形勢逆転か
わたしはプチドラを抱き、本営を出た。
「残念だったね。でも、そのうち、正しいのはどちらかハッキリすると思うよ」
プチドラは言った。なぐさめてくれているのだろうか。
「それほど期待してたわけじゃないけどね。やっぱり自分の軍隊を持たないとダメね」
「えっ?」
「何でもないわ。提案が却下されるのは、ある程度、予想していたし」
戦場では、なぜか、右翼軍が当初の予定通り、敵の左翼軍に攻撃をかけていた。左翼軍の進撃が阻まれ、騎士団が敵の軍勢に取り囲まれている以上、作戦は既に失敗している。にもかかわらず、最初の予定通りに動くとは、カニング氏はよほど愚直な男か、それとも単純バカか。
「カトリーナ殿」
いきなり名前を呼ばれ、振り向くと、そこには伯爵が立っていた。
「せっかく策を提案してくれたのに、すまなかった。幕僚が全員反対していたので、私としても強権発動というわけにはいかなかった」
「いいえ。素人の考えたことですから、プロフェッショナルの目から見ると、問題が多いのでしょう」
「私も父のように戦上手であればよかったのに……」
伯爵は嘆息した。伯爵の父上は、何十回も戦場に出て一度も負けたことがなかったそうだ。ただ、残念なことに、陰謀によって非業の死を遂げたとか。そして急遽、伯爵があとを継ぐことになったが、老練な家臣たち相手に苦労が絶えないらしい。
戦場では、激しい戦いが続いている。ゴブリンやホブゴブリンとヒューマンの間の身体能力の差や、装備面に基づく優位性は、緒戦の左翼軍の大失策によりすっかりチャラになっていた。
この戦い、もし負けるとすれば、最初にその原因を作ったゴールドマン騎士団長は軍法会議ものだ。騎士団もそのことは承知しているのか、絶体絶命のピンチに火事場の馬鹿力を発揮したのか、常識外れの超人的・英雄的な奮戦を見せた。そして、今になってようやく包囲を破り、後方の味方歩兵部隊、さらに救援に向かっていた中央軍の(一部の)部隊とも合流することができた。
カニング氏の右翼軍も懸命に戦い、混沌の軍団の左翼軍に圧力を加えている。
「伯爵、あれを見てください」
敵軍の後衛にいたオーク部隊が少しずつ戦場から離れていく。オークたちは「雲行きが怪しくなってきた」と見たのか、ゴブリンとホブゴブリンを見捨て、自分たちだけ安全なところに退避しようとしているようだ。
「伯爵、今が勝負を決めるタイミングかもしれません」
わたしは伯爵を見上げた。伯爵は口を真一文字に結び、無言でうなずいた。




