万策尽きて
混沌の勢力との戦況は悪化する一方だった。ミーの町の防衛のため再び出撃した騎士団と傭兵部隊は、敵の勢いに押され、じりじりと後退を始めていた。
「ああ、このままでは滅亡してしまう! 皆の者、なにか良い知恵はないか?」
伯爵はすっかり弱気になっていて、会議の席上、ほとんど悲鳴に近い声で策を求めた。しかし、誰もがみな、沈痛な面持ちで押し黙るばかりだった。
「そうだ、どこかから費用を捻出して兵力を増強しよう。できるか?」
「無理です。国庫は大赤字、破綻寸前です。もはやどうにもなりません」
ポット大臣も頭に手を当ててうめいた。無い袖は振れないとは、こういうことだ。
この日も意味のない会議が終わると、わたしは適当に夕食を食べ、いつものようにプチドラを抱いてベッドに寝転がった。この間にも、前線では騎士団や傭兵部隊が混沌の軍勢と戦っているのだろう。ただ、最近の流れから考えれば、逆転はありそうにない。近いうちに、この町にも敵軍が押し寄せるだろう。
プチドラはわたしの胸の上で、
「どうしたの? このごろ考え事が増えたようだけど。混沌の勢力が攻めてくるのが心配?」
「プチドラ、あなたは最強のドラゴンなんでしょ」
「まあね。オークやゴブリンなら1万でも10万でも軽く蹴散らしてみせるよ」
プチドラは子犬サイズの小さな胸を張った。わたしはプチドラを抱きしめ、
「あなたには期待しているわ」
隻眼の黒龍が本気を出せば、敵を蹴散らすのは簡単だろう。でも、この国を奪い取るためには、それだけでは足りない。こんな時こそ頭の使いどころで……
無意味な会議は毎日のように開かれた。出席しているのは相変わらず、伯爵と、ゴールドマン騎士団長、ポット大臣など文武の重臣たち。なお、カニング氏は仲間とともに館の一室で謹慎している。
騎士団と傭兵部隊は後退を重ね、敵の軍勢がミーの町の近くまで迫っていた。戦局を打開するための妙手などあるわけがなく、会議はいつも重苦しい雰囲気に包まれていた。
「伯爵、おそれながら申し上げます。もはや、万策尽きました。ここは帝国宰相に掛け合い、皇帝陛下の御名において、正式な形での帝国軍の出動を要請する以外ありません」
騎士団長はうつむいて、伯爵と目を合わさず、意見を具申した。自主防衛が不可能になったので、帝国に泣きつこうという話だ。戦争のプロフェッショナルの騎士団長からこんな意見が出ることからしても、今が絶望的な状況にあることが分かる。しばらくの間、会議場は沈黙に包まれた。
その沈黙を破ったのは、官僚のトップ、ポット大臣だった。大臣は金切り声を上げ、
「わっ、わっ、私はっ! その意見に反対しますぞ!! 騎士団長ともあろう者が、伯爵領を帝国に売り渡すかのような、売国的発言! 聞き捨てなりませぬ!!」




