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隠れる



さて。


今日も元気におはようございまっす。


私の一日は水やりからはじまります。

……実家の庭、大丈夫かなあ。使用人の誰かが最低限の世話はしてくれるだろうけど……気になる。


勢い良く家出しちゃったから、水やりとか虫がつきやすい種類の花と木の注意とか全然できなかったもんなぁ。って気になるとこそこかよ!?っていうね。



あれから一週間くらい経っただろうか。私は今、魔法学校にいます。はい。

きっと古い服を着た茶色い髪の少年に見えるでしょう。カリーナが太鼓判を押してくれました。


授業料もったいないもん!っていうのはもちろん後付の理由だけど。誰にも見つからない場所ですぐに行くことのできる場所が正直他に思いつかなかったから。

魔法学校には老若男女誰でも魔力がある者が通うことができる。学年ごとに教室は違うけれど、好きな授業を選択できるため、いつも多彩な顔ぶれだ。紛れるのにちょうどいい。

頑張って覚えた唯一使える植物向け以外の魔法で髪、まつ毛、眉毛を茶色に変えている。

そして、髪はばっさり切った。

長さを変える魔法は魔力の消費が多すぎるし、誰かさんに触れられたことを思い出しそうだし。思い切ってハサミを入れてしまった。



あの時、勝手にこぼれ落ちた涙が、知らずと拒絶しきれなかった彼への気持ちを私自身に伝えた。


家族の心配に、気にしなくていいから!私なんとも思ってないし!ただ物珍しくて言い寄られてただけだよ!って言えてたら。普段の私らしかったんだと思う。それができなかった自分がショックだった。

家族にはものすごい心配と後悔の念を植え付けてしまったことと思う。それがただただ、申し訳ない。


あの状況からすぐに自分を立て直すことができなくて。

父様が何を思って提案してきたのか、突然顔も知らない遠縁に嫁ぐなんてもってのほかで。


とにかく自分を整理する時間が欲しかった。そして、彼のことを忘れる時間も。

娘が傷心で失踪したとなれば、商会への誹謗中傷も減ると思いたい。

一体なぜそんなにすぐに婚約の話が噂になったのか?ということは冷静になってみると気にはなるけど。


リュージーン様が、自分は跡継ぎが育つまでの盾として使われているんだって言っていたのは覚えているけど、

彼の意見は彼だけのもので、世間がどう考えているかはまた別の話。


やっぱり私は家族が大事で、彼らの生活を揺らがせるなんて選択肢はない。


強引な王子様に想われるっていうことが、私が考えていた以上に私の中に喜びと期待を与えてしまったんだなきっと。

ありえないありえない、一夜の夢って思いつつ。。。カッコ悪。自分。



帽子を被って中庭にホースで水をまいていく。時折反射でできる虹が、瑞々しい新緑が。少しずつ私の心を癒やしてくれる。

学校でこうして生活できているのは、庭師のおじさんとカリーナの協力があってこそ。感謝感謝。



泣きながら荷物を持って転がり込んで、住み込みでしばらく庭師の仕事を教えて欲しい、なんて言いつのる私に、深い事情を訊くでもなく、少しの間ならと、今は使われていない裏庭の夜回り警備用の仮眠室を提供してくれた庭師のおじさん。便利な侵入者用魔術具ができたおかげで校内の警備スタッフだけで間に合うようになったらしい。


シャワー室はあるし、お金はかかるが学食もある。なんとかなる、と隠れるように授業を受けていたが、家出した翌日、リュージーン様の姿が見えた時は肝が冷えた。

慌てて平静を繕って隠れ、様子を窺っていると、どうやら私の数少ない友人たちに私の行方に心あたりがないか訊きにきたらしい。


そこで炸裂したのが、意外なことにカリーナの怒りの爆発だった。

うわぁ、忘れたい人に探されている、、、ってかあの後家に来たりしたのかな?しばらく姿見なかったもんな、と考えていた私の耳に飛び込んできた怒鳴り声。



「行方を知らないか?なんて空々しい!!そもそもあなたが根回しもせずに突然彼女に婚約の申し込みなんてするからこんなことになったんです!!

オリビアがどんな気持ちで身を隠したのか、まだお分かりにならないの?

失礼は承知で申し上げますが、あなたにはたくさん言い寄る方がいらっしゃるはず。もうあの子を探して巻き込むのはお止めください。忘れてあげてください。あの子があなたを誑かしたなんて噂、不愉快すぎますわ。

ローレンス商会のためにも、そうやって彼女を探して、また噂を掻き立てないで!オリビアに、私の親友に二度と会えなくなってしまうかもしれないんですよ?帰ってください!」



……なんか、ものすごくすっきりした。

真っ赤な顔で涙目のカリーナが天使に見えた。


無言で頭を下げて去っていく魔導師。

ハーハーと握りこぶしの親友。


歩き出した彼女を追う。人気のない場所まで来たカリーナがベンチに腰掛け、ため息をついて俯く姿を確認すると、私はそっと彼女に近づいて、その肩に触れた。



顔を上げ、驚いて、抱き合って、泣きながら心配したと言ってくれるカリーナから、はじめて我が家がどうなったのかを聞いた。

急に降って湧いた話でもあったためか、今のところ、噂もそこまで広がる前に沈静化されつつあるようで。

私を心配している家族は多少衰弱しているらしいが、商会が今すぐ潰される、なんてなってなかったことにほっと胸を撫で下ろす。



「それにしても、もう、なんでこんなところにいるのよう!そんなざんばらに切った男の子みたいな髪して、どうして家出してそんな姿になんか……」


「うん……実はあの春の宴でね、、、」



はじめて全部の事情を誰かに打ち明けることができた。客観的に聞くと、なんて変な話なんだろう。

平穏な生活だけしかしてこなかったのに、本当に突然起きたことに振り回されて。。てか冷静になってみると、全部あいつのせいじゃね?みたいな。


カリーナはええっとか、きゃー!とか小声で反応してくれていたけど、話し終えて、もう少し家出をしていたいと伝えるとゆっくり頷いた。



「最初アレク様に聞いた時は、恋愛話なんて聞いたこともなかったからいつの間にって本当に驚いたけど、二回しか接触してないなんて、そりゃあオリビアから話を聞くわけもないわよねぇ……

リュージーン様とお別れするにしてもどうして失踪なんてってショックだったけど、聞いててなんだかわかったわ。

執着っていうのかしら。あの黒王子がって意外だけど、家にいたらなんとかして侵入して探しに来そうだものね……」



逃げるしかないよね、とうんうん頷かれて、その意図はなかったけど、なるほどと思った。

あのまま家にいたら、確かに彼は日夜通ってきそうな気がする。そしてまた私は情に絆されて、、、と。

危なかった、偉いよ私。てかお別れするとか、ほのかーにはじまってすらない気がするんだけどね?



カリーナの屋敷が近いこともあり、私が持ち出してきたものの他に、必要そうな物資を彼女は目立たないように工夫して庭の決まった場所に置いてくれるようになった。そして時折隠れて近況報告をする。


庭の手入れを教わりつつ、授業を受けて。ゆるやかな時間の流れがひりひりした心の傷薬になる……

そう実感しながら見事な薔薇に肥料をやっていた時、その声は耳に飛び込んできた。


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