戦況は動く
中央軍の一部を左翼軍の救援に差し向けたあと、伯爵は苛立って、本営の中を行ったり来たりしていた。声もかけづらいような雰囲気だ。これは、せっかくの作戦がゴールドマン騎士団長のチョンボでぶち壊しになったことだけが原因ではなかった。救援のため、ある程度のまとまった兵力を中央軍から割いたので、現時点での中央軍は非常に薄く、この薄みを突かれれば持ちこたえられそうにない。右翼軍のカニング氏も、味方のピンチにもかかわらず、なぜか、この時点では全く動こうとしなかった。
わたしはプチドラを抱いて本営を出た。本営は小高い丘の上にあり、戦場全体がよく見渡せた。現在、中央軍の前衛部隊が中央軍から離れ、左翼軍部隊に向かって進軍を開始していた。
「まずいわね。いざとなったら、頼むわ」
「うん。でも、そうならないことを祈るよ」
誰が見てもまずい状況。こういうときは神頼しかなさそうだ。
しかし、状況はすぐに一変した。敵の中央軍が見せた動きは、こちらにとっては非常にラッキー、そして、敵にとっては、結果論として見れば、敗北につながる大失着となった。
敵の中央軍はこちらの中央軍を攻撃しようとしなかった。不思議なことに、敵の中央軍のうち、最前列のゴブリン部隊とその後ろのホブゴブリン部隊が、ゴールドマン騎士団長の左翼軍に対する攻撃に参加すべく、自軍の右翼軍部隊に合流していた。敵の中央軍にはオークの部隊だけが残され、こちらの中央軍よりも守りの薄い状態となった。
「不思議なこともあるものね。今、こっちの中央軍を総攻撃すれば勝てそうなのに、どうしたのかしら」
「目の前にご馳走が並んでいるのを見て、我慢できなくなったんじゃないかな」
「ということは、こちらにとってはチャンス到来かしら」
「そうだね。で、どうするの?」
「予定を変更するの。カニングさんが率いる右翼軍の騎兵部隊が、ひとまず敵の左翼軍を放置して、敵の中央軍に突撃をかけるのよ。同時に、こっちの中央軍も、左翼軍への救援は後回しにして、敵の中央軍に向けて進軍よ。敵の左翼軍がどう出るか分からないけど、敵の中央を突破できれば、あとは何とかなると思うわ」
「この際だから、試してみてもいいかもね」
「提案してみるわ。『アドバイス』もわたしの『多用途任務』の一つみたいだから」
わたしはプチドラを抱き、本営に戻った。
わたしは本営で状況の変化を説明し、作戦の変更を提案した。ところが、評判は芳しくなかった。幕僚からは、「度重なる急な作戦の変更は混乱を来す」、「成功確率はどの程度か」、「伯爵を危険にさらすことになるのではないか」等々、官僚的な質問が返ってきた。伯爵は理解を示してくれたが幕僚の反対は強く、結局、作戦の変更は認められなかった。




