戦後処理における問題点
戦闘は終わった。混沌の軍勢に打撃を与えて退却させ、戦場を確保できた(一応、勝利といえよう)とはいえ、味方の被害も非常に大きく、追撃戦の遂行は誰が見ても不可能であった。身体能力や装備面での優位性を考慮すれば、実質的にはこちら側の敗北と言えるかもしれなかった。特にひどかったのは騎士団で、半分程度の戦力を失っていた。さらに、傭兵にも死傷者が多数あり、伯爵領の失地回復のため新たな侵攻作戦を実行する場合には、相当の兵力の補充が必要であった。
ミーの町に帰還する兵士たちの足取りは重かった。
伯爵は大いにご立腹だった。ゴールドマン騎士団長のヘマのせいで、緒戦から苦戦が続き、多大な犠牲を払ってようやく勝てたという程度の辛勝に終わったのだから。騎士団長は伯爵の不興をかい、肩身の狭い思いをすることになった。さらに、騎士団長を批判することにかけては誰にも負けない「皇帝の騎士」カニング氏が、会議のたびに、騎士団長の処罰を主張した。
「このたびの戦いの被害は極めて大きい。これは、作戦を無視して勝手に攻撃を始めた者がいたからです。そのような勝手を許しておいては、今後のためによくありません」
騎士団長は会議に出席しても一言も弁明することなく、怒りをこらえながら、ただ、じっとうつむいているだけだった。
カニング氏はさらに悪乗りして叫ぶ。
「騎士団の伝統と誇りはどこへ行ってしまったのか。自ら責任の所在を明らかにし、範を示そうという気概はないのか。嘆かわしい限りだ」
さすがにここまで言われたときには、騎士団長も耳を真っ赤にして鬼のような形相となり、カニング氏をにらみつけた。しかし、「食ってかかっても恥の上塗りになるだけ」と思ったのか、自らの拳を血が出るほど固く握りしめるだけだった。
伯爵は、夜遅く、一人で中庭にいることが多くなった。わたしは、どちらかといえば夜更かし体質だから、伯爵の姿を見つけると、プチドラを抱いて中庭に出るのが常だった。
「伯爵、こんな時間にいかがなさいました?」
「ああ、カトリーナ殿か。最近、眠れなくてね」
眠れない原因については、だいたい想像がつく。ゴールドマン騎士団長の処遇で悩んでいるのだろう。このまま不問に付すわけにはいかないし、死刑はいくらなんでもやりすぎだし。
「騎士団長の件で、お悩みですか?」
「うむ。正直なところ、困っているんだ」
「と、おっしゃいますと?」
「騎士団長は、今回、大失敗したとはいえ、父の代から仕えてくれている功臣だ。それに、騎士団長がいなくなれば、あのいまいましい『皇帝の騎士』は、ますます増長するだろう」
伯爵は、見ていて痛々しいほどだが、わたしにも妙案があるわけでない。いつも適当に言葉を交わし、適当な時間に別れるのだった。




