消える
植物以外には何の関心も示さなかった私が、突然の異性との外食&求婚の申し込み、、、、
『求婚』、ですよ?『球根』じゃなく。結婚という花が咲くやつですよ。
はい、まずなんか大事なものがいろいろとかけてますよね?欠けまくりデスヨネ?
えっと、あの人ってどんな人?私の事どれだけ知ってるの?
てかいつの間に本名バレてるの?どうなってるのそこのところ。。。
初めてまともに会話した日に、両親に向かって婚約を打診されるとか、そりゃ倒れますよ。人生初のことが何かと多すぎますよ。頭が混乱超えて真っ白ぽかんですよ。
バタリと倒れて、意識を取り戻した自室のベッドの上。
窓からは朝日が差し込んでおります。爽やかな朝のようです。
これから両親や兄に(多分嫁いだ先の姉にも)質問攻めにされることでしょう、、、
嫌すぎる、、、いや、でも誤解は怖い。弁解したい。
深呼吸して、ぐっと手に力を入れる。正直、説明することがそんなに無いことが一番怖かったりして。
身支度して居間に向かうと、そこにはやたら暗い雰囲気が漂っていた。
え、、なにこれ身内に不幸でもあったの!?俯いてソファーと椅子にそれぞれ座る両親。朝っぱらから肩落としすぎ、、
「と、父様、母様。どうなさったんですか?」
「お、オリビア……」
ハッと二人が顔を上げる。母様が心配そうに訊く。
「体調は、どう?」
「う、うん。もう大丈夫。それより、どうしたの?この空気。。。あ、私の昨夜の件なら……」
酔狂な魔導師の冗談です、と言ってしまいたかったが、父様に片手で遮られた。
深刻な顔で父様が言う。
「とりあえず朝食を食べなさい。その後、家族皆で話をしよう。……今日は学校は休むんだ」
いつも明るいふとっちょ侍女のサリーが、お茶と軽食を手早く私の前に持ってきて、一瞬私を気遣わしげに見た後、身を翻して奥に戻っていった。使用人たちまで暗いよ、、、?
え、え、何なんですかこの重い感じ。なんかしら叱られるのかしら、、そういう家だったっけ?
だって、姉様が結婚するって言った時は皆で笑いながらからかって馴れ初めを聞いて……楽しく……
うう、私が自由奔放にあの男拾ってきたと思われてる??まだ処女だから!そこまで許してないから!とか、こういう時ぶっちゃけちゃっていいものなんだろうか。。
経験値がなさすぎてわからない……
急に失せた食欲。サンドウィッチをもそもそと少しだけ口にして、紅茶を飲む。
そして私が食事を済ませたことを確認し、母様が兄様を呼びに行った。今度はサリーが珈琲を四人分置いて下がる。ごくりと喉がなる。怖すぎるんですけど。。何が起こるの?
兄様もうなだれた様子で、私を見ると、何故か涙を拭うかのような仕草をされた。ええー!!?
そして父様が口を開く。
「オリビア……お前のことを私達家族は心底愛している。
だが……すまない、彼には、、お前を嫁がせられないんだ。本当に、すまない……やっとオリビアが見つけてきた恋人だというのに、ううっ」
そう言って三人が手で顔を覆い、嘆いた。え???え、、、えと。混乱する私の前で母様が目を赤くしながら言う
「ぐす、まさか、オリビアがあんなに素敵な殿方を連れてくるなんて、ぐすん、さすが、私の娘って……
嬉しかったのだけど……まさか私達があなた達を引き裂いてしまうことになるなんて……」
「すまない、恋愛なんてさっぱりだったお前が、いつの間にって、驚いたけど、嬉しかったんだ。それは本当だ、オリビア。だが、僕が不甲斐ないばかりに……くっ、、カリーナにもどう顔向けしたらいいのか……」
「……父様、母様、、兄様、、全然わかりません。。なんでそんなに嘆いているの?もちろんいきなりあんな人が婚約者って言ったら驚くと思うけど……」
父様が、テーブルに置いてあった白い紙を私の前に置く。
「オリビア。知っての通り、だとは思うが、リュージーン・スプートニク様は上級貴族の跡取り息子だ。
そして、その見目麗しい姿は、多くの女性を釘付けにしているという。お前がどうして彼と知り合い、婚約話が出るまでに至ったのかは聞かないが、噂はすぐに回るだろう。……言い難いことなんだが、私達の仕事は……わかるだろう?」
聞きながら、白い紙を広げて、息を呑んだ。
紙には、殴り書きのような誹謗中傷。それは私宛、ではなく、ローレンス商会に向けてのものだった。
『男たらしの娘を持った商会とは今後の取引を中止することも止むを得ない、婚約について、そなたたちの英断を期待する』『娘を別れさせろ、商人の分際で生意気な』『商人と上級貴族の婚約など思い上がりにも程がある』
ゾッとした。まさか私が学校で恐れていたことが、家族宛にこうしてやってくるなんて!!
もちろん、腹が立つ。同じ人間として、最低の汚いやり方……
でもローレンス商会(私の家)にとっては、もっとも効果的な、脅し。
「……応援して、やりたかった。お前の初恋を」
そう言ってうなだれる大事な家族。こっちのほうが申し訳ないよ、皆。そもそも、知り合ってから話した機会数えても二回だけだし……姿形以前に身分が違うもん。王女に言い寄られたって聞いたんだった。そんな人が私の横にいてくれるわけなかったんだよ。当たり前だよ。おかしいな、もはや笑えるわ。
「……オリビア……」
ぱたぱたとテーブルに、白い手紙に落ちるしずく。あれ?変なの、なんで。
……なんで涙なんか出てくるんだろう。