凱旋ムードの街中
戦いはようやく勝ちを拾った程度の辛勝だったにもかかわらず、なぜか、ミーの町は凱旋ムードで沸き立っていた。街を行き交う人々の顔つきも明るくなり、通りや市場では景気のいい声が上がっていた。町のあちこちで、あたかも楽勝で敵を蹴散らしたかのようなうわさ話が交わされていた。
「一応、勝ったといえるけど、いくらなんでも、ウソでしょ」
この日、わたしはプチドラを連れ、特に目的もなく、街中をぶらぶらと散策していた。町は半ばお祭り騒ぎ、昼間から酔っ払って歌を歌っている者もいる。勝ったとはいえ味方の被害も大きく、こんなに大喜びできる状況ではないはずだ。
「ねえ、プチドラ、町の人はどうしてこんなにバカみたいに喜んでいるのかしら」
「僕らは戦場にいたから知ってるけど、町の人たちは実情を知らないんだろうね。勝ったという部分だけが一人歩きしちゃったかもね」
なんなんだか……
そのうち、いつものことだが、わたしは道に迷ってしまった。
「困った……」
「でも、この前もそうだったけど、なんとかなるんじゃない?」
プチドラは楽観的だ。もちろん、わたしも本気で困ったわけではない。ただ、迷い込んだ先の、人通りがほとんどなくて、汚くて、悪臭漂う通りには辟易していていたが……
その時、
……オラー、ゴルァー、ドォリャー、ウッギャー……
通りの先から、意味不明の掛け声(悲鳴?)とともに、金属のぶつかり合うような音が聞こえてきた。わたしはプチドラを抱き、反射的に路地に身を隠した。誰かと誰かが刃物で斬りあっているような雰囲気だ。君子危うきに近寄らず。わたしは建物と建物の隙間でじっと息を潜めた。
掛け声(悲鳴)と金属音は大きくなり、声と音の主は、路地で隠れているわたしの目の前にまでやってきた。予想通り、数名のグループ同士の命がけの喧嘩のようだ。わたしは見つからないように、プチドラを抱いてこっそりとその場を離れようとしたが、よく見てみると、
「あら、あの人は……」
喧嘩の一方は、この前に会ったアーサー・ドーン氏とその仲間たちだった。「暴力的非合法活動」をしているという話だから、この程度のことは日常茶飯事かもしれない。
しかし、現在のところ旗色は悪く、一方的に押されているように見える。特に、ドーン氏の直接の相手は身長2メートルを超える大男で、敵側のリーダーだろう、圧倒的なパワーに物を言わせ、猛烈な勢いで剣を振り下ろしてくる。わたしはプチドラの耳元でささやいた。
「ドーンさんに加勢しましょう。でも、それとは気付かれないように、できる?」
「任せて」




