志願兵募集
その後しばらくして、「混沌の勢力に対する今後の対応について」を議題とする作戦会議が開かれた。会議の場で、カニング氏は、自分のアイデアのように、志願兵による義勇軍の創設を提案した。
「前の戦いでは混沌の軍勢を撃退したとはいえ、完全な勝利を収めたとは言えません。ここは兵力を増強し、混沌の軍勢を完膚なきまでに打ち破るべきなのです。そのために、私が町に出て、町の人々の中から志願兵を募りましょう。特に、混沌の軍勢の占領地から避難してきた人たちには、大いに期待している。自分たちの故郷を、自分たちの土地を取り戻すため、彼らは奮って志願してくれるでしょう」
会議場に参集した面々からは、「おお」という、驚きとも感動ともつかない声が上がった。伯爵は何度かうなずき、カニング氏を志願兵募集の責任者に任命した。
なお、ゴールドマン騎士団長も出席していたが、一言も発しなかった。前の戦いで大失態を演じた後とあって、発言しにくいのかもしれない。苦虫を噛み潰したような表情で、カニング氏の話を聞いているだけだった。
会議が終わると、わたしはプチドラを抱き、中庭に出た。今日はいい天気、ポカポカと暖かい陽気だ。
「やっぱりあの人、自分が考えたみたいに言ってたわね」
物事が予想や期待の通りに動いてくれるのは気持ちがいいものだ。しかしプチドラは面白くなさそうに、
「二重にアイデア盗用と思うな」
「いいのよ。募集の責任者にされたら面倒でしょ」
「それはそうだけど……」
わたしとプチドラが日向ぼっこをしていると、中庭の片隅で、カニング氏の仲間の魔法使いと人相の悪い男がヒソヒソ話をしているのが見えた。人相の悪い男は地面に唾を吐きかけ、魔法使いはうつむき加減に腕を組んでいる。どうでもいいことと思うけど、何だか気になる。
「ねえ、プチドラ、あの魔法使いと人相が悪い人の話を、ちょっと盗み聞きしてくれない?」
「いいよ。でも、あまりいい趣味とはいえないね」
プチドラは見つからないように完全に姿も気配を消し、二人のすぐそばに張り付いた(わたしの目に見えていたわけではなかったが)。しばらくすると、二人はキョロキョロと周囲を見回し、別々の方向に歩いていった。
その時、突然、肩が重くなった、と思ったら、プチドラがわたしの肩の上で姿を現した。姿も気配も消したまま、こっそりとわたしの肩に飛び乗ったのだろう。
「で、どうだった? 面白い話はあった?」
「全然なかった。でも、カニングさんたちの仲が、あまりうまくいってなさそうなことは、分かった」
プチドラによると、二人はこっそりとカニングさんへの悪口を語り合っていたらしい。「スタンドプレーが多い」、「自分たちに相談がない」、「そんなに偉くなりたいのか」、「帝国宰相とどんな密約を交わしたのか」等々、やっかみや嫉妬を聞かされたという。プチドラにはつまらないことをさせてしまったかもしれない。




