皇帝の騎士
わたしと6人のパーティーは、形どおりの自己紹介をした。若い戦士は、バーン・カニングと名乗った。なお、他のメンバーの紹介は面倒なので省略。話によれば、カニング氏の一行もウェルシー伯領の都、ミーに向かっているという。皇帝陛下の御下命によりウェルシー伯の救援に来たということだが、初対面のわたしにこんなことを喋ってもいいのだろうか。
「たった6人で救援とは、皆さん、ものすごい豪傑なんですね」
わたしは感心したフリをして言った。でも、内心では、こいつら一体何者、みたいな……
「バーンは『皇帝の騎士』なの」
エルフ女がカニング氏に抱きつき、自慢げに言った。見たところ、カニング氏とはラブラブのようだ。パーティーの他のメンバーは「また始まった」という顔でこの状況を眺めていた。
不意に、やつれた魔法使いが子犬サイズの黒龍を持ち上げて言った。
「これは、変わった生き物ですね。しかも隻眼……」
「かわいいでしょ。南方の辺境地帯で捕まえたの。名前は『プチドラ』」
魔法使いは上下左右から黒龍をじろじろと見回したが、やがて、気が済んだのか、地面に放した。プチドラとは、とっさに思いついた名前だが、なかなかよさげな感じがする。
わたしたちはミーの町まで一緒に行くことにした。旅は道連れともいうが、けったいな連中に捕まったものだ。「皇帝の騎士」とは皇帝直属の騎士のことで、世襲のほか、帝国に格別の功績があった場合にも任命されるとのこと。数年前、カニング氏と仲間たちが帝国を揺るがす大事件を解決した功績により、リーダーのカニング氏だけが「パーティーを代表して」という形で皇帝の騎士の栄誉を受けたという。ただし、カニング氏には俸給も領地もないそうで、それでいて、皇帝の命令で助っ人という労働義務を課せられたわけだから、一体、何の得があるんだろう。他人事ながら少し気になる。
「ところで、この黒いメイド服に、何か意味はあるんですか」
カニング氏が尋ねてきた。漆黒のメイド服は異様に映るのかもしれない。
「いえ、別に。現実的な問題として、手持ちの資金で購入できるのはこれだけだったのです」
いい加減に嘘八百を答えたが、カニング氏は納得したようだった。なんとも単細胞なお人。すると、プチドラはわたしの肩によじ登り、小声でささやいた。
「ぼくの正体も明かさないで『不思議な生き物』で通してね。その方が面倒なさそうだし」
「当然でしょ。情報を与えないのがセキュリティーの基本よ。それと、あなたの名前はプチドラに決まりね」
プチドラは不満そうだ。もちろん、安直なネーミングに。なお、わたしは最初の自己紹介でも単に「カトリーナ」としか言っていない。ご隠居様のご命令はご命令として、用心するに越したことはない。
やがて、わたしたちはミーの町に着いた。町では、騎士団が勢ぞろいして、わたしたちを出迎えていた。厳密に言えば、皇帝の騎士バーン・カニング様及びその御一行様を。騎士の一人が進み出て、カニング氏に握手を求めた。
「私はピーター・ジョン・ポール・ゴールドマン、騎士団長です。よろしくお願いしたい」
カニング氏とゴールドマン騎士団長は、がっちりと固い握手を交わした。