっ!?」
「大きい声を出さないで。極秘事項よ。」
わたしはプチドラの口に手を当てた。プチドラは、二、三度うなずき、
「わかった。でも、本当にそれでいいの?」
「おかしいかしら。絶対にばれないような、完璧な計画を考えているのよ」
「いや、そうじゃなくって……」
なんだか話が噛み合わないような気もするけど、意味は伝わったようなので、まあ、いいだろう。
その夜、わたしは伯爵に「申し出を受ける」旨を伝えた。伯爵は、片膝をついてわたしの手を握り締め、
「ありがとう、君だけは私の味方だ。」
と、涙を流して喜んでいる。すでにわたしが見限っていることなど知らずに……
「ただ、このことを人に知られてはまずい。駆け落ちみたいだからね。私が先に出発して待っているから、君はあとから追いついてきてくれないか。くれぐれも、誰にも見つからないようにしてほしい」
「わかりました。では、待ち合わせ場所を教えてください」
伯爵はわたしに合流地点を示すメモを手渡した。伯爵自らお膳立てを整えてくれるとは好都合。伯爵がわたしを連れて町を出ることを当事者以外は誰も知らないなら、わたしに嫌疑がかかることはないだろう。伯爵の命を取る準備が整ったわけだ。




