頭の薄い三白眼の男
館に戻ると、入り口で、数名の立派な身なりをしたオヤジどもと入れ違いになった。それなりの社会的地位にありそうだが、なんだか怪しい。オヤジどもは、わたしが不審の目を向けていることに気付くことなく、町の方に歩いていった。一方、館の中では、伯爵が腕を組み、眉間にしわを寄せて考え事をしながら歩き回っていた。
わたしはちょっとした好奇心に駆られ、
「伯爵、一体、どうなさったのですか。というか、すごい顔……」
「ああ、君か……、ちょっとね。ここではマズイな。執務室に行こう」
執務室はかなり広かった。しかし、書物や資料が山積みにされていて、なんとなく圧迫感を感じる。わたしは伯爵に勧められ、ふんわりとしたソファに腰掛けた。
「さて、何から話すかな。今はこの前よりもさらにマズイのだが……」
何がマズイのか知らないが、その時、ドアをノックする音が聞こえ、いきなり「伯爵、入ります」と入室の許可を得ることなく、薄い頭で背が低く三白眼の見知らぬ男が入ってきた。
「伯爵、例の件は……、ん?」
その男は、わたしの姿を認め、口をつぐんだ。しかし伯爵は、
「いいよ。話を続けて」
「そうですか。ならば報告いたしますが、これ以上、傭兵を雇う資金はありません。採掘地の利権を担保にするのも限界です。現有の兵力でやりくりしていただく以外ありません」
男は報告を終え、執務室から出ていった。伯爵は、「うーん」とうめき声を上げ、天を仰いだ。
伯爵の話を要約すると、こういうことだ。「この前の戦いでは、こちらにもかなりの被害が出た。兵力の補充のために傭兵を追加募集したいが、金がない。金を工面しようと努力しているが、国庫は債務超過状態で、これ以上の借金は無理。こんな状態の中で、混沌の軍団に占領されている地域の代表者(先ほど入り口ですれ違った立派な身なりのオヤジども)から、早期に占領地を奪回してほしいとの要請を受けたが、どうしようもないので途方にくれている」と。
伯爵の頭から悩み事が消えることはなさそうだ。悩みが多いのはえらい人の宿命だが、そういえば、ゴールドマン騎士団長の件はどうなったのだろう。きいてみると、結論的には、3日間の謹慎という異例の軽い処分となったそうだ。戦時中なのでほんの少しでも戦力を損ないたくないという判断なのか、重い処分を下せば町の人々から変に勘ぐられるかもしれないと考えたのか、あるいは財政危機のほうが大きな問題になったのか、真相は藪の中だけど。
「ところで、先ほど執務室に入って来られたのはどなたですか」
「ああ、彼は大臣だ。父の代から仕えてくれている。ジョン・ポットといって、自由民出身だが、仕事は非常にできる男だ」
見た目の印象としては、薄い頭と三白眼でちょっぴりキモい。あまり好きになれそうにないが、仕事ができるということだから、ご隠居様のところにいた執事さんみたいなことはないだろう。




