久々に隻眼の黒龍
「とても人にものを尋ねる態度には見えないわ」
「悪いけど、俺たち、あまり行儀よくないのでね」
ドーン氏には、この前に(いかさまだけど)わたしの恐ろしさを思い知らせてやったはずだ。冗談でないとすれば、学習能力がないのか、あるいは何か秘策でもあるのか……
「まあいいわ。ききたいことって?」
「ほかでもない、あなたが俺たちの敵なのか味方なのかということさ」
「はぁ?」
「俺たちは下層階級だ。あなたにはいろいろと世話になったが、クソッタレの伯爵と仲良くしているなら……貴族の犬なら、話は別だ。志願兵集めや軍隊の出発パレードの時、あなたが伯爵のところで役人として働いているのを見た者がいるが、それは本当なのか」
「もし、Yesと言ったら?」
「俺たちの掟にしたがって、あなたを殺さなければならない」
ドーンたちは本気のようだ。傭兵は可で役人は不可というのも妙な話だが、気持ちは分かる。傭兵は下層階級に、役人は貴族(の協力者)に属するという仕分けだろう。この前に、「貴族が嫌いだ」という話はきいたが、掟まであるとは思わなかった。ドーンの暴力的非合法活動団体は、理念として、下層階級の革命組織あるいはテロ集団を標榜しているのだろうか。
わたしは自分の顔の近くにプチドラを抱き上げ、小声で言った。
「プチドラ、今度わたしが合図したら、本来の大きさの隻眼の黒龍モードに戻って頂戴」
「いいよ」
わたしはドーンを真っ直ぐににらみ、
「答えはYesよ。ただ、『貴族の犬』とは心外だけど」
「な、なにぃ!」
ドーンたちは、2、3歩、後ずさった。内心では「No」という答えを、すなわち戦いの回避を期待していたかもしれないが、見通しが甘い。こういう場合、あらかじめ次にどう動くか決めてから実行に移すものだ。わたしの返答をきいてすぐに斬りかかっていれば、万に一つのチャンスはあった。でも、ドーンとその仲間たちがまごついたことで、最初の、そして最後のチャンスを逃してしまった。
「教えてあげるわ。わたしが何者か」
わたしはプチドラを空中に放った。プチドラは、むくむくと象のように大きくなり、巨大なコウモリの翼を左右に広げた。闇夜のように真っ黒の体色に、左目だけが爛々と光っていた。
「ひぃぃ!」
ドーンたちはドラゴンを目の前にして、恐怖のあまり、その場にヘナヘナと座り込んでしまった。脅威が目に見えるだけに、効果は絶大のようだ。




