出陣のパレード
一夜明け、今度こそ本当に伯爵領の命運をかけた侵攻作戦が始まった。今回は、一般の住民が義勇軍として参加していることもあり、出発の際、ちょっとしたパレードが行われた。実はこのパレードは、事前に計画されていたものではなく、急きょ催されたものだ。すなわち、出発の朝になって、義勇軍に出陣のはなむけを贈ろうとする人たちが兵営に殺到したので、止むを得ずそのための場を設けたということ。
事務屋としては、突然の予定変更は非常に迷惑だが、こればかりは仕方がない。ポット大臣も「やれやれ」と疲れたような顔をしながら、それでいて適切な指示を出していた。
ただ、実際には、パレードといっても大したものではない。兵営から町の中心部を通り、町の外へ抜ける道中において、兵隊が適当に愛想を振りまくだけだ。沿道では、愛国的な人たちか単なる野次馬か、多くの人が集まり、声を枯らして声援を送り、志願兵は妻子に勝利を約束し、別れを惜しんでいた。
今回の戦いで、どの程度が生きて帰ることができるだろうか。問題点ばかりで問題点が解決されないままの出撃だから、それほど良い結果は期待できないだろう。
プチドラはわたしを見上げ、
「なんだか、心配事がありそうだね。まあ、分かるけど……」
内情を知っていれば、誰が見ても、楽観的な見通しは持てないと思う。前回の戦いぶりから考えれば、たとえ楽勝で勝つべき戦いであっても、ミスの連発でフイにすることもありそうだし……
カニング氏と帝国宰相の密約の話も気にかかる。あのカニング氏が生まれにおいて貴族とは思えない。一般論として、貴族への参入障壁は極めて高く、平民から貴族への移動がほぼあり得ないことを考えれば、「混沌の勢力を撲滅すればカニング氏をウェルシー伯に任命する」という約束も眉唾物ではないか。カニング氏が空手形をつかまされている可能性もあるが、もしかすると、メルヘンの世界のように慣例を破って大抜擢ということも…… ともあれ、現時点では分からない。
夕方になって、ようやく全軍を送り出し、一息つくことができた。館の中庭でプチドラをひざに乗せて休んでいると、伯爵がやってきて、
「ご苦労であった。急にパレードの話になったが、よく対応してくれたね」
「わたしはポット大臣の指示に従っただけなので、今日の一番の功労者は大臣でしょう」
「うむ。でも、大臣も、君がいてよかったとか言ってたぞ」
伯爵は、今回の戦いには従軍しない。ミーの町で全軍の総司令官として全体の指揮をとることになっているが、早い話、お留守番だ。伯爵は、西の空に眼をやり、言った。
「今回の侵攻作戦はうまくいくだろうか。君はどう思う?」
「ゴールドマン騎士団長とカニングさんの采配にかかっていると思いますが。前回の戦いのこともありますから、なんとも……」
「うーん……」
伯爵も先行きに不安を抱いているようだ。もし、カニング氏と帝国宰相の密約が本当だったとしたら、戦いに勝ったとしても、伯爵にとっては何もいいことはないのだが。




