切りたくても切れない事情
「はぁ~」
伯爵は大きくため息をついた。
「いっそのこと、騎士を侮辱した罪でカニング氏とその仲間を逮捕してはいかがですか」
「それができれば苦労しないんだ。でも、お金が絡むことでもあるしなあ……」
「はい?」
伯爵によれば、問題児のカニング氏を切りたくても切れないのは、ゼニカネの問題がすべてだという。伯爵領は混沌の勢力に攻め込まれてから数ヶ月間、負け続けた。宝石産出地帯は敵に占領され、台所は火の車、財政は破産寸前で、本来なら反撃もままならない状態だった。
そこに手を差し延べたのが帝国宰相だった。宰相は宝石産出地帯を担保に、莫大な資金融資を約束した。混沌の勢力を駆逐できなければ不良債権になってしまうが、成算があったのだろう。なお、宰相が直接お金を出すのではなく、宰相と結びつきの深い政商「マーチャント商会」が実際の融資を行った。
帝国宰相とかマーチャント商会とか、いかがわしげな雰囲気。伯爵によれば、とにかく、混沌の勢力を宝石産出地帯から追い払い、利息(年利50%!!!)をつけて借金を返済しなければならないという。サラ金もビックリ、なんというぼったくりだろう。
「でも、カニングさんと融資のどの辺りに関係が?」
「要は、あいつは宰相の犬、スパイなのさ」
宰相はお金を出すだけでは不安だったのか、確実に混沌の軍団を宝石産出地帯から追い出せるよう、以前に帝国を揺るがす大事件を解決した「皇帝の騎士」バーン・カニング(とその仲間)を派遣した。銀行が融資先の企業に役員を派遣するようなものだ。伯爵もカニング氏をクビにしたいけれど、宰相やマーチャント商会の意向には逆らえないので、仕方がないという。
しかし、カニング氏がお目付け役とは、人選を誤ったとしか思えない。実績を見て人物を見ないで選んだのだろうか。帝国宰相は伯爵とマーチャント商会の間に立ってマージンを受け取っているだろうから、少なくとも損はしないと思うけど、混沌の軍団を宝石産出地帯から追い出せない限り、融資を行ったマーチャント商会は大損だ。どうするつもりだろう。他人事だけど、少し気になる。
「騎士団長をなだめに行こうか」
伯爵は力なく言った。行きがかり上、わたしも伯爵についていった。騎士団長は部屋の隅でポット大臣と話をしていた。というか、大臣に愚痴をこぼしていた。
「あのガキめ、栄光ある我ら騎士団を侮辱しおって……」
「まあまあ、所詮、成り上がり者が調子に乗っているだけのことです」
なんだか、本当に勝てる気がしなくなってきた……




