壮行会にて
侵攻作戦の前日、伯爵の館で大規模な壮行会が行われた。伯爵、ゴールドマン騎士団長を始めとする騎士団の幹部、カニング氏とその一行、ポット大臣以下の高級官僚が参加した。わたしもどういうわけか官僚枠で、プチドラを抱いて出席した。
壮行会といっても、実質はパーティーで、最初に伯爵からありがたい訓示を頂戴し、その後は適当に飲んだり食べたり踊ったりというありきたりのものだ。
「ねえ、カトリーナさん、ちょっと……」
「あら、あなたは……」
突然、声をかけられたので、振り向くと、そこにはカニング氏の連れのエルフ女が立っていた。
「ありがとう。あなたのおかげよ」
エルフ女はわたしの手をとり、感動的に語った。カニング氏が、わたしのアイデアをさらに発展させ、侵攻作戦を思いついたこと、この侵攻作戦が100%成功するであろうこと、カニング氏が寛大にもゴールドマン騎士団長に名誉回復の機会(騎士団・傭兵部隊の総大将の地位)を与えたこと、混沌の勢力を撲滅すればカニング氏は皇帝陛下から特別の思し召しを賜ること等々。
「それはよかったですね。お役に立てて何よりです」
「ありがとう。あなたとは、これからもずっと友達でいたいわ」
エルフ女はわたしの手を取り、情熱的に力を込めて握りしめた。そして、カニング氏のところに戻っていった。
「なんとも言いようがないね。普通、エルフの女性といったら、もう少し……、いや、本当に嘆かわしい」
プチドラはわたしの肩に乗り、耳元でささやいた。
「そりゃ、あのカニングさんと一緒にいれば、ああなると思うわ。でも、ゴールドマン騎士団長に名誉回復の機会って……、本当に大丈夫かしら」
「それは多分、自分が優位だということを実感したいという、なんと言うか、そういう感情だろうね」
混沌の軍団も前回の戦いでかなりのダメージを被っているはずだが、カニング氏とゴールドマン騎士団長が指揮官では、先行きは危ういような気がする。いっそのこと、わたしがクーデターでも起こして、兵権を掌握するほうが、幾分マシかもしれない。
その時だった。
「くそったれ! やってられるか、馬鹿馬鹿しい!!」
突然、大声とお皿の割れる音が聞こえた。見ると、カニング氏の連れの人相の悪い人がカニング氏につかみかかろうとするのを、同じく連れのやつれた魔法使いと白っぽい衣服のプリーストが抑えていた。




