歓迎の宴
その夜、ウェルシー伯の館では、皇帝の騎士バーン・カニング様御一行を歓迎する宴が開かれた。わたしもついでに招かれ、夜会用の高級なドレスも借りることができた。そればかりか、館で一室を与えられ、「しばらくの間、滞在してよろしい」との許可ももらった。望外の幸運だが、これは、わたしがカニング氏に「今日は泊まるところがない」と話すと、カニング氏が「カトリーナさんも『御一行』に含まれる」と強行に主張したからだ。人がいいのかバカなのか、この件に関しては彼の正義の押し売りに感謝しなければなるまい。
宴にはウェルシー伯と重臣や騎士たちが出席し、わたしを含めたバーン・カニング様御一行を歓待してくれた。伯爵は若く、背が高く、顔立ちも端正、なかなかいい男だ。他の出席者が夫人同伴なのに、伯爵だけはお一人の様子。それとなく人にきいてみたら、伯爵はまだ結婚していないとのことだった。
宴は滞りなく、特に事件もなく進んだ。適当に食べて飲んで踊ってという一般的なものだ。このまま順調に終わってくれれば問題はなかったのだが、
「あら、プチドラ、どこへ行くの?」
突然、プチドラがわたしの腕から離れ、走り出した。顔がかなり赤い。相当、酔っ払っているようだ。酒を飲ませすぎたかもしれない。連れてこなければよかったかと思ったが、もう遅い。
わたしはプチドラを追いかけた。が、なかなかつかまらない。プチドラは、とんだりはねたりして巧みに身をかわし、最後にひょいと若い男の肩に後方から飛び乗った。
「もう逃がさないわ。覚悟しなさい、プチドラ」
わたしは、プチドラに飛び掛った。しかし、プチドラは、さっと男の肩から飛び降り、その結果、わたしがその男にタックルをくらわせることになった。その男は、実は、ありがちなパターンだが、ウェルシー伯だった。
わたしがウェルシー伯を押し倒したことで、宴会場はすごい騒ぎになった。重臣たちは大慌てで伯爵を助け起こし、わたしは平謝りに謝った。ところが、結果的に、このとんでもない不祥事が幸いし、
「カトリーナ殿か。ははは。なんといっても、元気が一番だよ」
と、なぜだか、伯爵の覚えめでたく、わたしの名前と顔を覚えてもらうことができた。伯爵は、おてんばなほどに活発な女性が好みだそうだ。世の中、何が幸いするか分からないものだ。
宴会が終わり、部屋に戻ると、わたしはプチドラをむんずと捕まえ、
「あなた、さっきはひどい酔っ払いぶりだったわね」
「えへへ、目の前にアルコール飲料があると、つい、我慢できなくなっちゃう」
プチドラは笑ってごまかしている。顔はまだ赤い。
「まあ、結果的には吉と出たみたいだけどね。」
わたしは思わず、「ふぅ」とため息。昔話や伝承のドラゴンは酒好きとして描かれることが多いようだから、プチドラもその例に漏れずということだろうか。ただ、伯爵とは少しお近づきになれたようだから、この場は結果オーライということにしよう。




