午後の殴り込み
「えっ?」
ドーン氏は不意を突かれたように、驚いてわたしを見た。
「だから、この際、そのライバルを完全にやっつけて、縄張りを奪っちまうのよ。相手がリーダーを失った今なら、多分、楽勝よ。ライバルに後援団体や同盟団体みたいなのがあれば、話は別だけど」
「なるほど、確かにその通り。今ならヤツらの縄張りを奪えるな」
「それと、この死体には使い道があるわ。運ぶには車が必要ね」
ドーン氏は、「へ?」と首をひねりながら、子分の招集と死体運搬用の荷馬車の用意を命じた。その場にいた子分たちは、命令を受け、人通りのない街中に消えていった。
ドーン氏は、どこか腑に落ちない様子で、
「この死体にどんな使い道があるんですか?」
「リーダーの死体を見せつけて相手の戦意を挫くのよ。まず、こっそりと敵の事務所を包囲して脱出路を塞ぐの。次に、この死体をさらして降伏勧告すれば、抵抗する者はいないでしょう。わざわざ殺し合わなくても、敵の縄張りと新しい子分が手に入るわ」
敵が絶対に抵抗しないという保障はないが、リーダーの大男が倒れたとき、だらしなく逃げ出すような子分たちだから、多分、うまくいくと思う。
ドーン氏は、なぜか、変な顔をして、まじまじとわたしを見つめた。
「どうしたの? わたしの顔に何か?」
「いや、やっぱりカトリーナさんは魔女なんだなと思いましてね」
「この場で焼け死にたい?」
「いやいや、そうじゃなくて! その気になれば、小さい町くらい、いつでも支配できそうなのに、どうしていつも神出鬼没なのかと……」
わたしは答えず、笑顔を返すだけにした。勘違いしてくれているようなので、そのままにしておこう。その方が何かと便利だ。
やがて、ドーン氏の子分たちが荷馬車を牽き、集結した。数十人というと、それなりの数だ。通りは子分たちで埋め尽くされた。ドーン氏は子分たちに手際よく命令を下し、すぐにライバル団体討伐作戦を実行した。野次馬的にわたしも見に行ったことは言うまでもない。
作戦は、ほぼ、こちらの目論見通りに遂行できた。ライバル団体のアジトを包囲し、リーダーの大男の死体をさらして降伏勧告すると、一部に逃亡を図って斬り殺されたのもいたが、大部分は抵抗せずに降伏した。
夕方、前回のように途中まで送ってもらったのだが、別れ際、ドーン氏は、
「仲間になってくれれば本当に心強いんですがね……」
「今は無理だけど、そのうちにね。でも、時々、何の脈絡もなく遊びに来るから、そのときはよろしく」




