会議の果てに
会議場にはまだ明かりが灯っていた。中をのぞいてみると、騎士団長とカニング氏がにらみ合っていた。ただ、午前中からずっと意見を闘わせてきたせいか、両者とも疲労の色が濃い。騎士やカニング氏の仲間の中には、居眠りをしている者もいる。結論を出すならそろそろ潮時のはずだが、お互いに意地を張り合って、なかなか話が進まないようだ。
会議が終わらなければ晩御飯にありつけそうにない。わたしの腹もプチドラの腹もさっきから悲鳴を上げていた。わたしは静かに扉を開けて会議場に入り、伯爵の隣の席に腰掛けた。みんな疲れ果てているのだろう、咎められるようなことはなかった。
わたしは伯爵にそっとささやいた。
「そろそろお開きにしてはいかがでしょうか?」
「私もそうしたいと思っている。ただ、強権的に議論を打ち切るわけには……」
伯爵も会議を終わりにしたいなら遠慮はいらない。おそらくは、誰かが「終わりにしよう」と言うのを、誰もが待っているのだ。ならば、駆け引きなど無用。わたしは伯爵にニッコリと笑いかけ、立ち上がった。
「皆さん……」
と、わたしが言いかけた瞬間、
……グゥー……
ひときわ大きく、わたしの腹の音が鳴った。
座は沈黙に包まれた。しかし次の瞬間には、あちこちから笑い声が漏れた。ハプニングだが、場の雰囲気は和らいだようだ。わたしは内心ではチャンスと思いながら、表面上は恥ずかしそうなそぶりで、
「あの……、失礼しました。もうそろそろ、時間も時間ですし、伯爵にご裁断を仰いではいかがかと……」
「ははは……、そうだな。そうしよう」
騎士団長は言った。カニング氏も反対しなかった。そもそも決断するかどうかが問題で、話自体は一日中議論するほど複雑なものではなかったと思う。
伯爵はホッとしたようにわたしを見て立ち上がり、
「私の考えは決まった。今回の戦いでは、私自らが出陣し、勝利を磐石なものにしよう。しかし、総大将が軽々しく動くべきでない。私は後方で全軍の指揮をとろう」
伯爵の決定による作戦の大枠は、軍を左翼軍(ゴールドマン騎士団長が指揮)、右翼軍(カニング氏が指揮)、中央軍(伯爵自らが指揮)の三つに分け、左翼軍と右翼軍で混沌の軍勢を両翼から包み込むように攻め、包囲殲滅するというもの。明日の朝に出発し、1日かけて前線に赴き、明後日決戦を挑むという日程だ。よさそうな感じだけど、これは、やはり、折衷案ではないか。
ようやく会議は終わり、わたしもプチドラも夕食にありつくことができた。夕食は歓迎の宴と同じような形式で行われた。わたしとプチドラは適当に食べて飲んだ。そして自室に戻ろうと宴会場を出ると、
「カトリーナ殿、ちょっと、よろしいか?」
わたしを待ち構えるように伯爵が立っていた。




