表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ☆旅行記Ⅱ 混沌の勢力  作者: 小宮登志子
第5章 侵攻作戦
44/63

二日酔いの果てに

 翌日、伯爵は青白い顔で館の中を徘徊していた。

「とても、この世のものとは思えない表情ですが、二日酔いですか、伯爵」

「う、うむ…… オ、オエ……」

 伯爵は話をするのも辛そうだ。でも、ものすごく気分が悪いからといって、今は寝てられる状況ではないはず。

「話によれば、カニングさんが宝石採掘地帯の手前まで進んだとか。もうそろそろ出かけていってストップをかけないと、勢いでどんどんと進んじゃいますよ」

「う、うむ……」

 伯爵は何度もうなずいたが、やがて、口を押さえて走り去った。どういう状況になっているか想像がつくが、あまり想像したくない。肝心なときにダウンとは、本当にしょうがない人だ。

 結局、この日一日、伯爵は使い物にならない状態だった。伯爵の言葉によれば「地獄の苦しみを味わっていた」というが、もし、この日を無駄にしなければ、あんなひどいことには……つまり、「後悔先に立たず」ということは、往々にしてあるものだ。


 その次の日、伯爵はようやく元気になって政務に復帰した。

「伯爵、ようやく復活しましたか」

「うむ。昨日は散々で仕事にならなかったが、今日からバリバリと働くことにしよう」

 伯爵の顔色もいい。普段の伯爵に戻っているようだ。

 わたしと伯爵が朝食を食べ終わると、丁度その時、前線から早馬が到着し、最新の戦況を伝えた。早馬の報告によれば、混沌の勢力は宝石産出地帯でも大した抵抗を見せず、わずか数時間の戦闘で撤退したという。で、カニング氏と義勇軍は勢いに乗り、行け行けドンドン、疾風怒濤の勢いでもって、更に奥地まで進撃を開始したらしい。

「……!」

 報告を聞かされたとき、わたしは声も出なかった。「ああ、天は我を滅ぼせり」とでも叫べばかっこよかっただろうか。

 しかし、伯爵は上機嫌だった。

「調子よく進んでいるではないか。敵に大した戦力が残っていないのかな。このまま順調にいけば、敵の本拠地を制圧し、完全に敵の息の根を止めることができるかもしれんな」

「それはあくまでも『順調に行けば』です。本当に順調に行くのでしょうか。敵の撤退は見せかけで、カニングさんと義勇軍を誘い込む罠かもしれません」

「うむ。それは分かっている。そうだ。こうしよう。早馬で、カニング殿と騎士団長に『とりあえず一旦進撃を停止せよ』という命令を出そう。今後のことは、そのあとから考えよう」

 伯爵は、あまりにも調子よく事が運ぶものだから、少々、舞い上がっているのだろうか。なんだか、言ってることが支離滅裂ではないか。

 わたしは賛成も反対もしなかったが、この時、侵攻作戦の最初の頃に漠然と抱いていた不安が確信に変わった。戦いは、こちらの大敗に終わるだろう。そろそろ自分の身の安全を考えなければならない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ