勝つには勝ったが
オーク部隊が後退を始めたことにより、戦況は逆転、今度はこちらの有利に進みつつあった。残されたゴブリン部隊とホブゴブリン部隊は押されている。あと一押しすれば、敵軍を崩壊に導くことができよう。
総攻撃を告げる伯爵の号令により、中央軍は前進を開始した。わたしもプチドラを抱いて馬車に乗り、伯爵のすぐ後ろをゆっくりと進軍する。伯爵はやや緊張している様子。今まで、戦場から離れた後方で指揮することはあっても、自ら敵陣に突入することはなかったのかもしれない。
中央軍が進軍を開始すると、左翼軍と右翼軍は奮い立った。伯爵の御前でかっこいいところを見せようと、負傷を厭うことなく、今まで以上の勢いで敵軍に襲い掛かった。その勢いは、ゴブリンやホブゴブリンで支えきれるものではなかった。
敵軍は、やがて、総崩れとなった。ゴブリン部隊やホブゴブリン部隊は完全に戦闘意欲を失い、散り散りになって逃げ出した。オーク部隊ははるか後方に退避していた。
そして阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられた。伯爵の軍団は、逃げ惑うゴブリンやホブゴブリンを追い回し、斬りつけ、踏みつけ、まさにやりたい放題。兵士たちは日ごろの鬱憤を晴らすかのように、気持ちよく殺戮を繰り返していた。
そのうち、あちこちから歓声が上がった。戦場からは敵が消え、ゴブリンやホブゴブリンの死体が至る所に転がっていた。敵を撃破し、戦場を確保することができたのだから、こちらの勝利と言えよう。ただし、オーク部隊はほとんど被害を受けることなく、後方に退却している。
なお、戦場に転がっていたのは敵の死体だけではなかった。味方の死体も多数あった。数えてみると、敵の死体の数より多いかもしれなかった。
戦闘が終了すると、伯爵は軍をまとめた。兵隊は、左翼軍、中央軍、右翼軍の別に、きちんと整列した。予想通り、軍はかなりの被害を被っていた。特に左翼軍の被害は甚大だった。
伯爵は、急遽、ゴールドマン騎士団長、カニング氏、幕僚たちを集めた。今後の方針を決定するためだ。わたしも本営勤務ということで、プチドラを抱いて同席した。
会議は、ゴールドマン騎士団長のつるし上げから始まった。カニング氏は特に強硬に「この場で首をはねるべきだ」と主張した。ゴールドマン騎士団長は何を思ったか、「先に敵から攻撃を受けたので、反撃しただけだ。キサマこそ左翼軍のピンチに何をやってたんだ」とカニング氏に逆切れ。とんだ泥仕合だ。
「被害は甚大、チームワークはバラバラか。わたしが仕切ってた方がマシだったかしら」
わたしは思わずポツリと独り言。プチドラがさっとわたしを見上げたので、わたしはあわてて口をふさいだ。幸い、誰も聞いていなかった。
敵を追撃するかどうかでも意見が分かれた。カニング氏ただ一人は速やかな追撃戦を主張したが、それが無理なことはカニング氏を除く誰の目にも明らかだった。結論的には、追撃をあきらめてこの地に陣地を作り、部隊の一部は監視に当たり、残る部隊はミーの町に帰還することになった。




